忌野清志郎の
バンドマンとしてのビギニング
RCサクセション初期の傑作
『シングル・マン』

R&B、フォーク、
ロックンロール、サイケetc.

オープニングM1「ファンからの贈り物」は軽快なキーボード、ギター、ブラスセクションに彩られたイントロから始まるナンバー。ドラムのバランスがやや後ろで小奇麗な感じもするけれど、完全なバンドサウンドで、この時のRCは清志郎、小林に破廉ケンチ(Gu)を加えた3人であったものの、そもそも清志郎はフォークトリオみたいなことをやろうとしていなかったことがはっきりと分る。ファンキーでソウルフル。間奏のトランペット、サックス、ギターのソロ廻しも、いかにもバンド的だ。歌のメロディーも今となっては清志郎らしい。ハーモニーによるCメロの《ファンからの贈り物 どうもありがとう》の箇所を、GAROっぽいとかTHE ALFEEっぽいとか言うと、いずれのファンにも怒られるかもしれないけれど、清志郎もCrosby, Stills, Nash & Young辺りからの影響があったというから、似通って当たり前だろう。

小林がメインヴォーカルのM2「大きな春子ちゃん」はアコギ基調で、今回聴いて“子供の頃の自分はこういうのが何か嫌だったんだわね”と思ったりもした。コーラスワークもM1のCメロに近く、やはりフォーク寄りではあると思う。ただ、事はそう単純ではない。ストリングスの重ね方はアメリカンな印象もあるし、アウトロ近くにはドゥワップ的なコーラスも聴こえてくる。ドラムのフィルも多彩で、いわゆる日本のフォークとは一線を画していたと思う。お子様にはそれが分からなかった。

続く、M3「やさしさ」は「スローバラード」がシングルリリースされた際、そのB面に収録されていたナンバーで、今思うとB面らしいと言えばB面らしい楽曲ではあるように思う。とにかく進行が面白い。いや、はっきり言えば妙な進行である。マーチングビートに乗ったキラキラとしたシンセ(たぶんシンセ)から始まって、冒頭こそ歌メロも親しみやすいのだけれど、《ずるい人だ 君は》のあとで転調。《(ずる ずる ずる ずる・・・・)》以降は何か不穏な空気が支配していく。清志郎のシャウトも延々と続き、かなり狂気じみた感じ。ここのパートは何かが決定的に壊れたような印象がある。その後、再び親しみやすいパートに戻るものの、アウトロでのブラスの鳴りにはまだ少し狂気が宿っているようで、聴いていて何とも居心地の悪さがある。まったく一筋縄ではいかない。“そう言えば、当時聴いた時もこの辺がよく分からなかったなぁ”なんて、また記憶が蘇った。バンド編成じゃないことやフォーキーな感じもさることながら、当時の自分はこうした変化球も馴染めなかったのだと思う。

M4「ぼくはぼくの為に」はロックンロールで、跳ねたピアノやシェイカーでスピード感を出したリズムが、のちの「ダーリン・ミシン」(アルバム『PLEASE』収録)辺りにも似た雰囲気。所々でシャウトもあって、だいぶワイルドではある。その意味では、バンドでのRC好き、即ちお子様の自分も好まれそうなカッコ良いナンバーだが、たぶんM3を敬遠したことも影響したのだろう。M3に続くM4を当時積極的に聴いた記憶がない。

その後のM5「レコーディング・マン(のんびりしたり結論急いだり)」も不思議な楽曲だ。こちらは超変化球と言ってよかろう。前衛的というか実験的というかサイケデリックというか、今も何と表現していいか分からない。『シングル・マン』は当時B面ばかり聴いていた…と前述したが、それはバンドでコピーするためでなく、M3とM5を聴こうとしなかったからだったような気もしてきた。

M6「夜の散歩をしないかね」はメロウなピアノによるジャジーな逸品である。清志郎の歌は相変わらずだが、アレンジはちょっと大人っぽい。もしかすると、この辺の垢ぬけた感じも子供には分からなかったのかもしれない…と、これまた今思った。つまり、『シングル・マン』はバラエティー豊かすぎるのだ。LPのA面だけでもR&B、フォーク、ロックンロール、サイケ、アヴァンギャルドと、まるで雰囲気の違う楽曲が収められている。今、聴くと、“よくぞ、これだけ個性的なナンバーを集めたものだ”と、清志郎たちのクリエイティビティに驚く。その後の音楽シーンで縦横無尽に八面六臂の活躍を見せた忌野清志郎というアーティストのビギニングを見るかのようだ。

OKMusic編集部

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