“3ピース+ヴォーカル”にこだわった
JITTERIN'JINNのバンドとしての
プライドに満ちた『パンチアウト』

“イカ天”ブームの先駆者として人気を博したJITTERIN'JINN。Whiteberryがカバーしたことでも知られる「夏祭り」や、「プレゼント」や「にちようび」など、疾走感あふれる独自の2ビートサウンドとキャッチーなメロディーで90年代初頭に人気を博したロックバンドである。バンドスタイルはギター、ベース、ドラムにヴォーカルというシンプルかつベーシックな編成で、極力外音を廃したサウンドメイキングは、彼女たちのロックスピリッツの発露であり、まさにシーンに対する“パンチアウト”であったのではなかろうか。

“イカ天”がもたらした功績

今の20代に“イカ天”と言ったら、文字通り、烏賊の天麩羅しか連想されなさそうだが、アラフォーなら人気を博したテレビ番組『三宅裕司のいかすバンド天国』を思い出す人が圧倒的に多いことだろう。“いかすバンド天国”──略して“イカ天”。勝ち抜きスタイルのバンドオーディション番組で、BEGINやたま、BLANKEY JET CITY等、後のメジャーバンドを排出したことで知られている。しかしながら、放送開始からずっと深夜枠で(特番を除く)、ネット局も決して多くはなかったので、番組そのものが全国的に大ヒットしたかと言うと、実はそうでもなかったのだが、この番組の最大の功績は、番組の人気によってすでに巷で巻き起こっていたバンドブームに拍車がかかり、一気にさまざまなバンドたちがシーンにあふれたことだろう。反面、数多くのバンドたちをメジャーデビューさせすぎたという罪過もあるものの、現在まで続くバンドシーン隆盛の礎となったことは間違いない。
その“イカ天”出身バンドと言うと上記のほか、FLYING KIDSやマルコシアス・バンプといったグランドイカ天キング(5週勝ち抜いたバンドにはそういう称号が与えられた)の名前が思い浮かぶが、JITTERIN'JINNも印象深い。彼女らのその後のブレイクを考えると、グランドイカ天キングになっていたような気もしていたが、本稿制作のため調べたら勝ち抜いたのは1週限りだったと分かって結構意外だった。つまり、2週しか番組では演奏していなかったのだ。1週目が「アニー」で、2週目が「エヴリデイ」。ともにJITTERIN'JINNらしい2ビートナンバーで、それだけに視聴者に強烈なインパクトを与えたのだろう。また、オールディの雰囲気でありつつもどこかニューウェイブ調のビジュアルも良かったし、当時は男女各2名ずつというメンバー編成もキャッチーであったことも人気バンドとなった要因だったようにも思う。さらに、これは当時の宣伝担当の手腕によるところでもあると思われるが、『DOKIDOKI』『Hi-King』という2枚のミニアルバムを短期間で矢継ぎ早にリリースするといった具合に、デビューから話題と情報を絶やさなかったのも勝因だっただろう。ちなみに89年10月にシングル「エヴリディ」でデビューを果たした彼らは、その約5カ月後の90年3月に日本武道館で単独公演を行ない、同年12月には横浜アリーナでの単独公演を成功させている。いかに彼らに勢いが凄まじかったかが分かるだろう。

3ピース+ヴォーカルへのこだわり

『Hi-King』リリースの約半年後に、まさに満を持して発表されたフルアルバム『パンチアウト』をJITTERIN'JINNの代表作に挙げるリスナーも多かろう。彼女たちは未だ現役で活動しているバンドだから初期作品を最高傑作と言うのは忍びなくもあるのでそれは躊躇するが、『パンチアウト』を名作と位置付けることに異論は少ないと思う。この作品は──これはJITTERIN'JINNというバンドの特徴でもあるが──ほとんどの楽曲が3ピース+ヴォーカルで構成されているという何とも潔いアルバムであり(ギターの重ね録りは若干あり。またM7「昼下がり」はエレピ+ヴォーカル)、そこにはバンドの覚悟のようなものが反映されていると思う。当時は今ほどのデジタル技術はなかっただろうが、1990年前後だから、レコーディングにおける表現手段は豊富で、それこそ無限の選択肢があったはずだが、ほぼ外音がなく、3ピースヴォーカルにこだわったスタイルはロックバンドの矜持と言えまいか。音源を聴くと分かるが、3ピースそれぞれの録音バランスが絶妙である。さすがにヴォーカルは前気味でコーラスは後位置ではあるが、おそらくギター、ベース、ドラムは均等に聴こえるように配慮されていると思われる。ライヴでのサウンドと寸分違わないわけではなかろうが、JITTERIN'JINNが4人編成のバンドであることが強調されたサウンド作りと言える。それでいてカントリー、R&R、スカ、和風、沖縄調とバラエティー豊かな楽曲にチャレンジしている姿勢はカッコ良いし、「ロックバンドはこうでなくちゃ!」と素直に称えたい点である。
メロディーに関しては、後にカバーされて、世代を超えたヒットチューンとなったM6「夏祭り」や、オリコンチャート1位を記録したM9「にちようび」でお分かりの通り、キャッチーなものばかりで、もはや説明不要だろう。強いて補足するなら、言葉の乗せ方が巧みな点も耳に残りやすいという効果を産んでいると思う。JITTERIN'JINNについて個人的に最も特筆したいのは歌詞だ。《キスをかわして舌をだしては 煙草をふかす耳許でダーリン フラストレーションたまりすぎてる このまま行けば爆発しそう》と男目線で子悪魔的女の子を描いたM2「あまのじゃく」がある一方で、《愛しても届かない人だから あきらめる》《知らない間に好きになってた 彼女がいる事もわかってたのに》と、名曲「プレゼント」にも通じる哀しき横恋慕を描いた女性目線のM4「ひっこし」。そして、《線香花火マッチをつけて 色んな事話したけれど 好きだって事が言えなかった》とノスタルジックに少年の恋を歌ったM6「夏祭り」と、本作でも、楽曲毎に主人公も時間軸も異なる世界観を見事に描いている。全ての作詞はギターの破矢ジンタが担当(作曲、編曲も破矢)。同一人物が書いているとは思えない…とまでは言わないが、さまざまなシチュエーションを表現するする技量はかなりのものであると言わざるを得ない。特に男性でありながら女性目線のシチュエーション設定や言葉選びは巧みで、この辺りにもJITTERIN'JINNがヒットした要因があったと想像する。また、M5「ウォー ウォー ウォー」では“ボーイ・ミーツ・ガール”ばかりではないところも垣間見せるなど、実はなかなか懐も深い。
先ほども述べた通り、活動のペースは“イカ天”時代と比べるまでもないほど緩やかではあるものの、JITTERIN'JINNは依然現役である。作品としては過去にファンクラブ限定で発売されたアルバム『CARAMBA!』を一般発売したのが2008年。2010年に、1990年に発表された「なつまつり」を配信限定でリリースしている。4年ほどご無沙汰の感ではあるが、結成が1986年だからそろそろ30周年が視野に入ろうかという時期である。根拠は何もないが、来年以降、何かしら動きがあるような気がしないでもない。随分とライヴを観ていないので、元気な姿を見たいものである。

著者:帆苅竜太郎

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

新着