シーナ&ロケッツの名を一躍、有名に
した名盤『真空パック』

2015年の2月14日に永眠したシーナ。結果、最後の作品となってしまった2014年にリリースされたシーナ&ロケッツ通算18枚目のアルバム『ROKKET RIDE』には最高にポップで尖ったロックンロールが詰まっていた。そんなシーナ&ロケッツの名盤を選ぶに当たって『真空パック』にするか、1981年にリリースされた『Pin-up baby blues』にするか迷ったが、人気がブレイクするきっかけになったヒットシングル「YOU MAY DREAM」は今、聴いてもキュンとせずにはいられない永遠のポップチューンということで、2ndアルバム『真空パック』を紹介しよう。YMOの細野晴臣がプロデュースを手がけ、坂本龍一、高橋幸宏も参加している本作はパンク、ブルースをルーツとするシーナ&ロケッツとニューウェイヴ、テクノのミラクルな融合。時代の空気を強烈に感じさせるアルバムでもあり、“真空パック”というタイトルからして新鮮で、当時、めちゃめちゃロックンロールだと感じた。しかも、サンハウスのギタリストとして有名だった鮎川誠とシーナは華やかでクールな存在、パフォーマンス、発言からしてロックそのもの。このふたりが並んでステージに立てば向かうところ敵なしぐらいのオーラを放っていた。

シーナと鮎川誠のコンビネーションは無

 時代はシナロケ以前にさかのぼるが、初めて鮎川誠というギタリストを観たのはラジオでもなくTVでもなく、ライヴだった。日比谷野外大音楽堂で開催されたロックフェスにサンハウスが出演し、雑誌でしか見たことがなかったバンドを初めて目の当たりにしたのだ。“菊”こと柴山俊之のグラマラスな衣装とメイク、ステージングも強烈だったが、鮎川誠はひとことで言うと“この人、日本のミュージシャン?”と思ったぐらいオシャレであった。当時の日本のロックシーンは飾り気のない格好をした人たちのほうが圧倒的に多かったが、その時の鮎川誠のファッションはタイトな黒のレザーの上下のスーツに白いシャツ、細いネクタイ(と記憶している)。まるでエルヴィス・コステロみたいだなと思った(実際、シーナ&ロケッツ結成後にコステロ来日公演のオープニングアクトを務めた)。長身でレスポールをかき鳴らす姿が外タレみたいだったのである。
 そんな鮎川誠がキュートでセクシーでバービー人形みたいなシーナと出会って結婚し、シーナ&ロケッツを結成したのはなんだか、出来すぎた物語のようである。ふたりはロックンロール、パンクのツボが何であるか最初から知り尽くしていた。小手先のテクニックより、大事なのは“ジャーン”とギターをかき鳴らしたその瞬間、シャウトしたその瞬間に心を震わせられるかどうか。
 結成当初のオリジナルメンバーはシーナ、鮎川誠、奈良敏博(Ba)、川嶋一秀(Dr)。のちに九州出身のロックバンドは“めんたいロック”と呼ばれ、注目を集めることになるが、ルースターズやロッカーズにも影響を与えたであろうカミソリのようにキレのいいビート、生活感のないモダンなロックンロールは日本のシーンの中では明らかに“新種”だったと思う。そんなシーナ&ロケッツの音楽とYMOが交わったという意味で、『真空パック』はあの時代の事件だったのではないだろうか。

アルバム『真空パック』

 YMOが所属していた先鋭的なレコード会社、アルファレコードから細野晴臣をプロデューサーに迎えて制作した2ndアルバム。柴山俊之が作詞を手がけ、曲を鮎川誠と細野晴臣が共作、細野晴臣がアレンジを担当したシングル「YOU MAY DREAM」はJALのCMソングに起用され、約20万枚のヒットを記録。シーナ&ロケッツの名前を一躍、有名にした。イギー・ポップへのオマージュ的な「OMAEGA HOSII」やジェームズ・ブラウンのカヴァー、「I Got You ,I Feel Good」、鮎川誠がヴォーカルをとるパンクチューン「STIFF LIPS」、シーナのやさぐれたヴォーカルとギターの音が最高にカッコ良いキンクスのカバー「You Really Got Me」などライヴ感たっぷりのナンバーも収録され、スリリングでキレッキレのシーナ&ロケッツの演奏が真空パックされている。と同時に甘酸っぱいメロディーと歌詞にキュンとさせられる「YOU MAY DREAM」やニューウェイヴなアレンジが施された(ザ・カーズにも通じるものがある)「LAZY CRAZY BLUES」、やはり80年代ポップの匂いがする「MOONLIGHT DANCE」が聴けるのが本作の魅力。シーナのワイルドサイドと乙女サイドが両方、引き出されている。ちなみに鮎川誠がヴォーカルをとる「Radio Junk」はクリス・モズデル(YMOや山下達郎などに詞を提供したイギリスの詩人)と高橋幸宏によるナンバーで、坂本龍一、高橋幸宏もレコーディングに参加。ジャンルは違えど、シナロケもYMOもモダンなセンスは共通している。結果、ロックでキッチュでチャーミングなアルバムに仕上がった『真空パック』は日本のロック史に残る一枚だと思う。

著者:山本弘子

OKMusic編集部

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