UAの原点を感じることができる1stに
して大ヒット作『11』

歌手活動20周年を迎えたUAが約7年振りとなるオリジナルアルバム『JaPo』を5月11日にリリースする。タイトルはアイヌ語で“陸の子”を意味する言葉に由来していて、UAのメイクは縄文美術にインスパイアされたものだというが、いかにも彼女らしい。1995年にシングル「HORIZON」でデビューを果たしたUAは朝本浩文がプロデュースを手がけた「情熱」のヒットでブレイク。そのエキゾティックで鮮烈なビジュアルと憂いと野性味を兼ね備えたヴォーカルがシーンを騒がせることになる。そんなUAの記念すべき1stアルバム『11』はサウンドのアプローチが変化しても音楽を通して伝えたい本質が今、現在もブレていないという意味で“原点”と言える作品だ。ざっくりと言ってしまえば人間もまた自然の一部だというメッセージ。UAは当たり前で忘れてしまいがちなことを体現し続けている歌い手であり、芸術家である。

絶対的な“孤独”を内包しているヴォー
カリスト

京都の嵯峨美術短期大学中にジャニス・ジョップリンやアレサ・フランクリンといった個性爆発型シンガーに影響を受け、シンガーになることを決意したUAは1994年にジャズクラブで歌っているところをスカウトされ、デビューを果たすことになる。初めて彼女の歌声に触れた時は「とんでもないシンガーが出てきた」と思った。ソウルフルで歌の上手い女性シンガーは数多くいるが、彼女の歌声の奥には何とも言えない哀しみが漂っていた。と同時に、その声は大地やどこまでも広がる空をも感じさせてくれた。寂しいとかセンチメンタルな意味ではなく、UAの歌は絶対的な“孤独”を内包しているのである。そういう意味でも、2000年に浅井健一とAJICOを結成し、活動していたのには思わず納得。UAと浅井健一、ふたりの表現者にはジャンルは異なれど同じ匂いが漂っていたからだ。
現在は4人の子供の母親でもある彼女だが、『11』をリリースした時はまだ24歳。どんな人生を歩んできたのだろうと思わせる深みと説得力のある歌はもちろんだが、その肉体を惜しげもなく晒し、こちらを真っ直ぐに見つめるジャケット写真ひとつとっても、この歌い手はタダモノではないと感じる。と同時に、いつまでもミステリアスな生き物のままでいてほしいと思う稀有な存在。現在は沖縄のカナダに暮らし、自然と共に生活しているとのことだが、そんな生き方も含めて本能に忠実なUAらしい。

アルバム『11』

1stアルバムにして、90万枚を超えるセールスを記録した大ヒット作にして、名盤。プロデューサーとして参加しているのは朝本浩文(ex.ミュートビート)、大沢伸一(モンド・グロッソ)、現在もタッグを組んでいる青柳拓次(リトル・クリーチャーズ)、竹村延和、COBAなどそうそうたるメンバーが手掛けた、クラブミュージックをベースに民族音楽のテイストも盛り込まれたサウンドはオーガニックというよりは、コンクリートを感じさせる洗練されたテイスト。そこにUAの有機的で赤い血を感じさせるヴォーカルが乗ることによって生まれる化学反応が何とも神秘的で心地良いアルバムに仕上がっている。
人気がブレイクするきっかけとなった「リズム」やUAの存在を世の中に知らしめた「情熱」のダブヴァージョンも収録。パーカッシヴでゆったりとしたグルーヴとサビの抜けるメロディーが秀逸な「落ちた星」や、のちの「悲しみジョニー」にも通じる憂いと色気を含んだヴォーカルにドキッとさせられる「ゼリー」、本作の中では素朴でシンプルなアプローチで名曲と評価が高い「雲がちぎれる時」、民謡的アプローチの「水色」などリピートして聴きたくなる楽曲が多く、全体的には当時のトレンドを取り入れたサウンドなのに、今聴いても不思議とまったく色褪せていない。UAの存在感のある歌声が真ん中にあるゆえかーー?

著者:山本弘子

OKMusic編集部

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