テラ・ローザが示した
HR/HMの“様式美”をデビュー作
『The Endless Basis』から探る

『The Endless Basis』(’87)/Terra Rosa

『The Endless Basis』(’87)/Terra Rosa

レア音源&映像を含んだテラ・ローザの11タイトル(12枚組)を収めたの豪華ボックスセット『Terra Rosa 30th Anniversary Premium BOX』が発売されたとあって、当コラムも今週はTerra Rosaのデビュー作品をピックアップ。日本のヘヴィメタル、ハードロック史を語る上での重要バンドのひとつであり、そのサウンドは以後の邦楽ロック、J-POPにも少なからず影響を与えた存在とも言える。そんな彼らのスタイルとは──。

今も“様式美”を冠されるバンド

本稿作成のためにネットを漁っていたら、テラ・ローザには“様式美”という言葉が必ずといっていいほど付いていることが分かった。ほぼバンド名と対になっていて、完全に代名詞となっていると言っていい。今回リリースされたばかりの『Terra Rosa 30th Anniversary Premium BOX』のキャッチコピー、所謂“煽りの文章”にもこうある。

[日本を代表する「様式美HRバンド」の奇跡を辿る! レア盤を含む豪華12枚組‘テラ・ローザ’コンプリートボックスがリリース!]

さらにその中身、各アルバムの説明文にも、この“様式美”が使われている。以下、抜粋してみる。

[伝説の様式美ヘヴィ・メタル・バンド“テラ・ローザ”の歴史はここから始まった!!(後略)](【DISC1】The Endless Basis)。
[徹頭徹尾“様式美”に拘った正統派王道サウンドは時代を超越する!!(後略)](【DISC3】Honesty)。
[(前略)従来の様式美スタイルにキャッチーな要素も取り入れ、洗練されたアプローチも目立つ3rdアルバム!!(後略)](【Disc4】SASE)。
(※以上、[]は全て(『王様ロック』http://kings-rock.jp より引用)。

こうなると“Terra Rosa=様式美”で確定、間違いなしである。それでは、その様式美とは何だろうか。こちらも何も考えずに“あれが様式美だ、これが様式美だ”と使っていたわけで、いい機会だとばかりにちゃんと調べてみた。そうしたら、『デジタル大辞泉』によれば“芸術作品などの表現形式がもつ美しさ”とある。一瞬分かった気にさせられるが、冷静に読むと辞書だけにさすがに抽象的である。よって、もう少しググってみたら、なかなか興味深い“様式美”の説明を見つけた。阿川佐和子著『聞く力―心をひらく35のヒント』に、デーモン小暮閣下にインタビューした時のエピソードとして、閣下が以下のように語ったと綴られている。以下、その箇所のみ引用させていただく。

[じゃ、速くて激しければ全部ハードロックなのかというと、そうではなくて。そこからまた枝葉が分かれていって。速くて激しいけれど、ドラマティックであったり、仰々しい決めごとを取り入れる。たとえばクラシック音楽のワンフレーズを持ってきて、あるポイントに来たら全員がちゃんと、♪ダダダダーンみたいにベートーヴェンの『運命』のメロディをぴったり合わせる。そういうのを様式美というんですけどね]。
[簡単に言うと、様式美の要素を入れないと、ヘヴィメタルとは認定されないんです。ハードロックに様式美を持ち込むと、それがヘヴィメタルになるというわけ](『聞く力―心をひらく35のヒント』 (文春新書・阿川佐和子 著)より引用)。

さすが閣下と言うべきか、自身がミュージシャン、HR/HM系アーティストなだけあって、衒いのない解説であるように思う。それが的確なのかどうか、テラ・ローザの1stアルバム『The Endless Basis』を聴きながら、以下、その答え合わせに挑んでみよう。

1stアルバムから徹底した“様式美”

『The Endless Basis』はM1「One Of Sections "Lap"」で幕を開ける。キャッチーなギターリフから入るナンバーで、前のめりなリズムがグイグイと楽曲を引っ張っていく。とりわけベースの動きがいい感じだ。転調して迎える間奏のギターソロはとてもメロディアス。いわゆる速弾きとは少しタイプが異なっており、叙情的と言い換えてもいいような表情を見せている。全編に横たわるオルガンは派手さこそないが、楽曲の彩りでありつつ、全体の背景をバックアップしているかのような印象だ。

M2「Friday's Free Fair」もギターのリフから入り、4小節目、8小節目でリズムがドンと重なり、9小節目からは小節の頭でどっしりとしたビートを刻み、のちに8ビートに展開していく。間奏はキーボードのソロ。ここまでM1同様に楽曲の背後で和音を鳴らしている印象の鍵盤だが、そこから一転、満を持していたかのように速弾きとなる。しかも、メロディアスで流麗。後半はそれをギターが引き継ぐ形で、速弾きだがメロディックなソロを響かせる。

続く、タイトルチューンのM3「The Endless Basis」もやはりギターリフから始まるが、アラビア調であって若干プログレ気味(歌もBメロでアラビア音階風になる)。ギターとキーボードの絡みがいい感じだ。サビの歌メロは極めてメロディアス。1番の終わりから2番へと続くブリッジ的な箇所は、M2のイントロでも見せたどっしりとしたリズムも重なって、冒頭以上にメリハリが効いた印象。間奏のギターソロもアラビア風に準じており、これまた流麗でエキゾチックな雰囲気を出している。

ここで少しアルバムの話から離れる。テラ・ローザをまったく聴いたことがないという人がいるならば、ここまでの冒頭3曲だけでもいいので、ぜひ1stアルバム『The Endless Basis』を聴いてほしい(できれば『Terra Rosa 30th Anniversary Premium BOX』を入手して聴いてみてください)。おそらく、このバンドをまったく聴いたことがないという人でも、これらの楽曲をどこかで聴いたような気になると思う。ヘヴィメタル、ハードロックの愛好者なら余計にそうなるであろう。○○○○の「××××」に似ている…と具体的なアーティストや楽曲の名前が挙がるかもしれない。テラ・ローザの楽曲がカバーされているとか、○クられてるとか、あるいは○クったとか、そういうことを言いたいわけでなない(テラ・ローザはRainbowからの影響が色濃いと言われて、それは公然の事実のようではあるのだが、筆者はRainbowの熱心なリスナーではないので上手く比較もできないし、恐縮ながら、この際、それも置いておく)。アッパーなリズムで一見複雑に感じられるが、ギターやキーボードが奏でるメロディーは極めて美麗で意外とシンプル。概ねキャッチーなギターリフにリズム隊が絡んでイントロが始まって、歌メロは分かりやすく、展開も今のJ-POPに近い構成であり、間奏ではギター、キーボードがこれまた美しい旋律を聴かせる。時にロック以外の要素も取り込むこともある。まさしく、上記で引用させてもらったデーモン小暮閣下が説明するところの特徴が当てはまるのである。こうした楽曲の特徴は何もテラ・ローザに限ったことではなく、古今東西のあらゆるバンドが手掛けてきた手法であって、(具体名は挙げないが)あのバンドもあのバンドもアルバムにそのタイプが2、3曲はあるだろう。テラ・ローザの場合はそれが徹底していると言っていい。そここそが、このバンドが“様式美”を連呼される所以であろう。

閑話休題。『The Endless Basis』へ戻る。続いて、M4「Petrouchka」。Aメロのギターがアルペジオ+ストロークとなっていたりするものの、リフから入ってドラムス、ベースが続くイントロは“様式美”と呼ぶに相応しい。鳴きのギターソロもいい。また、アウトロでドラムがツーバスを踏むところは、これが長く続けば嫌味になりそうなところを、このくらいで抑えてあえてマニアックにしていない感じがして、どこかフレンドリーだ。

M5「Vision Of The Lake Bottom - 湖底のヴィジョン」は冒頭からかなりシアトリカル。風の音が加わった幻想的なSEから、パイプオルガン調のキーボードが鳴って、そこにモノローグが加わり、そこから激しいリズムとギターと…この様式を取り入れたバンドは星の数ほどいると思われる展開である。Rainbowをあまり知らない自分でも、このメロディーは明らかに影響を受けていることが分かるし、間奏のキーボードソロもまたヘヴィメタル、ハードロックにおけるのそれのひな型のようなスタイルと言える。

M6「Fatima」はインストナンバーで歌はないが、それでもメロディーがとても分かりやすい。『歌のない歌謡曲』というラジオの長寿番組があるけれども、あのヘヴィメタル版といった感じだ。これもまたアラビア音階が使われている他、少しロシア民謡のようなメロもあったりして、なかなか興味深い。中盤~後半のドラムのタムの連打は、これもまた何百回と聴いたことがあるタイプで、このバンドの生真面目さを感じるほどだ。

M7「As Long As Our Lives」は歌メロこそマイナー調だが、全体的にはポップな仕上がり。アウトロの最後に響くコードが独特で、否が応でもテラ・ローザがのちのビジュアル系バンドの系譜に連なっていくバンドであることを意識させられる。

M8「もの言わぬ顔」はプログレ的な大作。シンセ(たぶん)のループにオルガンという、その昔のサスペンスホラー映画を彷彿させるような、若干不穏な雰囲気から始まって、白玉で伸ばしたギターとリズム隊から、タムの連打でドラマチックに展開していく。Bメロはマイナーなアラビア音階にモノローグ的なヴォーカルが乗った様子も、いい意味でマナーに則った感じだ。後半、まずはギターから演奏がどんどんエモーショナルになっていき、速弾きも見せるが、いたずらなそれではなく、テンションが上がっていった先での速弾きなのでどこか必然性があるように感じる。そこからベースもドラムもアッパーになっていき、フェードアウト。美麗な楽曲を綺麗なだけで終わらせずに、ヘヴィメタル、ハードロックらしく、しっかりと力強くアルバムを締め括っている。

“様式美”を裏付ける確かな技巧

歌詞は全編で英語が多用されており(M5「Vision Of The Lake Bottom - 湖底のヴィジョン」は全部英語)、洋楽からの影響の強さをありありとしめしているが、日本語の部分でも幻想的であったり耽美な印象のある言葉を使っていたりで、ここでもまた“様式美”が貫かれていると思う。

《目の前を飛びたつ 青い鳥の群/偽りは いつでも倒れてころがる/けれどここを出る頃は もう外も明るく/かすれた星の色も 燃えて見える》(M2「Friday's Free Fair」)。

《生・・・・・・手の掌に ひとつぶの輪廻/取るに足りない 美の一撃/死・・・・・・大宇宙を飛びかう輪廻/人は振り向き 手を差し出す/手の上をころがり 様々になる/けれど形は ひとつ/The endless basis.》(M3「The Endless Basis」)。

《青白い宇宙の玉輪/重なる月と顔の群集が/見つめる 灰にした罪を/ある目は 今真に・・・・・・今真に・・・・・・》(M8「もの言わぬ顔」)。

これらの他にも、M4「Petrouchka」での女性に語り掛けるようなスタイルであったり、M7「As Long As Our Lives」で当然のように“薔薇”が使われていたりと、この手のジャンルの教科書と言いたくなるような歌詞である。

最後に。斯様に分析してみれば、テラ・ローザとその1st『The Endless Basis』が“様式美”と形容されるのはよく分かるけれども、かと言って、彼女たちが伝統芸能さながらにそのジャンルを継承しているだけのバンドではないことは言うまでもない。イントロや間奏で派手なプレイを聴かせる三宅庸介(Gu)や岡垣正志(key)は元より、一見それらを献身的に支えていると思われる山口宏二(Ba)、堀江睦男(Dr)のリズム隊も、プレイヤー全員がとてもテクニカルなバンドである。ここは最大限に強調しておかなければならないだろう。

特に赤尾和重 (Vo)の歌声は特筆すべきものだ。RainbowやBlack Sabbathで活躍したヴォーカリスト、Ronnie James Dioを彷彿とさせる…と言われているようだが、女性ヴォーカリストがそう言われること自体がすごいと思う。実際、『The Endless Basis』を聴けば多くの人がその迫力と表現力の確かさに圧倒されるであろう。様式は確かなテクニックがあってこそ成り立ち、技術が高ければ高いほどその美しさを増す。テラ・ローザはその模範とも言えるバンドなのであった。

TEXT:帆苅智之

アルバム『The Endless Basis』1987年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.One Of Sections "Lap"
    • 2.Friday's Free Fair
    • 3.The Endless Basis
    • 4.Petrouchka
    • 5.Vision Of The Lake Bottom - 湖底のヴィジョン
    • 6.Fatima
    • 7.As Long As Our Lives
    • 8.もの言わぬ顔
『The Endless Basis』(’87)/Terra Rosa

OKMusic編集部

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