SIAM SHADEが『SIAM SHADE IV・Zero
』で見せた、妖刀の如き見事な切れ味

リアルタイムで彼らのデビュー時を見ていない人でも、ギターのDAITAが長きにわたって氷室京介のサポートギタリストとして活動し、ドラムの淳士はSound HorizonやLinked Horizonの作品やライヴに参加。また、ベースのNATIN はAnchang(SEX MACHINEGUNS)とANNIE(ex.THE YELLOW MONKEY)らとともにバンドを結成という、メンバーのその後のキャリアを知れば、SIAM SHADEというバンドがいかにテクニシャンが集まったバンドだったかを想像していただけると思う。結成20周年の今年、周年イベントも決まり、何かと話題のSIAM SHADEを再検証する。

 初めてSIAM SHADEのライヴを観た時の衝撃は今もはっきりと覚えている。あれは1995年の春だったと記憶している。ということは、彼らがメジャーデビューする前だ。3〜4バンド出演のイベントライヴで、対バンが誰だったか忘れたが、他は所謂ビジュアル系バンドだった(気がする)。とにかく彼らのテクニックが素晴らしく、他に比べて頭ひとつどころか、三つ、四つ抜けていた。正直言ってSIAM SHADEのことはノーマークだったが、身を乗り出して見入った。この日のライヴに誘ってくれたイベンター氏が筆者のその姿を見て、今で言う“どや顔”で笑っていたことを思い出す。以後、拙者は彼らと縁がなく、ついぞ取材の機会には恵まれなかったが、この体験が強烈すぎて、“SIAM SHADE=若いのにバカテクなバンド”という印象が焼き付いた。
 ひと言で片づけるのも乱暴かもしれないが、SIAM SHADEはハードロック、へヴィメタルの系譜に位置するバンドだ。このハードロック、へヴィメタルというジャンルは、ある意味ロックの王道である。日本でもロック黎明期の60~70年代からこのジャンルに分けられるバンドは存在していたし、80年代前期にはLOUDNESS、VOW WOW、EARTHSHAKER、44MAGNUM、80年代後期にはD'ERLANGER、DEAD ENDといった後の邦楽シーンに多大なる影響を与えることとなるレジェンドたちが活躍していた。しかし、当時の音楽業界では(特に80年代初頭までは)「ハードロックは売れない」が定説になっていたようなところがあり、一部好事家たちのものといった印象が強かったことは否めない。例外は積極的に芸能シーンに分け入った聖飢魔IIであったが、こちらはこちらで当初はマニアから全否定されたり、正当な評価を得るまでは時間を要した。ハードロック、へヴィメタルが一般層に浸透したのは、何と言ってもX(現X JAPAN)の功績が大きいのは間違いないが、SIAM SHADEがシーンに及ぼした影響も決して小さいものではない。その辺を彼らのオリジナルアルバムで最高のセールスを記録した『SIAM SHADE IV・Zero』を肴に語ってみよう。
 SIAM SHADEを「歌メロがキャッチーすぎて…」と揶揄する声は当時からも聞いたが、これは完全に的外れな批判。ハードロック、へヴィメタル、もっと言えばそもそもロックはキャッチーなものである。「歌メロがキャッチーすぎて…」というのは、それだけ彼らの歌メロが秀逸な証拠で、何ら揶揄されるべきものではない。注目すべきはSIAM SHADEの場合、歌メロがキャッチーすぎるというよりは、ある部分でヴォーカルパートを強調するアレンジ、あるいは歌メロを強調すべくミキシングがなされたことではないかと思う。昭和40~50年代の「ハードロックは売れない」が定説になった要因、すなわち一般層にハードロック、へヴィメタルが浸透しなかったのは、そのひとつに楽器パート──特にギターソロやドラムソロのテクニカル指向があったのではないかと想像する。これはあくまで私的見解だが、やはり昭和のポピュラー音楽シーンはどう考えても歌謡曲が中心。昭和40年代初頭のグループ・サウンズにしたところでヒット曲のほとんどは歌モノであり、当時少なくとも大衆がバンドサウンドを云々するようなことはなかった。ロックミュージックのダイナミズムにはギターやベース、ドラムスは欠かすことができないことは今となっては言うまでもないし、ロックフェスが当たり前のようになった今となっては多くのリスナーもそれを実感しているのだろうが、そうなるまでは何世代かの時間経過が必要だったというわけだ。聖飢魔IIやXはバンドのビジュアル面を強調することで間口を広げ、一般層を取り込み、その音楽性を浸透させたが、SIAM SHADEは持ち前のメロディセンスを前面に出すことで先達が開いた地平にさらに切り込んだ。
 まぁ、とはいえ、彼らとて最初からその戦略があったわけではなく、メジャーデビュー作「RAIN」から「PASSION」までのシングルはギターが前面に出ている箇所が少なくないし、いかにもハードロック的なアプローチが目立つ。無論これはこれで今聴いても超カッコ良いのだが、前述の通り、大衆の心を鷲掴みにするものではなかった。初期はツアーごとにショートコントムービーを作るなどコメディーに走ったこともあったそうだが(その頃のライヴは未観)、これもファンサービスとしては悪くはなかっただろうが、決して外に向かう行為とは言えなかったであろう。SIAM SHADEのブレイクポイントは6枚目のシングル「1/3の純情な感情」のスマッシュヒットであるが、このナンバー、テレビアニメ『るろうに剣心』のタイアップがあった以前に、実によくできた楽曲である。まず所謂サビ頭であること。これが大きい。頭サビ開けにイントロからサウンドは密集型になるのだが、それにしても「RAIN」や2ndシングル「TIME’S」ほどではなく、BメロなどはSIAM SHADEのもうひとつの特徴である栄喜(Vo)とKAZUMA(Gu&Vo)とのツインヴォーカルが際立つ格好だ。かと言って、ギターがないがしろにされているわけではなく、ソロパートではしっかりギターが前に出ているばかりか、後半へ進むに従ってストロークとアルペジオというツインギターのコントラストが効果的に歌メロを彩っていることにリスナーは気付くという構造が何とも素晴らしい。
 シングル「1/3の純情な感情」のヒットを受けるかたちで、そのわずか2カ月後に発表されたアルバム『SIAM SHADE IV・Zero』。このアルバムの作りも心憎い。オープニングM1「Dear...」はこれまたサビ頭で、後にベスト盤の収録曲を決めるファン投票で1位を記録したキャッチーなナンバー。「1/3の純情な感情」から入ったリスナーにとってこの上ないアルバムの幕開けだが、そればかりか、この歌詞はファンに対する謝辞を綴ったものだというから驚く。《同じ瞬間を時代を過ごせる奇跡に 少しだけ気付いてくれ》といったメッセージを、言わば新旧ファンに贈った楽曲なのである。この心遣いには恐れ入る。M2「No! Marionette」で正統派のハードロックを聴かせ、M3「1/3の純情な感情」を経た後でM4「Bloody Train」に辿り着くという構成も実にお見事。「Bloody Train」はプログレである。サビはやや和メロ風でしっかりキャッチーながらも、《危険な狂気を乗せて 荒れ果てた時代を駆け抜ける》という歌詞に呼応するかのような、楽器隊は奔放かつマニアックなアプローチを見せる。パンキッシュなM5「Money is king?」、王道のミディアムバラードM6「誰かの気持ちを考えたことがありますか?」を挟んで披露されるM7「Virtuoso」もまたすごい。速弾きあり、ツーバスあり、ピアノありと、伝統的なハードロックへのオマージュがありつつ、オリエンタルなギターが変拍子気味な全体を引っ張るインスト曲だ。ちなみにタイトルはイタリア語の音楽用語で、「演奏の格別な技巧や能力によって完成の域に達した超一流の演奏家」の意味があるらしい。このアルバム、出だしこそポピュラリティーが高いものの、中に進んでいくと、どんどん彼らの本性が出てくる。この表現がベストかどうか分からないが、筆者は《羊の皮を被った狼》という言葉を思い浮かべてしまう。後半のM8「if ~ひとりごと~」、M9「Love Vampire」、M10「PASSION」から、重いリズムにハードなギターアプローチで、収録曲中最もノイジーなM11「Shout out」で締めくくり辺りは、往年のハードロック少年、へヴィメタル少年も十分納得の完成度である。《行きはよいよい 帰りはこわい》──これは明らかに間違った言い方だが、『SIAM SHADE IV・Zero』のニュアンスは分かってもらえるのではないかと思う。そんな気にもなるアルバムだ。
 しっかりとした大衆性の中に名刀の切れ味を隠し持ったバンド、SIAM SHADE。2011年に「1/3の純情な感情」がFLOWによってカバーされたほか、多くの俳優、女優によっても歌われてきた。この辺はテレビアニメのタイアップが手伝ったことは確実だが、これもSIAM SHADEの功績のひとつと言えるだろう。彼らは2002年に解散したものの、13年に活動を再開。近いところでは、2015年6月27日・ 28日に開催されるLUNA SEA主宰のロックフェス『LUNATIC FEST.』出演する(SIAM SHADEの出演は6月27日)。ちなみに淳士(Dr)はLUNA SEAの真矢(Dr)に憧れてドラムを始め、一時期LUNA SEAのローディーをしていたという、まさしく師弟関係でもある。また、10月18日には、さいたまスーパーアリーナにて、デビュー20周年ライヴ『SIAM SHADE 20th Anniversary year 2015-2016 「The Abiding Belief」』も決定している。ここに来て何かと話題のSIAM SHADEである。

著者:帆苅竜太郎

OKMusic編集部

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