ORANGE RANGEの『musiQ』には、00年
代中盤の日本が映っているか?

2015年8月26日、ORANGE RANGEが前作より2年振りとなる、通算10枚目のオリジナルアルバム『TEN』を発表する。2000年代中盤に大ブレイクし、各地の夏フェスのヘッドライナーを務めた他、リリースする音源は常にチャート上位を席巻するなど、誰も彼もORANGE RANGEを聴いているといっても過言ではない一大現象を起こした彼ら。その音楽性をダブルミリオンを優に超えた代表作『musiQ』から紐解く。

今週末(8月14、15、16日)にいよいよ『SUMMER SONIC』『RISING SUN ROCK FESTIVAL』の開催を控え、夏の風物詩、音楽フェスも今年の佳境を迎えようとしている。ザッとラインナップを見渡した限り、流石に多くの出演者が重なっているものの、各フェスの個性が際立ってきているのか、群雄割拠の時代なのか、今年はヘッドライナーが大被りしているような印象はない。強いて挙げれば10-FEETと星野源が今年のフェス番長という気もするが、まぁ例年かようなことは起こり得るし、強力なブレイクアーティストが出現すると、フェス自体がそのアーティスト色に染まるようなことはこれまでもよくあった。最近では昨年のSEKAI NO OWARIがそうであったし、RADWIMPSやELLEGARDENが目立つ年もあった。個人的に忘れ得ない存在が2005年頃のORANGE RANGEである。このバンドひとつでフェスそのものの4~5割を動員しているのではないかと思うようなことがあった…と言うと、「何を大袈裟な!?」と失笑される方もいるかもしれないが、当時を知る人ならあのテンションを十分に共感してくれるのではないだろうか。動員とCDセールスを単純に並列しできないが、(以下、wikipediaより抜粋、引用)2004年2月25日に発売した5thシングル「ミチシルベ〜a road home〜」は同年3月8日付けのオリコン週間シングルチャートで自身初の首位を記録し、ここから2006年5月10日に発売した13thシングル「チャンピオーネ」まで9作連続首位獲得。特に2004年10月20日に発売した8thシングル「花」はオリコンシングルチャートに52週登場するロングヒットとなったことからも、当時の彼らの人気が如何に圧倒的だったか分かってもらえると思う。本稿では、その渦中に発表された2ndアルバム『musiQ』を取り上げる。
『musiQ』は累計250万枚以上を売上げたORANGE RANGEの代表作である。シングル4曲を含む全19曲収録。これを聴けば「ORANGE RANGEとはどんなバンドなのか?」という“そもそも論”を展開する必要がないであろう、絶好の作品と言える。オープニングのインスト曲M1「KA・RI・SU・MA」はテクノポップ風ハウス(80年代ディスコと言うとそれはまた違う気がするので、こんな呼び方をしてみた)。M5「ZUNG ZUNG FUNKY MUSIC」は言わば“ズンドコ節・ミーツ・スカ”。M6「パディ ボン マヘ」はメンバーの人力によるアフリカ民族音楽(「民族音楽は全て人力じゃないか!?」というツッコミは我慢してください)。M7「シティボーイ」はダフト・パンクが作った80年代香港映画のテーマ曲(分かっていると思うが、そんな曲はない)をどこぞのヒップホップグループがサンプリングしたような楽曲。M8「謝謝」でAORへ、M9「男子ing session」でJBへ、M13「FULLTHROTTLE」でHRへのオマージュを捧げつつ、M14「祭男爵」で祭囃子をオフビートと融合させる妙技を見せ、M15「papa」やM18「SP Thanx」ではサイケデリックな要素を展開。ラストの、これまたインスト曲M19「ジパング2ジパング」では、クエンティン・タランティーノ作品のサントラばりの和風テイストを聴かせている。“そもそも論”は必要がないと言いながら長々と書き連ねてしまったが、ここに説明した通り、自由奔放なサウンドを持ったバンドである。
それは歌詞も同様。彼ら最大のヒット曲であるM12「花」の《花びらのように散りゆく中で/夢みたいに 君に出逢えたキセキ/愛し合って ケンカして/色んな壁 二人で乗り越えて/生まれ変わっても あなたのそばで 花になろう》や、シングルカットされていないものの、CMタイアップも手伝って知名度は高いM4「以心電信」の《僕らはいつも 以心伝心 二人の距離つなぐ テレパシー/恋なんて 七転び八起き やさしい風ほら 笑顔に変えて/離れてたって 以心伝心 黙ってたって わかる気持ち/想いよ届け 君の元に 未来につないでいく 信号は愛のメッセージ》、あるいはM18「SP Thanx」での《「目指すあの場所イコール ゴール」 それゆえ見落とすモノも多く/立ち止まって周り見渡してよ すると大事なモノに気づいたよ/もらった愛の数底無し 心からアリガトウ 親友達》といった普遍的かつ極めて真っ当なメッセージソングがある一方、その多くは享楽的な香りに満ちている。《とびきりのビート 君とコンタクト/水はじく程の この音楽と/TOMORROW 雲の上の国へ行こうよ/どんどんよじ登るよ 音楽と》(M2「チェスト」)。《ギンギンキラキラパラダイス/君は僕らのマドンナさ。どんな男も魅了して君の目ですぐイチコロ/君の谷間に埋もれたいよ ベイベー/ねぇねぇ お願いだからパフパフさせてよ レィデー》(M7「シティボーイ」)。《ふたつがひとつになる瞬間 リズム グルグル廻り循環/きっと気持ちのいい空間 ビート+ジャストミートは/わかったでしょ? このリズムがそう ただ気分はもう 上がる一方でしょ/ほら皆COME HEREそう簡単のっかんな 踊れさぁさぁ思うがまま》(M10「Beat Ball」。M9「男子ing session」もM13「FULLTHROTTLE」もM16「HUB☆STAR」もそうだ。極めつけはM3「ロコローション」だろう。《Ah ah マジでナイスバディ クモンベイベ オツキアイ交渉/刺激たっぷりの穴へエスコートしてぇ~!!》。ドSEXソングである。「ロコローション」はパ○リ疑惑だのなんだの言われ騒がれたと記憶しているが、そんなことより問題にすべきはこっちのほうじゃなかったかと今になって思う…嘘だけど。
この自由奔放で、享楽的香りの濃いミクスチャーロックは、2000年代中盤の邦楽シーンで圧倒的な支持を得た。世は小泉純一郎政権下。“自己責任”だの“想定内”だのが流行語になった頃である。目に見えない閉塞感に覆われた当時の社会において、それを払拭したい潜在的な欲求が…とか言いたい気分にもなるが、自分は社会学者でもないのでそこに足を突っ込むのは止めておくけれども、そこには時代の空気を切り取った何かがあったからこそ、ORANGE RANGEは大ブレイクを果たしたのだろう。それは間違いない。すなわち、『musiQ』には2000年代中盤の日本の空気がある。そういう作品を作ったことこそ、ORANGE RANGEをロックバンドとしての十分条件を満たしていると言えるのではなかろうか。だとするなら、彼らは日本のロックバンドとして2000年代を代表するアーティストであるばかりか、2000年代の日本の文化、風俗を代表する存在とも言える。全19曲、収録時間60分超というのは今となっては完全に冗長に感じるが、それすらも何か意味があることなのかもしれない。演奏はおろか、ヴォーカリゼーションすらも粗い箇所がいくつかあることを今回試聴して気付いたが、才能あふれるも当時まだ20歳前後だった若者たちの姿をしっかりとパッケージしているのもロックバンドならでは行為だったと思う。ブレイクから10年経って落ち着いた今だからこそ味わい深く、あれこれ考えさせるアルバムである。

著者:帆苅智之

OKMusic編集部

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