他に比類なき男女ヴォーカル混成バン
ド、BARBEE BOYSが目指したさらなる
高み──アルバム『√5』

デビュー30周年を迎えたBARBEE BOYS。2015年2月にはデビューアルバム『1st OPTION』の最新リマスター盤と、1985年の渋谷公会堂ライブを無修正・ノーカットで収録した2枚組アルバムがセットになった、『REAL BAND -1st OPTION 30th Anniversary edition』が発売されたばかりで、祝福ムードも依然盛り上がっている。男女ヴォーカル混成という特異なバンドスタイルと、そのスタイルをを最大限に発揮したサウンドで、邦楽ロックシーンにおいて他に類を見ないバンドとして大成した彼ら。そのBARBEE BOYSの個性を改めて検証する。

 エロティックなリリックが特徴のアーティストというと、最近ではAcid Black Cherryに白羽の矢が立つようだが、オールタイムで言えばこれはもうBARBEE BOYS(以下バービー)がその頂点であることは疑いようがないだろう。以下はバービー最大のヒット曲と言われる「目を閉じておいでよ」の歌詞である。《目を閉じておいでよ 顔は奴と違うから ほら いつもを凌ぐ 熱い汗と息づかい 目を閉じておいでよ 癖が奴と違うなら でも馴れた指より そこがどこかわかるから》《目を閉じておいでよ 違う夜を見たいなら ほら いつもを凌ぐ 熱い汗と息づかい 目を閉じておいでよ 濡れた肌がわかるから ほら淫らな夢で まるで朝が変わるから》《抱きしめて 背中の手が くるわせて 腰をなぞる こんなふうにもっと変になっちゃっていい? 寄りそってもっと声を出したっていい》。いかがだろうか? こうして改めて文字にしてみると、スポーツ紙のアダルト欄掲載記事さながらのインパクトである。メジャーフィールドでこんな内容の歌詞というと、バービー以前には黒沢年男(現・黒沢年雄)「時には娼婦のように」か畑中葉子「後から前から」くらいだったろう。ロックはもちろんのこと芸能界においても極めて珍しい内容だと言わざるを得ない。1stアルバム『1st OPTION』には「冗談じゃない」という楽曲が収録されている。この歌詞はこうだ。《まぐれ当たりじゃ しかたのないこと あやまちは簡単に 防げた筈なのに 男と女の フッとした迷いが 笑えないおめでたに ひきつる二人にする 冗談じゃない 受け止めて 冗談じゃない 諦めて うう…悔やまれる 夏の夜の あの出来事》。すごいのひと言である。だが、アーティストたるもの、このくらい刺激的な表現はあってしかるべきであろう。誰が何と言おうと作者が感じたままを世に問うべきであるし、周りの意見に左右されるべきものではない。
 バービーの楽曲のほとんどはギタリスト、いまみちともたか(愛称・イマサ)が担当している。氏は父親が哲学者、美学者の元東京大学名誉教授、母親は元ソプラノ歌手というサラブレッド中のサラブレッド。気品すら漂う経歴である。リミッターが解除されたかのような言語表現に加えて、それをキャッチーに、ポピュラー音楽として誰にも真似できなかったレベルにまで昇華させた能力は、良血の開花だったに違いない。そして、そのイマサの確かなポテンシャルを受けてフロントでパフォーマンスする近藤敦(愛称・コンタ)、杏子の両名がまたすごい。コンタのハスキーでありながらハイトーンなヴォーカルは常にスリリングさをはらみ、歌詞の内容と相まって生々しさを感じさせる。一方、杏子の歌はさらに拍車がかかった表現力の高さで、時に鬼気迫り、時に慈悲深くもある、まさにヴォイスパフォーマーといった様子である。また、彼女もハスキーヴォイスではあるのだが、喉の使い方が他のシンガーと違うのだろうか。所謂歌唱とは異なるような響きを聴かせるパートもあり、こちらも聴き逃せないところだ。どちらか一方でも一角のバンドになったであろう男女ヴォーカリストが在籍していたという事実だけでも奇跡的である。
 バービーのデビュー時、ピーター・バラカン氏が日本の楽曲を流すことすら珍しかった自らの番組で彼らのナンバーを紹介し、「このバンドには稀有な才能を持ったヴォーカリストがふたりもいる。これは欧米でも相当珍しい」と賞賛したという逸話も残っている。天才コンポーザー+天才ヴォーカリスト×2。これで化学変化が起こらないわけもなく、現在までも他に類を見ない、バービーのサウンドが生まれることになる。レベッカ、BOØWYと並び、バンドブームのけん引役として言われるバービーだが、傍からはバンド三強や御三家的な見られ方をしていたかもしれないが、その形態、表現内容からしてバービーは単純に三強や御三家として並列に語ることはできない特異な存在であったことも付け加えておきたい。
 さて、そんな邦楽ロックシーンにおける唯一無二のバンド、バービーであるがゆえに、その作品はどれも名盤と呼ぶに相応しいが、ここでは5thアルバム『√5』を取り上げたい。バービー史上最大のセールスを記録したと言われるアルバムだが、リスナーの中には「内容が薄い」と評す人も少なくないようだ。確かに、「暗闇でDANCE」や「負けるもんか」「なんだったんだ?7DAYS」「女ぎつねon the Run」といった一連のヒット曲のようなパンチの効いたナンバーは少ない。M6「さぁ どうしよう」、M2「目を閉じておいでよ」、M8「せまって day by day」──ギリギリM4「chibi」辺りがパンチの効いたタイプで、全体的にはキャッチーなギターリフ&サビメロ、コンタのソプラノサックスで押すナンバーは鳴りを潜めている印象だ。地味なアルバムに映るかもしれない。
 だが、このアルバム、改めて聴いてみると、バンドアンサンブルの妙が確認できる、実にいい作品である。収録曲はいずれも音の粒が立っていると言ったらいいだろうか。80年代らしいドンシャリ感は否めないものの、少ない音数が重なり合って絶妙なバンドサウンドを生んでいる。パーカッシブなビートから始まるM1「ト・キ・メ・キ」からして、いきなり音像が生々しい。サビのワイルドなギターにも耳がいくだろうが、注目して聴いていただきたいのは間奏とアウトロだ。ドラムがボトムを支え、ギターとベースが絡み合う様子は、ツインヴォーカルと対を成しているかような艶めかしさを感じさせる。色気のあるグルーブだ。サイケデリックなM3「Y~ゆがむ~」もしかり。これもまたパーカッションの音色を背後に湛えながら、単音弾きのギター、エレピ、そしてコーラスが絡み合うというアンサンブルの妙味が聴ける。コンタ作詞作曲のレゲエM5「Late Again」、スローナンバーM9「君を見てるとしょんぼり」辺りはベースの聴きどころ。ゆったりとしたリズムながら存在感のあるフレーズで楽曲を引っ張る。あえて言うことでもないが、ベースのエンリケ、ドラムの小沼俊明(愛称・コイソ)のリズム隊も実力派ミュージシャンなのである。
 ラストのM10「もうだいじょうぶヒステリー」はタイトルからしてバービーらしいナンバーで、実際、彼らのスタンダードとも言うべき歌メロにコンタのソプラノサックスもフィーチャーされた、派手にしようと思えば派手にできた楽曲だとは思うが、決してそうなっていないのは意図的だろう。邪推するに、得意技をあえて封印していたようにも思えるし、ひいて言えば、彼らは当時完成していたバンドスタイルのネクストレベルを標ぼうしていたのではなかろうかとも考えられる。だとすれば、『√5』で聴くことができる、こだわり抜いた個々の音を巧みに重ねるという手法はその発露だったのではないだろうか。冒頭で述べたように、バービーの特徴は男女ツインヴォーカルが生々しくエロティックなリリックを歌い上げているバンドであるし、その形容は間違っていないが、決してそればかりではない。メンバー5人で巧みなバンドアンサンブルを奏でるバンドらしいバンドであったことも忘れてはならない(本稿作成にあたって、俳優であり、ミュージシャンでもある宮崎吐夢氏のBARBEE BOYS論をかなり参考にさせてもらった。氏の分析はこの拙文の何倍もの深みがある。『宮崎吐夢 BARBEE BOYS』で検索すると見聞きすることができると思うので、ぜひ探していただきたい)。

著者:帆苅竜太郎

OKMusic編集部

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