『GUITARHYTHM』はスーパーギタリス
ト“HOTEI”の原点

1981年にBOØWYとして初のライヴを行なってから35年目の今年、布袋寅泰の動きがかつてないほどに活発だ。2月に欧州でのツアー、3月に日本国内で『布袋寅泰 35th ANNIVERSARY 8BEATのシルエット 2016 【BEAT1】すべてはライヴハウスから』という、文字通りのライヴハウスツアーを行ない、4月には国立代々木競技場第一体育館と大阪城ホールで『布袋寅泰 35th ANNIVERSARY 8BEATのシルエット 2016 【BEAT2】ギタリズム伝説'88~ ソロデビュー再現GIGS』を決行。6月にベストアルバム『51 Emotions –the best for the future-』リリースしたばかりだが、7月には生誕の地、群馬県高崎市でフリーライヴとUSAツアー、8月には東北ライヴハウスツアーとフェス出演、そして9月からは日本国内でのホールツアーと、まさしく獅子奮迅の活躍である。今ここで布袋寅泰の名盤はどうしてもおさえておきたいところだ!

海外でも活躍するリアル“ギター侍”

先日、ベストアルバム『51 Emotions –the best for the future-』のプロモーションでテレビ番組に布袋寅泰が出演していた。朝のワイドショーだったが、そこで「35周年の活動を振り返って、自身の楽曲で一番印象に残っているのは?」といった質問をされていた。「「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」ですね」と答える彼を観て、「まぁ、それはそうだろうね」なんて不躾な突っ込みを頭の中で浮かべていたのだが、それに続く言葉を聴いて思わず正座しそうになった。録画していなかったので正確な言葉は忘れたが、答えは以下のような内容。「『キル・ビル』のテーマだったということで、100名くらいのライヴハウスでも、この曲をやると注目してもらえる」といった主旨だった。100名!? ライヴハウス!? 12年にロンドンへ移住し、現地でもライヴ活動をやっていることは流石に知っていたが、そんな小さな小屋で演奏しているとは知らなかった。日本国内ならアリーナクラスでのコンサートも当たり前のアーティストである。変な話だが、日本でのコネを使えば欧州でもホールコンサートをやれただろう。だが、おそらく彼はそういうことをよしとしなかったと思われる。ことライヴ活動に関しては、81年5月、新宿ロフトを拠点にBOØWYがライヴ始めた時のように、まったくの素の状態で挑んでいたのだ。ギター1本で欧州に挑んだ布袋寅泰。その侍の如き活動姿勢に思わず背筋を伸ばさずにいられなかった。
改めて説明するまでもないだろうが、布袋寅泰は日本屈指のギタリストである。オールタイムでの邦楽史上ナンバー1ギタリストにその名を挙げたとしても、異論のある人は少ないのではなかろうか。BOØWYの初期こそ流石に未だ一般的な知名度は高くはなかっただろうが、BOØWY がホール公演を行なうようになった85年からは常にシーンの最前線で活躍している。ヴォーカリストというカテゴリーなら、それこそ矢沢永吉を筆頭に何人かの名前が思い浮かぶが、ギタリストで30年以上にわたって一線で活動を続けているとなると、彼の他にはなかなか名前が出てこない。布袋以上にキャリア十分なギタリストも少なくないが、彼らが表舞台で持続的に活動してきたかと言うと決してそうではないし、最近では海外でもその名を馳せる日本人ギタリストも増えたが、活動歴で布袋に一歩譲らざるを得ないのではないかと思う(念のために補足すると、彼らが布袋寅泰に比べてテクニックが劣るとかいう意味ではないので誤解のないように)。BOØWYから始まり、ソロ、吉川晃司とのユニット・COMPLEX、そして再びソロと、この35年間、まさに縦横無尽に活躍してきたスーパー・ギタリストである。

ポップで耳に残るフレーズを奏でる

布袋寅泰のギタースタイルは…と言うと、本人が「僕はビート・ギタリスト」だと語っていることから、ビート・ギタリストであることは尊重せざるを得ないが、ヴォーカルのメロディーと拮抗、あるいは時にはそれを超越するメロディアスなフレーズを奏でるギタリストである。これに尽きるのではないかと思う。いい意味で大衆的。キャッチーで分かりやすく、ポップで耳に残る。これはBOØWY時代から一貫している。というか、もう拭い去ることもできないほどに本人の身体に染み着いているものなのであろう。その昔、一部バンドの印象からだろうが、長いギターソロは嘲笑の対象となることも少なくなかった。やれ自己満足だ、やれマスターベーションだといった具合の冷笑だ。だが、BOØWYの登場でその認識が改まったリスナーも多かったのではないだろうか。例えば、「Marionette -マリオネット-」。あのイントロはサビメロそのもだし、ギターソロもとても流麗だ。あるいは、「BEAT SWEET」。とてもキャッチーなギターリフから始まるが、あの楽曲ではリフが最も印象的であることは疑いようがないところだろう。COMPLEXの「恋をとめないで」もそうだ。これはサビメロも実にキャッチーだが、イントロでのポップなギターが楽曲の世界観を豊かにしていると思う。

主義を込めたソロ・プロジェクト

その布袋寅泰のオリジナル・アルバムは現在まで16作品。その中から1枚を推薦するのはなかなか難しい。ここはベストアルバム『51 Emotions –the best for the future-』を推したいところだが、このコラムの趣旨からしてそういうわけにもいかないので、あえて1作品に絞るとすると──。ソロ1stアルバム『GUITARHYTHM』はどうだろうか? GUITARとRHYTHMとを組み合わせた造語に“イズム(=主義)”を含んだシリーズ・プロジェクトの端緒であると同時に、本人も認めるソロの原点である。特にこの88年の『GUITARHYTHM』はBOØWY解散直後のリリースということもあって話題にもなったし、実際、個人的にも最初に聴いた時の印象が鮮烈であった記憶がある。日本でロックがポピュラーになり始めた頃故にか、ギター中心のサウンドメイキング作は珍しかったし、全曲英語詞という構成も新鮮に映った。英語詞に関して本人は「決まったように、サビになると英語になるっていうのはとにかく嫌だった。全部英語か全部日本語かどっちかしかないと。サビだけ英語なんて日本の作品としても美しくないし、英語圏じゃ何だかわからないしね」と語っているので(発言はWikipediaより引用)、彼が早くから海外進出を意識していたこともうかがえる。その意味でも、『GUITARHYTHM』は現在の布袋寅泰の礎のひとつと言って差し障りはないはずだ。

大衆性と前衛性との融合

この『GUITARHYTHM』。前述した“キャッチーで分かりやすく、ポップで耳に残る”楽曲が収録されていることは間違いないが、久々に聴いてみたら、大衆的でない…とは言わないまでも、決してポップで分かりやすいだけのアルバムじゃないことを実感した。私見だが、こんなにデジロックだったとは思わなかった。いや、本人が本作に寄せて、「分かりやすく言うとセックス・ピストルズのギタリストとジグ・ジグ・スパトニックのリズム隊をバックに、エディ・コクランがビートルズの歌を赤いスーツを着て歌うということだ」という言葉を残しているわけで、当時から意識的に80’Sニューウェイブの影響を隠していないが、M3「GLORIOUS DAYS」やM4「MATERIALS」、何よりタイトルチューンM10「GUITARHYTHM」で聴かせるギターリフに惹かれたことで、デジロックの印象が糊塗されたのだと思われる。M1「LEGEND OF FUTURE」での優雅さ、M11「A DAY IN AUTUMN」でのサイケデリックサウンドも、それに影響したのかもしれない。まぁ、そんな個人的は置いておくにしても、『GUITARHYTHM』は大衆性と前衛性とが上手く合わさった作品と言っていいと思う。トラディショナルへの敬愛と、だからと言って決してオールドスクールに縛られないチャレンジ精神、そしてそこから零れる隠し切れないポピュラリティー。そういう見方もできるかもしれない。
デヴィッド・ボウイやロキシー・ミュージックへのオマージュを感じさせつつも、美しく素晴らしい旋律を聴かせるM5「DANCING WITH THE MOONLIGHT」や、メインのテレキャスターではなく、アーム付きのストラトキャスターを使用することで叙情的なメロディーをよりふくよかに表現していると思われるM8「STRANGE VOICE」辺りでは、もはや天才的としか言いようがないメロディーメーカーとしての才能を誇示。その一方で、エディ・コクランのカヴァーであるM2「C'MON EVERYBODY」やM7「WAITING FOR YOU」、M9「CLIMB」では、ロックンローラーとしての姿勢を剥き出しにし、そうかと思えば、ニューウェイブにポエトリー・リーディングを乗せるという若干アバンギャルドな匂いも漂わせたM6「WIND BLOWS INSIDE OF EYES」も収録している。このバラエティーに富んでいると言えば富んでいるバランス感覚も『GUITARHYTHM』の特徴であろう。今となっては80年代的電子音をやや邪魔に感じる方がいるかもしれないが、意欲的にインダストリアルをポップミュージックへ取り入れようとした軌跡と思えば、なかなか興味深く接することができるとも思う。何でも当時の技術的限界から、ギターとコンピュータの一発録りに近いかたちでレコーディングされたそうで、そのストイックなスタンスは好意的に受け取りたいものだ。アーティストとしての真摯に取り組んだ何よりの証左だろう。実際、エッジが立ったギターサウンドには布袋寅泰の実直なキャラクターが表れていると思う。

著者:帆苅智之

OKMusic編集部

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