THE STAR CLUB、ついに結成40周年に
到達! メジャー第一弾『HELLO NEW
PUNKS』を回顧する!!

THE STAR CLUBが結成40周年記念ツアー『GIGS 2017 FORTY TOUR』をスタートさせる。3月19日の大阪を皮切りに7月1日の名古屋ファイナルまで続き、その後、東京・渋谷での40周年記念スペシャルGIGSでフィナーレ。例年以上に長期で、なおかつ公演数もセットリストも多いという、流石に気合いの入ったツアーだ。ロンドン、ニューヨークでのパンクムーブメントの直撃世代で、結成以来、その歩みを止めることなく活動を続け、まさに“パンクを極めてきた” THE STAR CLUB。世界にも類を見ないバンドであろう。恐縮ながら個人的な思い出とともに、80年代前半の彼らを振り返ってみた。

パンクならではのDIY精神

本稿作成のためにTHE STAR CLUBのwebサイトを見ていたら、ブログ内にHIKAGE(Vo)が記した興味深い文章を見つけた。やや長くて恐縮だが、以下に引用させていただく。
《レコーディングのスタイルも昔とはずいぶん変わった。色々な面で利便性は良くなったが、かと言ってそこに吹き込もうとするものへの思いが変わるわけじゃない。アナログからデジタル、レコードからCDへ。そして今は盤もないダウンロード配信へと音楽は変遷して来た。俺の周りにもYouTubeやApple Music等の聞き放題の類いだけで音楽を手に入れ、CDには手を出さない奴も実際にいたりするが、まさに自らの首を絞めつけてるようなものだなと思う。簡単に手に入れば入るほど、モノの価値は薄くなって行く。音楽ももちろん同じで、そんな中じゃ音楽は音楽以上の意味を見出さなくなって行く。ただそれがもういまの時代の在り方で否定する事は出来ないので、俺たちのような連中はどう向き合って行くかが問われるのだが》(THE STAR CLUB公式webサイト『SLASH WITH A KNIFE』 2017年03月10日)。
アナログからデジタルへの変遷期を送り手として向き合ってきたアーティストならではの考察で、《簡単に手に入れば入るほど、モノの価値は薄くなって行く》とは辛辣だが正鵠を射ていると思うし、賛同する。というのも、筆者自身、HIKAGEが言うところの“モノの価値”を、他ならぬこのTHE STAR CLUBで感じたことがあるからだ。このブログを読んで記憶が蘇ってきた。私事で恐縮だが、少し述べさせていただきたい。あれは1983年頃だったと思う。それこそネット経由でどんな音源でも入手可能な現在と違って、東名阪、福岡、札幌といった大都市以外で、自主制作盤を手に入れるのはそんなに簡単なことではなかった。そもそもそれを販売する店舗が少なかった。自分が住む街にはまったくなかったわけではないが、生活圏には多分1、2軒だったような記憶があるし、いずれも品揃えが豊富というわけではなかったことは間違いない。中古盤屋を兼ねていたような気もするが、今となっては定かではない。町田町蔵(現:町田康)率いるINUがアルバム『メシ喰うな!』を発表したのが1981年。同じ頃、THE STALINがスキャンダラスなライヴパフォーマンスで話題になり、メジャーデビューしたのが1982年。LizardやP-Modelらが集ったオムニバスアルバム『レベルストリート1』も同じ年だ。ブームになりつつあったパンク、ニューウェイブに興味を持っていた筆者は、それらのレコードを漁りに件のショップに行ったものだった。そこでTHE STAR CLUBのフライヤーを見つけた。モノクロのペラものだったと思うが、そこには革ジャンを着たいかつい男たちの姿と、Sex Pistolsのアートワークを模したグラフィック。一瞬で“これはヤバいものだ”ということが分かり、即効持ち帰った記憶がある。その後にソノシートだったかカセットだったかは忘れたが彼らの音源を入手して聴いてみると、メロディーはキャッチーでリズムはタイト。まさしく正調なるパンクロックで一気にはまった。特にライヴ盤『HOT & COOL』をよく聴いた。学生で金もなくて何枚もレコードを買えるはずもなかったので、おそらくこれ1枚に絞って購入したのだろう。その辺の記憶もあやふやだが、カセットにダビングして愛でるように聴いた覚えがある。まぁ、その後、THE STAR CLUBはメジャー進出するわけで、そこでフライヤーを手にしなかったにしても、いずれは彼らに触れただろうが、まだ“インディーズ”という言葉すら一般的ではなかった頃、自らの拡販に努めたパンクならではのDIY精神は当時、THE STAR CLUBが活動していた名古屋から500キロは離れていた田舎町にもちゃんと伝わっていたということだ。たかだかペラもののフライヤーだが、そこに込められた彼らの熱は冷めることなく、リスナー=筆者の購買行動を促したのである。

R&Rの基本に忠実なサウンド

そのTHE STAR CLUBは1984年にアルバム『HELLO NEW PUNKS』でメジャーデビューを果たす。我がことのように喜んだ…というのは流石に調子に乗りすぎだが、何だか嬉しかった覚えはある。そして、このアルバムもよく聴いた。待望の新作であったことは間違いないが、M2「HELLO NEW PUNKS」、M3「MIDDLE CLASS FREAKS」、M4「SHIT」、M5「KICK ABOUT」は『HOT & COOL』にも収録されていたライヴでの定番曲でもあったので、若干セルフカバー作として捉えていたような記憶もある。余談だが、その昔、インディーズで活躍したバンドのメジャー第一弾というと過去曲のリメイクが多かった印象があるが、最近そういうことをあまり聞かないのは、インディーズでも音源の制作と流通が容易になったことが関係しているのだろうか──。さて、その『HELLO NEW PUNKS』の内容であるが、“メロディーはキャッチーでリズムはタイト”と前述したが、今作の特徴もまさしくそうである。リフレインを8ビートでグイグイと押す。タイトルチューンを始め、M7「ガキ反乱(アンファン・テリブル)」、M8「WORLD PEACE」が顕著だが、少なくとも初期THE STAR CLUBの音楽性はここに尽きるのではないかとすら思う。この辺はSex PistolsやThe Clashといった元祖パンクバンドのマナーに則った結果と考えられるが、考えてみればキャッチーなメロディーのリフレインをビートに乗せるというのはThe Beatlesもそうで、R&Rの基本とも言えるであろう。つまり、THE STAR CLUBは基本に忠実なR&Rバンドなのである。

現在にも通じる前向きな歌詞

『HELLO NEW PUNKS』の歌詞に関しては、発売当時、メロディーとリズム優先というか、言わば勢いに任せて聴いていたようなところがあって、恥ずかしながら言葉をじっくり吟味していた覚えがない。当時の日本のパンクバンドの歌詞はよく分からないものが多かったことも若干影響したのだろう。後の芥川賞作家・町田康が書いたINUにしても、遠藤ミチロウのTHE STALINにしても、今となればその歌詞の深遠さを少しは感じとれるが、いかんせん盆暗学生にその文学性が分かろうはずもなかった。簡単に言えば、歌詞は重視してなかったのである。ところが、今回、歌詞をチェックしていて、THE STAR CLUBの歌詞の重要性を再認識させられた。退廃感が前に出ているのは否めないが、Hi-Standardや青春パンクにも通底する前向きなスピリッツがはっきりとそこにあるのである。
《Hey boy, 先を見てりゃおつむが禿ちまう/醒めてみたところで良くはなりゃしねえ/「そんな年じゃない」って若さを恥るな/俺たち 今が全てさ 気楽にいこうぜ》《Hello, new punks 派手にやろうぜ/びくつく暇はない/思い通りに/派手にやろうぜ!》(M2「HELLO NEW PUNKS」)。
《気にいらないなら突き返せ/そいつが理由だ/堪えられないならやめちまえ/立派な理由だ/自分の心に素直に従い/これ以上の理由があるものか/欲しい物は手に入れろ/遠慮はいらない/言いたい事は言えばいい/お前の自由だ/そいつを誰に文句が言える?/俺たちが社会の象徴だ/Kick about all!/理由はあるのさ》(M5「KICK ABOUT」)。
《見る事さえその目で/聴く事さえその耳で/その気になりゃ/伝えることもその口で/かぐ事もその鼻で/Limit!/できない事は数少なく/できる事もほんのわずか/分かっちゃいないお前》(M12「L」)。
パンクのDIY精神もしっかりと注がれている。欧米のマナーに従ってか、日本の初期パンクも反逆の意味合いが色濃く、THE STAR CLUBにも少なからずその傾向があったことは本作でも確認できるが、そこに留まることなく、しっかりと未来を示そうとしたところにHIKAGEのアーティストとしての真摯さがあると思う。
また、30数年前のリリックだからこそ味わい深い下記のような内容がある一方で──。
《システムの中に我々は存在/でも経済大国を支えているのは/他ならぬ我々の平素の努力/個人尊重こそ繁栄への道標》(M6「冗談本気」)。
《World peace, その鍵は米ソの腕の中/その答えは愛か核か?》《緊迫の現在図 一発即発/プッシュボタン一つが人類の結末/誰にだって百も承知/始める気なんてないけど/まさかいつも世の常》(M8「WORLD PEACE」)。
当時の日本のパンクバンドとしては稀有で、むしろ今の時代にジャストフィットすると思われる歌詞もある。
《民族なんて飛びこえ/国境なんて飛びこえ/Feel the earth/宗教なんて飛びこえ/主義なんて飛びこえ/性別なんて飛びこえ/年齢なんて飛びこえ》(M9「地球の鼓動」)。
この“ラヴ&ピース”はジョン・レノンの影響だと推測できるが、その辺からもTHE STAR CLUBは基本に忠実なR&Rバンドであることが分かる。基本に忠実であったからこそ、40年間の長きに渡って活動することができたのだろう。今こそ、再評価されてしかるべき、レジェンドである。

著者:帆苅智之

OKMusic編集部

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