『I could be free』は
原田知世の自信と
確かなキャリアの
積み重ねを感じる佳作

『I could be free』(’97)/原田知世

『I could be free』(’97)/原田知世

先月バラードアルバム『Candle Lights』を発表したばかりの原田知世。今週は彼女のオリジナルアルバムの中から、“歌手・原田知世”の代表作と言っていい『I could be free』を取り上げる。アイドルから本格派シンガーへ転身した後の作品として、今聴いても、まさしく自由な精神が表れた佳作である。

時代毎に示す確かな存在感

今春から放送されて話題を呼んだ原田知世主演ドラマ『あなたの番です』の略称“あな番”が、今年の新語・流行語大賞のノミネート30語に選出されたと聞いた。この原田知世という人。デビュー以来、ずっと日本のエンタテインメントのメインストリームに居続けている…という感じではないけれども、節目々々でとても印象的な仕事を我々の元に届けてくれる、何とも不思議なポジションにいるアーティストだと思う。また、それは歌手と女優というふたつの顔を持っているからであろうが、忘れた頃にやって来る…というのとは違って、付かず離れずとでも言うべき絶妙なタイミングでメインストリームに顔を出す。少なくとも私にはそんな印象がある。

1980年前半に一世を風靡した、言わば“角川映画アイドル女優期”から始まって、1980年後半には主演映画『私をスキーに連れてって』が大ヒットしてスキーブームを牽引。その後、1990年代からは鈴木慶一やTore Johanssonらのプロデュースのもと、数々のオリジナル音源を制作して、シンガーとしての活動を本格化。2007年には高橋幸宏が中心となって結成されたバンド“pupa”に参加した。2017年にはセルフカバーアルバムの発売やアニバーサリーツアーを開催して、自身のデビュー35周年を華々しく祝ったことも記憶に新しい。昨今はドラマで母親役を演じることも多く、女優としての新境地を築きつつある中で、また主演ドラマである“あな番”がヒット。ザッと彼女のキャリアを振り返っただけでも、10代、20代、30代、40代、50代と、しっかりとその存在感を示す作品を制作してきた。しかも、それぞれの時代でそのスタイルが異なっているのは何気にすごいことではないかと思う。

15年ほど前、原田知世にインタビューさせてもらった時、“微妙なところで微妙な出会いがあるんですよ。それによって知らず知らずに助けられてきたんだなって思います”と彼女が言っていたことを思い出す。運が良い人であるのだろうが、運も実力のうちとはよく言われる。彼女の天賦の才が人との出会いも引き寄せているのであろう。

歌詞に表れた達成感と自信

さて、このままの勢いで、『時をかける少女』や『私をスキーに連れてって』の話とか、ドラマ『紙の月』とその映画版との差異から見るアイドル論を述べてみたい気もするが、残念ながら当コラムは邦楽名盤であるので、以下、素直に原田知世のオリジナルアルバムを解説することとする。そのアルバムも、個人的には『バースデイ・アルバム』(1983年)や『撫子純情』(1984年)、『PAVANE』(1985年)辺りで行きたいくらいなのだが(特に『PAVANE』はそのジャケ写の素晴らしさだけを延々と書き連ねたいほどなのだが)、ここは正統に(?)『I could be free』で決めよう。前述したTore Johanssonのプロデュース作であり、その前の『GARDEN』(1992年)、『Egg Shell』(1995年)、『clover』(1996年)という鈴木慶一プロデュースの3部作で確立した“シンガー・原田知世”の姿を決定的に示したと言っていい作品である。何しろ、タイトルからして“I could be free”(私は自由になれた)なのだ。かなりの達成感と相当な自信とがなければ付けられるものではない。まず、原田自身が手掛けている本作の歌詞から見て行こう。

 《その愛で その足で/誰かのハードルなんて/飛び越えて/道なき道を行こう/何処へでも/貴方の思いのまま/貴方だけの/光る未来の方へ》(M1「愛のロケット」)。

 《I could be free/信じて/I could be free/許しあって/I could be free/与えあって/I could be free/この声が 遠く誰かに届くだろう》(M2「I could be free」)。

《まわりのことなら/そう 笑い飛ばして/今日は言ってやろう/君は君のもの/そして 今を生きて/きっとできる》《道草しよう(花を摘んで)/泳いでみよう(もっと自由に)/出かけてみよう(風にまかせ)/眠っていよう(もっと深くね)》(M3「君は君のもの」)。

《花をみて 風をみて/目をそらさず あなたに伝えよう/手のひらに溢れそうな/ロマンス抱きしめて》《始まりはわたしから/あなたへと 素直に伝えたい/この胸に生まれたての/ロマンス握りしめ》(M5「ロマンス(Album Version)」)。

《遠く ああ遠く あの星あたり/声を投げてみよう/Hey! ハロー ハロー今夜》《パレードは続く/七色の虹 Ah/未来図は何の色?》《どんなものより/素晴らしい明日が来るように/Hey! ハレルヤ! 今夜》《パレードは続く/オレンジの空 Ah/Milky way進んで行く》(M9「PARADE(Album Version)」)。

《抱えきれないものを/すべて放り出したなら/波音だけを聞きながら/瞳を閉じて/ダンスを踊ろう 軽やかに/夜が更けるまで/月のゴンドラ揺れている》《火照る体が溶けるくらい/いついつまでも/泳いでいたい このままで/青い魚と/月明かりを浴びながら》(M10「バカンス」)。

《着飾ったドレスは蝶のようで きれいなだけ/そのままでいいから 真実があればいい》《燃える太陽を抱いて 眠っていたい/愛のカケラならすべて抱きしめていたい》《壊れかけたソファーで 昼と夜を見送って/夢中になれることだけ この部屋にあればいい》(M12「燃える太陽を抱いて」)。

《たまには ぶつかりあって/傷だらけでもいい そんな気分》《現実という海に飛び込んだなら/波の向こうに島が見えてきた》《白く素晴らしい翼はいらないから/ほんの少しの勇気が欲しいだけ/ドアをたたく/di di da di da/今すぐに》(M13「ラクに行こう」)。

図らずも多くを引用してしまったが、そうしたくなった気持ちを理解してほしいくらいに、やる気が漲っているというか、確信に満ちた内容がそれと分かるようにずらりと並んでいる。その指向、方向性もパキッとクリアーだ。映画やドラマのイメージからすると、原田知世には清楚な印象を抱かれている人が多いと思うのだが、そこと相反する…とは言わないまでも、凛とした力強さを上乗せしていると言ったらいいだろうか。何か(それはおそらく自身が作り出す音楽そのものであろうが)を発信しようとする姿勢がありありと伝わってくる。M12「燃える太陽を抱いて」の《着飾ったドレスは蝶のようで きれいなだけ》などは、アイドル時期を知る者にとっては少しドキリとさせられるフレーズであるが、それも彼女が完全にアーティスト、クリエイターへと脱皮したことの証左であろう。

OKMusic編集部

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