ISSAYが
思春期への想いと自らの過去を
赤裸々に綴ったDER ZIBET『思春期』

『思春期I -Upper Side-』『思春期II -Downer Side-』('91)/DER ZIBET

『思春期I -Upper Side-』『思春期II -Downer Side-』('91)/DER ZIBET

またも衝撃的なニュースが飛び込んできた。当サイト既報の通り、DER ZIBETISSAY(Vo)が8月5日に不慮の事故により死去していたことが発表された。いわゆるビジュアル系というカテゴリもなかった1980年代半ば、その原型にもなったと言えるデカダンスな世界観を標榜したバンドのヴォーカリスト。BUCK-TICKの櫻井敦司を始め、ファンを公言している後半アーティストも多く、彼らより下の世代のリスナーにもその存在は広く知られているだろう。この度の訃報に際し、即日当サイト・編集長より“手元にあるDER ZIBETのアルバムはベストと『思春期I&II-UPPER SIDE-DOWNER SIDE-』だけなのですが、とりあえずお送りしておきます”と音源が届いた。ISSAY追悼の意味を込めて、『思春期I&II-UPPER SIDE-DOWNER SIDE-』…つまり、『思春期』2部作を速攻解説する。

思春期をポジティブに捉える

DER ZIBETは日本初のデカダンスバンドとして語られている。デカダンス(=décadence)とは退廃、衰退と訳されて、[特に文化史上で、19世紀末に既成のキリスト教的価値観に懐疑的で、芸術至上主義的な立場の一派に対して使われ]、そこから道徳的に堕落していることをも指す([]はWikipediaからの引用)。その観点からすると、DER ZIBETをご存じない方の中には、さぞかし教育上悪いバンドと思われる方もいらっしゃるかもしれない。ちなみに、今回紹介する2作品以前のDER ZIBETのアルバムは『HOMO DEMENS』で、これはラテン語で“狂った人間”“錯乱したヒト”という意味なので、その作品名からも少しばかり危ない匂いがする。まぁ、元来ロックバンドは大なり小なり教育上よろしくないわけだし、デカダンスで危ない感じだからと言って、極端に忌み嫌う人が21世紀の今、大量にいるとも思わないのだが、もしそんな人がいるのなら、避けて通るのは『思春期I -Upper Side-』&『思春期II -Downer Side-』を聴いてからにしてほしい。そこは強調しておきたい。

今回、この2作を一気に聴いた(とはいえ、ミニアルバム×2なのでそれほど長時間ではないのだが…)。これはかなり前向きでかなり赤裸々な作品である。DER ZIBETはそのデカダンスな方向性からV系の元祖とも言われているようでもある。その耽美な世界観はどこか浮世離れしたものと見られることもあろう。しかし、この2作品には人間味がある。いや、人間味しかない。“人間臭い”と言い切ってもよかろう。ロックバンドはかくあらねばならないと思うし、音楽に限らず、こういう作品を作るのがアーティストなのだとすら思う。まさに渾身のアルバムと言える。

本作を前向きと評したのは簡単な話で、それは歌詞を見れば明らかだ。歌詞の解釈は聴く人それぞれだろうし、場合によってはその作者ですらどう受け取っていいか分からないものもあると聞くけれど、この作品に関しては、ポジティブにしか受け取れないものばかりと言っていいと思う。“Upper”とサブタイトルが付けられている『I』のみならず、“Downer”な『II』もそうであるから、これはかなり意図的にポジティブを指向したのだろう。本作は『思春期』というタイトルがまずあって、そこからの発想で作られたともいうから、ISSAYにとって“思春期”は前向きな想いを呼び起こすものだったとも考えられる。とりわけ気になったのは以下の楽曲の歌詞。

《この地獄の季節を僕と駆け抜けてくれないか/何も持たずに今を抱きしめてくれ》《傷つく事も捨てる事もなく欲しがるのは悪いクセさ/何も持たずに僕とかけ抜けてくれ》(I :M1「VICTORIA」)。

《Hey Now Boy 聞こえているかい?/おまえの中の 軋んでる声が/Hey Now Boy 希望と絶望を/ポケットにつめ込み 家を出ていこう/寝静まってる 街中は/きっと冷たく優しいさ》(I :M3「SWING IN HEAVEN」)。

《1 2 3 Forever now/Bad Lemon が弾けて/うぶ声をあげる時が来た/七番目の天使といっしょに昇りつめたいのさ/快楽の虫が脱皮してエクスタシーばらまく/何もかも思いのまま Yeah Yeah Yeah/太陽がいっぱいさ Yeah Yeah Yeah》(I:M5「七番目の天使」)。

《朝もやの中を/オレンジ色のバスに乗り/橋を渡るのさ/どこまでも》《これで終りさ 短かく熱い季節も/きのうと違う風が吹き抜けた》(I:M7「SEASON」)。

《街を越えて/雲を越えて/歌が鳴ってた/空の上/響いてた/チョコレート ドリーム/チョコレート ドリーム/チョコレート ドリーム/マーマレードの空の下で君に会いたい》《こんなに何もないからっぽな自由が好きだ》(II:M1「Chocolate Dream」)。

《にぎやかな通りをさけながら/狂いはじめた時間を歩いて行こう/忘れかけた痛み握りしめて/君のドアをノックするのさ》《雨あがりの日曜/そっと君をむかえに行こう/涙の枯れた日曜/風に乗って魂になった君を》《終らない季節へと/二人きりで旅をしに行こう》(II:M5「雨あがりの日曜」)。

《新しい風が吹いてきたから/果てしない道を歩きはじめる/きのうより少し大きくなった体で/まっすぐ ゆっくり 振りむかずに》(II:M7「Good-bye Friend」)。

《地獄の季節》や《軋んでる声》、《忘れかけた痛み》など歌詞の背後には艱難辛苦があるわけで、むやみやたらにポジティブ全開というわけでもない様子ではある。だが、それらを認めつつも、駆け抜けたり、家を出たり、脱皮したり、橋を渡ったりと、ここではない場所であり、ネクストレベルであるを目指す姿勢が徹底的に描かれている。M7では《振りむかずに》と言い切っているのも象徴的ではある。こうしたポジティブな歌詞は、作詞者であるISSAYが自身の思春期を回想したものなのか、あるいは当時まさに思春期の真っ只中にいたリスナーに向けたメッセージだったのかは分からない。しかしながら、発表から30年以上経った今も多くの人が共感するに違いない汎用性があることも注目に値すると思う。

OKMusic編集部

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