日常と宇宙をつなぐ
フィッシュマンズの
『空中キャンプ』

フィッシュマンズのアルバムを毎日のように聴いていた時期があった。現実と夢のはざまをどこまでもふわふわと漂っているような気持ちにさせてくれるアルバム『空中キャンプ』は、リリースされて20年近くの月日が経った今、不滅の名盤として紹介され、世代を超えて聴き継がれている。ちょっと大げさかもしれないが、フィッシュマンズは日常と宇宙をつなぐ音楽を奏でたバンドだ。『空中キャンプ』を1996年にリリースした翌年の1997年に発表されたアルバムは『宇宙 日本 世田谷』で、なんとフィッシュマンズの核心を突いたタイトルなのだろうと思った。まだ彼らの音楽に触れたことがない人はぜひセットで聴いてほしい。

多くのアーティストに愛されたバンド

 フィッシュマンズは今は亡きヴォーカル&ギターの佐藤伸治を中心に1987年に結成された。詳しいヒストリーはユニヴァーサルのHPに掲載されているが、バンドブームの中、ライヴハウスを中心に活動していたフィッシュマンズは1991年にex.MUTE BEATの小玉和文プロデュースのもとオーストラリアでレコーディングを行ない、その年にデビューシングル「ひこうき」とデビューアルバム『Chappie Don’t Cry』をリリースする。翌年の2ndアルバムは窪田晴男がプロデュースを手がけているが、ニューウェイブジェネレーションのミュージシャンたちと関わってきたことが彼らの音楽に影響を与えたことは間違いないだろう。レゲエを基調としたポップミュージックを発信していた彼らはダブ、エレクトロニカ、ロックステディを取り入れ、グルービーで独特の音楽を生み出していくことになる。その類いまれなるサウンドのセンス、素晴らしいメロディーと歌詞はミュージシャンを始め、音楽業界を中心に高い評価を得ていたが、『空中キャンプ』をリリースした頃もフィッシュマンズは誰もが知る存在というわけではなかった。なぜ、こんなにキテて、最高に心地良い音楽が日本でもっと受け入れられないんだろうと思っていただけに、1999年に佐藤が33歳という若さで急逝した時にはやはり天才の命は儚いのだろうかといたたまれない気持ちになり、彼らの生み出した音楽を絶対に忘れないと思った。なお、2004年にはUAやクラムボン、曽我部恵一、スクービードゥなど彼らを愛したアーティストが集結したトリビュートアルバム『Sweet Dreams For Fishmans』がリリースされ、翌年には忌野清志郎、UAなどのゲストヴォーカルを迎え『RISING SUN ROCK FESTIVAL 』に出演。佐藤のスピリッツは今なお受け継がれ、現在もフィッシュマンズ(茂木欣一、柏原謙、HALKASE、小嶋謙介)は活動中だ。今年の4月には宮城・みちのく公演北地区エコキャンプみちのくで開催される『ARABAKI ROCK FEST.15』にスピッツらと出演する。

アルバム『空中キャンプ』

 奏でられる全ての音と佐藤の中性的なヴォーカルが溶け合い、舞い上がっていくような極上の心地良さ。《いくつもの季節が過ぎ去って年をとっていく きのうのことさえも ずっと昔みたいに》と歌う幕開けの曲「ずっと前」を聴いた瞬間、曲の長さが10分だろうが20分だろうが飽きないだろうと感じる。この不思議な中毒性こそがフィッシュマンズの魅力である。レゲエのビートとギターのアルペジオ、浮遊するシンセが絡み合う「BABY BLUE」の完成度も素晴らしい。快楽的で儚くて、まるでどこまでもブルーに透き通った水の中を漂っているようだ。そして、シングルとしてリリースされた「ナイトクルージング」のノイズ混じりのループするサウンドとあまりにも切なく美しいメロディーは意識をどこまでも遠くに連れていってくれる。
 とにかく、全曲が素晴らしいので書いていったらキリがないのだけれど、このアルバムを改めて耳にして思うことは、いったいこれらの音楽はどこから発信されたのだろうか?ということだ。いや、地球であり、日本であり、世田谷かもしれないが、時代というか、時空を超える感が今聴いてもハンパないのである。“癒し”という言葉には収まらない危うさやエッジがあるのもたまらない。またしばらくフィッシュマンズにやられる日々が続きそうだ。

著者:山本弘子

OKMusic編集部

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