1stアルバム『A.R.B.』から紐解く、
ARBの先見性とクオリティーの高さ

1970年代後半では未だ珍しかった社会派メッセージを携えて、時代に喝を入れたARB。孤高のロックバンドとのイメージを抱く人も少なくないだろうが、その多彩でポップなサウンドは現代にも充分通用する親しみやすさを持っている。多くのフォロワーを生み出したことにも納得できる豊かな音楽性は、ロックファンなら触れておいて損はないだろう。

サザンオールスターズのデビュー、YMOの台頭、RCサクセションのブレイクと、1970年代後半から80年代初頭にかけての邦楽シーンは、その後のバンドブームにつながる礎を築いた時期だったと言える。上記のバンドの他、アナーキーやザ・スターリンといった和製パンクバンドも出現し、アルバム単位での作品制作やライヴコンサート中心の活動がバンドにとって常態化していった。そんな中にあって、このARBも後世に多大なる影響を与えたバンドのひとつであることは間違いない。
ALEXANDER’S RAGTIME BAND(アレキサンダー・ラグタイム・バンド)の頭文字を取ってARB。その全盛期を知る者にとってはストイックな社会派バンドというイメージが強いのではないかと思う。バンドスタイルがシーンに定着しつつあったと言っても歌詞に関してはまだまだ恋愛をモチーフにしたものが多かったあの頃、戦争や社会問題を歌うバンドなんてそうは居らず、石橋凌(Vo)の佇まいと相まって実に硬派に映った。ARBがまったくラブソングを歌わなかったバンドかというとそんなことはないし、実際にはラブソングも少なくなかったが、社会派の側面が目立ったことは確かだ。また、ディレクターからの「他のバンドのように洋楽をパクれ」という要求を拒否し続けたとか、アイドルバンドとして売り出そうとした所属事務所と袂を分かって独立したとか、それらの逸話もロックバンドとしてのARBの存在感を大きくした。独立後に発表したシングルが、《家も 町も 遠く離れて 一人道を走る ボクサーのように闇切り開け!》と歌われる、ARBを代表する名曲「魂こがして」というのは今もってシビれるエピソードだ。
1stアルバム『A.R.B.』からしてその片鱗は垣間見ることができた。《狭い箱に入れられ 鎖に つながれて 俺らと同じ月を見て 涙 流すのか》(M3「野良犬」)や、《人はみんなつくり噺に あいづちうって つくり笑い 今にきっと おちてゆくさ》《浮かない顔した男が 今日も仕事 終わらせて 下の通りを 過ぎてゆく いつも一人 一人で》(M7「夜街(よるのまち)」)といったシニカルな視点は見逃せないし、《おふくろが きらいになったんじゃない この家が いやになったんじゃない 今は ただ この灰色に褪せた 街を 出てゆきたいだけ》(M4「淋しい街から」)とイニシエーションをストレートに綴っているのも興味深い。これらはBOOWYや尾崎豊もモチーフとしていたが、本作の発表は彼らの出現よりやや早い。白眉はM9「喝!」だ。《TVに 洗脳された子供達は そうさまるで ロボットみたいに 機械的に 男を誘う街の女が 立ってるすぐ横を 学校終わって アスファルトの 学路を急ぐ》と強烈な社会風刺をぶつけ、《クールな時代の産物が まかり通る 大手を振って 路地の裏まで やってくる 人は 知らず 知らずのうちに 熱を吸い取られて 姿こそ 見えないけれど》と残酷な現実を直視しつつも、《今が 戦う時だぜ 風が 凍てつく前に 引き裂く前に 心が 凍てつく前に 色褪せぬまに 街が 凍てつく前に 引き裂く前に 地球が 凍てつく前に 色褪せぬまに ここで一発 喝!》と文字通り、時代に喝を入れている。デビュー作品でこういったことを歌うバンドは今もそれほど多くはない。後に発表される、連続幼女誘拐事件を予期していたかのような「MURDER GAME」(12thアルバム『SYMPATHY』に収録)等に連なるARBらしさの萌芽と言える。ちなみにこの《喝!》は張本勲氏より相当早い。
…といった書き方を先行させると、ARBを知らない最近のリスナーに「堅い音楽をやっていたバンドなのかな?」と思われるかもしれないので、ポップセンスとバラエティー豊かなサウンドを誇るR&Rバンドであったことを強調しておかなければならないだろう。この辺りもすでに1stアルバム『A.R.B.』から発揮されている。これもまたM9「喝!」を例に挙げるが、《ここで一発 喝! ここで一発 喝! 喝! 喝! 喝!》というフレーズ、言葉の乗せ方は極めてポップで分かりやすい。M3「野良犬」、M6「パブでの出来事」のサビもメロディアスでキャッチーだし、ミディアムだがM4「淋しい街から」のメロディーは独特の起伏で高揚感が得られる。サウンドに耳を移せば、タイトで疾走感のあるR&Rは当然のこと、ソウルを感じさせるM1「ワイルド・ローティーン・ガール」、レゲエ調のM4「淋しい街から」、ブギーナンバーM6「パブでの出来事」、ジャジーなM7「夜街(よるのまち)」、M8「ジャックナイフ・ブルース」はツイストで、M10「OH! PLEASE」はブルースと、バンドアレンジは実に多彩である。
個人的に注目なのは、初期メンバーであるENMA(Key)の作詞・作曲のM5「宝くじ」。何とも表現しようがないが独特のポップ感を持ったアルバム中で最も弾けたナンバーで、間違いなくアルバムのアクセントになっている。生粋のARB KIDS(=ARBファンのことをこう呼ぶ)の評判はあまり芳しくないとも聞くが、筆者はこういったナンバーをやれたところにARBのキャパシティーの広さを感じざるを得ない。ちなみに彼らは後に「ウイスキー&ウォッカ」という楽曲を発表するが(アルバム『W』に収録)、これはラップ調だったりする。韻を踏んでないので厳密にラップと呼べるものではないだろうが、ファンキーなギターサウンドに乗せられる、Aメロの石橋凌の歌い方の抑揚のなさはラップを彷彿とさせる。この楽曲の発表は1982年。日本語ラップの黎明期と見事に重なる。石橋氏や作曲した田中一郎(Gu)がどこまで意識していたかどうか分からないが、意識していたとするならばこれは所謂ミクスチャーロックの元祖だろう。ことの真偽はともかく、この辺りからもARBは懐の深いバンドだったことがうかがえるはずだ。
優秀なアーティストの1stアルバムにはその全てが詰まっている…とは誰が言ったことか忘れたが、ことほどさように、1stアルバム『A.R.B.』はいかにARBが優れたバンドで、その後の躍進を約束する作品だったかが分かる名盤だ。その後のARBは幾度かのメンバーチェンジを繰り返し、1990年に石橋氏の俳優転向により活動停止。1997年にARBフォロワーのひとりユニコーンのEBI(Ba)らが新加入して復活したものの、2006年に石橋氏の脱退によって再び活動を停止した。その後、石橋氏は音楽活動を再開したようだが、ARBとしての活動は行なっておらず、バンドでの復帰が待たれる。できれば同じステージに立つ石橋凌と田中一郎とを見たいものだが──。

著者:帆苅竜太郎

OKMusic編集部

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