ASIAN KUNG-FU GENERATIONが真っすぐ
にリスナーとの繋がりを訴えた『君繋
ファイブエム』

12月17日より、結成20周年ツアー『ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2016-2017 「20th Anniversary Live」』がスタートするASIAN KUNG-FU GENERATION。11月には2014年に発表した2ndアルバム『ソルファ』を新たなアプローチで再録した作品をリリースしたばかりで、相変わらず慣例に捕らわれず、独自のペースで活動を展開しているのは何とも彼ららしいところだ。本コラムでも『ソルファ』を…と言いたいところだが、この作品についてはメンバー自身が様々な媒体で解説しているので、ここはメジャーデビュー作『君繋ファイブエム』でASIAN KUNG-FU GENERATIONというバンドの歴史を振り返ってみたい。

遅咲きのメジャーデビュー

ASIAN KUNG-FU GENERATION (以下AKG)は大学の軽音楽部員に同士よって1996年に結成された。メジャーデビューは03年で、初の公式音源であるミニアルバム『崩壊アンプリファー』にしても02年の発売だから、結成から表舞台に出るまで6~7年を有している。後藤正文(Vo&Gu)、喜多建介(Gu)、山田貴洋(Ba)の3人が楽器を始めたのはバンドを組む3カ月前頃だったというから、それもまた仕方なしといった具合だったのだろうが、結構な遅咲きであったことは間違いない。しかも、大学卒業後、会社員を続けながらAKGをやっていたというのだから──この言葉が合っているかどうか分からないが、いい意味でかなり“執念深い”若者たちではあったようだ。何でも上記3人にとって初めて組んだバンドがAKGであったということもあって、思い入れも一入だったのだろう(ちなみに、伊地知潔(Dr)は中学生の頃から全国レベルのマーチングバンド部で活動していたそうだ)。その間、心が折れそうになる瞬間も一度や二度ではなく、何度もバンドを止めかけたそうだが、地道にライヴ活動を展開。オンボロの車に機材を積んで各地へ足を運び、自主制作音源をライヴハウスで手売りしていたという。ライヴバンドとして真っ当すぎる活動…いや、愚直と言い換えてもいい行動だが、今となると、それもAKGらしい動きだったと言える。

ライヴバンドへのこだわり

AKGのメジャー1stアルバムは『君繋ファイブエム』という。まぁ、AKGのファンやリアルタイムで聴いたリスナーには説明不要だろうが、このタイトル、やはり予備知識が何もない人とっては“?”だろう。発表から13年。若い世代の読者もおられるだろうから、改めて説明すると、君繋は“きみつなぎ”と読む。文字通り、“君と繋がっていたい”という思いが込められている。ファイブエムは“5m”。5メートルということである。つまり、このタイトルは“君と繋がる距離は5メートル以内”、あるいは“君と繋がっていたいが、その限界は5メートル”という意味だ。歌詞、サウンド云々以前にこのアルバム名がそのまま、AKGのスタンスを表していると言える。Windows 95の登場が文字通り95年で、AKGがインディーズで活動していた頃はインターネットがすでに広まっていた時期であり、積極的にネットを使い始めていたバンドも少なくなかったと記憶しているが、彼らも音源をネットで販売していたものの、基本は5メートル以内でのコミュニケーション、すなわちライヴバンドにこだわっていたことがこのタイトルからうかがえる。

「未来の破片」に託されたもの

無論、その音にも“君繋ファイブエム”のスタンスは十分に感じ取れる。何しろアルバムにも収録されている1stシングル「未来の破片」からして、その印象が強烈だった。ノイジーかつザクザクと迫るギターリフ。オープンのハイハットが強調された爆裂感のあるドラムス。フィードバックのノイズのあと、さらにもう1本のギターとベースが重なり、グイグイと楽曲がドライブしていく。わずか20秒程度のイントロからロックバンドならではのカタルシスがビシバシと感じられる。筆者が最初に聴いたのは確か深夜のAMラジオだったと思うが、そのサウンドの荒々しさにかなりグッと来たことを思い出す。歌の迫力にもやられた。決して声質そのものに迫力があるというわけではない。その少年っぽさを残す声はむしろ弱々しいというか、どこか寄る辺ないタイプに分けられるかもしれないが、楽曲が進むに連れてその声がどんどん力強さを増していく。いや、誤解を恐れずに言うならば、無理やり力を振り絞って前向きさを促しているようなガッツが感じられる。サビの後半、高音に抜けるところに至っては音程が取れていない印象すらある(ブレイクのファルセットとか、明らかに声がかすれている)。でも、そこがいい。どこか逼迫した感じ。歌詞以前にこの楽曲には何かとても大事なものが託されているような印象すらある。簡単に言うと、「俺の歌を聴け!」である。

荒々しくも聴きやすいサウンド

この「未来の破片」がエッジの立ったギターサウンドでスリリングに迫るM1「フラッシュバック」からつながる2曲目に配されている時点で、アルバム『君繋ファイブエム』が名盤である条件は十分に整ったと言える。端的にメッセージが込められたアルバムタイトル。オープニングからガツンと来るロックサウンド。リスナーの意識は冒頭からこの作品の中身に集中していく。“ガツンと来る”と言った「未来の破片」も歌のメロディーはキャッチーでメロディアスだから、サウンドは荒々しいが全体に粗野な印象はない。M2以下、明らかにノイジーさが前面に出ているのはM4「アンダースタンド」、M8「N. G. S」辺りで、2ndシングルM11「君という花」を始め、M3「電波塔」やM5「夏の日、残像」とポップチューンがほとんどだ。この辺にもAKGがリスナーに向けて──これがデビュー作ゆえに特定のファンに向けて…というよりも不特定多数の聴き手に向けて、まさに繋がろうとしている意志を垣間見ることができる。楽曲の構成にちゃんと抑揚がある上、言葉がしっかりと音符に乗っている印象が随所にあって、聴いていて飽きない。それでいて、AKGの特徴とも言えるチャイナ風のメロディーがアクセントとなって、単調になることも回避されている。バランスがいいのである。

00年代のロックシーンをリード

歌詞は先に書いた通り。“君との繋がり”が綴られたものがほとんどだ。
《些細な言葉や何気ない仕草で/綻ぶ思いをただ確かめたい僕の歌》《繋いでいたいよ/君の声が聞こえた日から萌える色/伸ばした手から漏れた粒が/未来を思って此処に光る》(M2未来の破片)。
《アンテナ拾った言葉から 繋いだよ途切れる声/アンテナ伸ばして放つから 繋いでよ僕のすべて》(M3「電波塔」)。
《軋んだその心、それアンダースタンド/歪んだ日の君を捨てないでよ》《光らない心、それでも待つ明日の/掴んだその手だけ離さないでよ/響かない時を駆け抜けてく間も願うよ/きっといつか…》(M4「アンダースタンド」)。
《研ぎ澄んだ感覚/君をもっと僕をもっと感じて僕らは飛ぶ/広げた両翼/風をもっと希望もっと/僅かに羽ばたくグライダー》(M6「無限グライダー」)。
《ここから僕のスタート/そうさすべてが窄(すぼ)み行くとも/ここから君のスタート/その手伸ばせば目の前さ、ほら/広がりゆく未来へ》(M10「E」)。
この付かず離れずの絶妙な距離感は当時の若い世代のリスナーの圧倒的な支持を得た。ここからは完全に邪推なのでそのつもりで読んでもらいたいが、AKGがデビューした03年前後の音楽シーンは所謂ディーバー全盛期。02年には年間売上げの上位を宇多田ヒカル、浜崎あゆみ、MISIAの3人が占め、その他、中島美嘉、元ちとせらもチャートを賑わせていた頃だ。2ndアルバム『MESSAGE』の大ヒットでモンゴル800が一人気を吐いていたものの、00年にHi-STANDARDが活動を休止して以降、全体的にロックバンドは元気がなかったと言える。そこにAKGはバシッと繋がったのだろう。一気に大衆の支持を得た。
以後、ロックフェス『NANO-MUGEN FES』を主催したり、後藤がGotchの名前でソロ活動を行なったり、邦楽シーンに欠かせないバンドとなっていることは言うまでもない。

著者:帆苅智之

OKMusic編集部

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