少年ナイフの名盤『Let's Knife』は
チャーミングでぶっ飛んでいて、ユー
モラスなロックチューン満載!

現在、オリジナルメンバーのあつこを迎え、4人編成で全国ツアーを敢行中の少年ナイフは、6月にはCJラモーンとダブルヘッドライナーでアメリカツアーに出る予定だ。ラモーンズなどのパンクムーヴメントに影響を受けて1981年に大阪で結成されたガールズバンドが、まさか日本より海外で熱狂的な支持を得ることになるなんて、彼女たちも当時は想像すらしなかったのではないのだろうか。なぜ、少年ナイフが日本でポップな存在にならないのかは音楽シーンの七不思議と言ってもいいぐらいなのだが、もしも、まだ彼女たちの音楽に触れたことがない人がいるのならば、どのアルバムから聴いても、そのチャーミングなロックスピリッツは速攻で伝わるとは思うが、インディーズ時代の代表曲もまとめて聴けるメジャーデビューアルバム『Let's Knife』は、ぜひともチェックしておきたい名盤だ。

ニルヴァーナのカート・コバーンも愛し
たバンド

 名もないインディーズバンドでOLだった少年ナイフを発掘したのは、後にインディレーベル「K records」を主宰してBECK、ジョン・スペンサーを手がけることになる大学生の青年、カルヴィン・ジョンソンだった。卒業旅行で訪れた東京の輸入レコード店で、彼が手にしたのが少年ナイフのアルバム。彼女たちの音楽を気に入ったカルヴィンは後に少年ナイフにアメリカでカセットを出さないかと連絡をとる。そして、1985年にたった2年遅れでインディーズ1stアルバム『Burning Farm』が米の「K records」からリリースされることになるのである。その後、少年ナイフはアメリカのみならずイギリスのレーベルからも音源を発表し、1989年にはアメリカで初ライヴを敢行。その年にはソニック・ユースやL7、レッド・クロスなどが参加した少年ナイフのトリビュート盤が海外でリリースされてしまうのだからすごすぎる。
 ちなみにニルヴァーナのカート・コバーンは、『Burning Farm』を愛聴していたということで、ついにはニルヴァーナの英国ツアーのフロントアクトを務めることになり、日本でメジャーデビューアルバム『Let's Knife』がリリースされる頃には『レディング・フェスティバル』に出演していた。アメリカのグランジ・ムーヴメントと少年ナイフのいい意味で素朴でローファイなサウンド、キュートなヴォーカルがバチバチに相性が良かったのではないのだろうかとも思うが、日本人はこんなにセンスが良くてユーモアがあるロックンロールバンドがいることをもっと誇ってもいいと思う。さらに、2006年には日本でもトリビュートアルバム『A Tribute to Shonen Knife-
Fork and Spoon』が発売。甲本ヒロト、真島昌利、bloodthirsty Butchers、BEAT CRUSADERS、eastern youth、ズボンズなどが参加している。

アルバム『Let's Knife』

 パンク、ニューウェイブ・ジェネレーションの匂いがプンプンするアルバムであり、彼女たちのキュートでどこかトボけた味わいがたまらない楽曲が目白押し。《ロケットにのって冥王星に行きたい 宇宙食はマシュマロ・アスパラ・アイスクリーム》と歌うオープニング曲「ロケットにのって」はbloodthirsty Butchersがカバーしたナンバー。ニルヴァーナは3曲目の「ツイスト・バービー」をライヴでカバーしている。今の時代だったらチャットモンチーやSCANDALがそれに当たるのかもしれないが、“私たちもコピーできるかも!?”と思わせるシンプルでポップなギターバンドの魅力満載でありつつ、聴けば聴くほどセンスが光っているのが少年ナイフの特徴でもある。いろんな音楽を吸収していなければ、こんなアレンジはできないし、何よりも面白い。
 8曲目の「ブラック・バス」はドアーズに通じる気怠い曲調だが、歌詞はブラックバスを釣りに行こうという内容。ブラックバスのおかげで生態系が壊されたことにも触れている。いったい、この曲からなぜ、こんな歌詞が出てくるのか? ぶっ飛んだ発想にいちいち驚かされる。とにかく、こんなかわカッコ良いバンドがいて、今もロックンロールし続けることを知ってほしいと思う。余談になるがこの翌年にリリースされたオリジナルアルバム『Rock Animals』の取材で彼女たちに話を聞くことができた。タイトルの意味について質問したら、めっちゃ屈託のない笑顔で「ロックに群がるマスメディアの人たちっていう意味なの」と答えていた。まいったなぁ、カッコ良いなぁと思った。

著者:山本弘子

OKMusic編集部

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