【独断による偏愛名作Vol.2】
Valentine D.C.が
ロックバンドとしての
誇りを堂々と示した『GENERATION』

『GENERATION』('98)/Valentine D.C.

『GENERATION』('98)/Valentine D.C.

7月4日、Valentine D.C.の日本コロムビア時代の音源がサブスク解禁されたということで、今週は彼らの音源を【独断による偏愛名作】として取り上げたい。大阪の名門ライヴハウス、心斎橋バハマの出身で、さまざまなバンドが群雄割拠していた1990年代の半ば、Ken-ichi(Vo)、Naoya(Gu)、Jun(Ba)、Takeshi(Dr)でメジャー進出。思うような結果が出なかったこともあって1999年に解散するも、その間、制作したオリジナルアルバム6枚、ミニアルバムを2枚はどれもオリジナリティーにあふれ、今聴いても決して古びたところを感じない、クオリティーの高いロックサウンドである。とりわけ『GENERATION』は、ある意味で1990年代後半の日本のロックシーンを象徴しているかのような描写もあり、再評価されてしかるべきアルバムであると個人的には確信している。2007年に活動再開し、年に数回、オリジナルメンバーでのライヴも行なっているので、過去のバンドにするのは早計だが、改めてこのタイミングで、彼らが優れたロックバンドであったことをプッシュしておきたい。

地に足の着いたバンドサウンド

堂々と自分たちのロックを鳴らしたアルバムだと思う。強いて言えば、もうちょっとウィットに富んだ面というか、砕けた面、ふざけた面があっても良かったかなと思わなくもないけれど、逆に言えば、そう思わせるくらいに、彼らが真摯に制作に打ち込んだことが中身に染み込んだアルバムという言い方もできるだろうか。

『GENERATION』はValentine D.C.のメジャー4thアルバムで、1997年の“TRIAD”移籍後の第1弾作品である。名門ロックレーベルに移籍したことが影響したかどうか知らないが、全ての楽曲において音像がちゃんとロックしている。M2「つぎはぎアンティック・ドール」、M4「Happy Birthday」、M5「奥歯を噛みしめろ」、M9「MY GENERATION」などの勢いのあるナンバーだけなく、しっかりと地に足の着いたバンドサウンドも聴くことができるところがいい。

オープニングナンバーのM1「空想世界」から、いい意味での落ち着きが感じられる。ノイジーなギターで始まるイントロは、“ロックはやっぱり歪んだエレキ”と言わんばかりで、いわゆるギターリフは複雑ではないが、むしろそこがいい。それを支えるドラムは16分でハイハットを刻み、ダンサブルに迫る。少しばかりブリットポップ風味を感じるところではある。ベースラインは、冒頭はギターとユニゾンで進みながらも、Bメロから個性を発揮。リズム隊の枠だけに留まらない、うねりのあるプレイを聴かせてくれる。楽器隊3人のアンサンブルだけでも十分にロックを感じさせるのである。サビ後のパートや間奏ではさらにサウンドが複雑になっていて、ドラムは少し変則気味で、ギターはフリーキー。その分、ベースがメロディーを奏でるといった具合に、それぞれが多彩に変化する様子も聴いていて楽しいところだ。歌は全体を通してメロディアス。音符が細かくないのが最も落ち着きを感じさせるところかもしれない。ボーカルの声質的には、このバンドにはこういうタイプのメロディーが一番合っているような気もする。

M2は前述の通り、勢いにあふれたナンバー。アルバム2曲目としてはベターだろう。サビ後半での《JUST YOUR LIES》のコーラス(というか、シャウト?)もワイルド。リズム隊も結構暴れていて、ベースラインは歌を凌駕する…と言うと大袈裟かもしれないが、サビでの動きは相当に派手だし、ドラムのフィルインは破壊力を感じるところではある。それに比べるとギターは比較的抑えめにも感じるが、間奏ではなかなかスリリングなソロを聴かせているところも聴き逃せない。

そんなM2に続いて、ミディアムナンバーのM3「カーテンコール」を持って来たところにこの時期のValentine D.C.の自信を感じるところではある。サビ頭でもある上、サビにつながるBメロもなかなかなもので、流れるような旋律がM3の特徴であるのは間違いないが、その主旋律を尊重したサウンド構築も聴きどころだ。全体的に歌を邪魔せずい、ブリッジではさり気なく個性的なプレイを聴かせている。間奏以降にオルガン(メロトロン?)が配されていて、サイケデリックロックのテイストを注入しているのも面白い。ギターソロも1960年代ハードロック調で、この辺を聴くと、実は器用なバンドで、キャパシティが広かったことが分かるような気もする。個人的には、そうだからと言って、衒学的な姿勢を見せなかったことを好ましく思っている。

M4、M5はポップなロックンロール。ともにパンクと言ってもいいだろう。いずれもメロディーはキャッチーで、このバンドの根底には親しみやすさがあることがよく分かる楽曲と言えるかもしれない。この辺を聴くと、勢いだけで突っ走ることもできたと思うが、そうではなく、M1から始まって、M3を入れた辺りにも、Valentine D.C.のスタンスを改めて感じるところではある。

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着