Bridgeの1stアルバム
『SPRING HILL FAIR』の普遍的な
ポップセンスと先見性を湛えたい
50:50の男女混成バンド
全員女性のレディースバンドはいたし、ヴォーカルもしくはキーボードが紅一点というバンドはわりといた。女性ヴォーカルと男性ギタリストのユニットもいた。だが、ヴォーカリストとキーボード以外で女性がいるバンドは少なかったと思う。あれはなぜだったのか? 1990年代後半の第二次バンドブームまではバンド自体が本格的に市民権を得ていなかったということなのかもしれないし、バンド界隈にも男尊女卑思想が横たわっていたのかもしれない。どうしてかよく分からないが、当時は確実にそんな状態だった。
そこで現れたBridgeは、大友真美(Vo)、池水真由美(Key)、黒澤宏子(Dr)の、バンドの50パーセントが女性というジェンダーレスなバンド(?)であった。まず、そこが新しく映ったとは思う。ヴォーカル、キーボードはともかく、レディースバンド以外の女性ドラマーは、当時は結構画期的だったのではなかろうか。あの頃もドラムを叩く女性アーティストがいるにはいたが、それは鈴木祥子、森高千里といった弦楽器も鍵盤も操るマルチプレイヤーだったし、バンドでの女性ドラマーはちょっと思い浮かばない。
ナヲ(マキシマム ザ ホルモン)やSATOKO(FUZZY CONTROL)をはじめ、山中綾華(Mrs. GREEN APPLE)など女性ドラマーも珍しくなくなった今。そこへ直接、影響を与えたのがBridgeだとは言わないけれども、女性ドラマーがいる男女混成バンドの走りとして、のちのシーンに何かしらの作用があったと考えるのは強引な論法でもなかろう。
そもそも6人編成というバンドは今でもわりと珍しいほうだが、ここも良かったんだと思う。上記、女性メンバーに加えて、清水弘貴(Gu&Vo)、加地秀基(現:カジヒデキ)(Ba)、大橋伸行(Gu)。今も残るアー写を見てもルックもバランスもとてもいい。
当時は珍しい全編英語詞でのデビュー
Bridgeは小山田圭吾がフリッパーズ・ギター解散後に立ち上げた“Trattoriaレーベル”からのメジャーデビューで、その小山田のプロデュースというのも大きかったのだろうか。前述のように『SPRING HILL FAIR』はオール英語詞。彼らが自然体で臨めたことは想像するに難くない(小山田プロデュースではない2ndでは日本語詞が増えて、それを最後に解散してしまったのは皮肉なことだが、逆説的にそれを証明していると思う)。
現在10~20代の音楽ファンにとっては、「英語詞ではデビューできない」や「英語詞のままでは活動が続けられない」なんて信じられない話かもしれない。今や超メジャーなバンドでも普通に英語で歌っている。これもまた、そのような現在の状況をBridgeが作り上げたなどと言うつもりはないけれども、あの頃、彼女らが英語詞を貫いたことはその後のシーンの変容に(わずかではあったかもしれないが)関係していると思う。
グルービーなネオアコに独特の歌声
一方、バンドサウンドはどうかと言うと、一見、緩いように見えて極めて硬派。まず、ギターがとてもいい。分かりやすくカッコ良いのはM6「HE, SHE AND I」だと思う。ワウペダルを使った(と思われる)チャカポコしたカッティング、サビでのフランジャー(たぶん)とエフェクトも多彩で、間奏でのソロは鋭角的(間奏はどの曲もロック然としたアプローチであるが)。単純にネオアコと分けられないポテンシャルがある。
リズム隊が支えるグルーブもいい具合だ。どれもこれもグルービーと言えばグルービーなのだが、その中からあえて1曲を挙げるとすると、M2「KISS MY THOUGHT GOOD-BYE」やM5「MISSION ORANGE」もいいが、M10「BETTER DAYS」だろうか。ポップさに甘えない…と言ったらいいか、ポップなだけではないしっかりとしたバンドアンサンブルを聴くことができる。加地のベースのうねりがよく、特に間奏でのギターとの絡みは聴きどころではあると思う。Bridgeが甘ったるいバンドでないことが分かるトラックだ。
硬派なバンドサウンドと独特の声質のヴォーカル。ミスマッチだとは思わないし、対位法的とも言わないが、この邂逅がBridgeにしか成し得ないスタイルを生んだような気がする。男女混声はもちろん、ラップ、ボカロと、さまざまなヴォーカルとバンドサウンドの融合が当たり前となった最近のリスナーにはピンと来ないかもしれないが、当時このスタイルは新しかったし、これまたのちのシーンへの影響がまったくなかったかと言ったら、微力ながら確実に影響を及ぼしているだろう。
今、“サウンドも声質も異なるけど、Bridgeの構造はMy Bloody Valentineに近いのかもしれないなぁ”とか思ったのだが、マイブラも男女混成バンドで、男女比50:50だ。何かあるのかもしれない(ないのかもしれない)。
ポップ! メロディアス!
キャッチー!
A~サビのリピートにしても単純なそれではなく、A~サビ~Bな展開というか、A~サビ~大サビな展開というか、Aもサビも展開が多いと言ったらいいか、音符に動きがないのはおかしいと言わんばかりの旋律。どれも複雑さ、難解さはなく、普遍的な親しみやすさを持っており、どの曲もポップ、メロディアス、キャッチーのオンパレードといった感じである。声質、バンドサウンドの好みはあるだろうが、歌にしてもギターにしてもキーボードにしても、このメロディーが聴くに堪えないという人がいるとしたら、それはよっぽどの変わり者だろう。
現代にも十分に通用する旋律…というよりも、今でも一線級の評価を得るようなものもがいくつもあると思う。そこで提案だが、大友の声から考えて、ティーンの女の子、あるいはローティーンの男の子が歌えば原曲の雰囲気を損ねることがないと思うので、現役若手アイドルにカバーしてもらうのはどうだろうか。Bridgeを知らない層にはかなり新鮮に響くだろう。あれから四半世紀。当時のコアなリスナーには若手アイドルの親と変わらない年代の人も多いだろうから、温かく見守ってくれるだろう。Bridgeを再評価するにあたっては悪い話ではない気もするのでご一考を願う(すでに誰がカバーしてたらごめん)。
まぁ、カバーは半分冗談だけど、高品質なサウンド、メロディーだけでなく、下記のようなしっかりとしたメッセージ性を持っていたバンドだけに、その存在は後世に伝えていくべきだとは思う。
《Where can I stay and be held as someone new/I go to the place unknown》(M5「MISSION ORANGE」)。
《Where can I stay and be held as someone new/I go to the place unknown》《Let me with heartache and pain/Fighting and loving can be one/Take away my heartache and free me》(M10「BETTER DAYS」)。
《So may life be sweet bells for you/So may life be sweet bells for you/In the bright day,yet to be/Evermore make melody》(M11「SWEET BELLS FOR...」)。
カジヒデキをはじめ、メンバー全員が今も音楽に携わっており、Bridgeというバンドの意思はそれぞれが背負っている部分もあるだろうから、過度に煽るのは無粋かもしれないが、これまで以上に多くの人にその存在を知ってほしいバンドであることを、本稿作成しながた思ったので、改めて記して本稿を締め括る。
TEXT:帆苅智之