『to LOVE』収録曲と
シンガーとしての特徴から
ポップアーティスト、
西野カナを考察してみた

歌詞に見る刹那のソウル

さて、最後に『to LOVE』収録曲の歌詞を見てみよう。これはアルバムを頭から通して聴いていて気付いたことだが、サビの歌詞がほとんど変化しない。他のアーティストでは、1番と2番とでサビの歌詞がまるっと変わることもあるし、まるっと変わらないまでも、その一部が変わることはわりとある。本作収録曲はそれがあまりない。シングル曲は、まったく変化しないと言ってもいい。

《ありがとう/君がいてくれて本当よかったよ/どんな時だっていつも/笑っていられる/例えば、離れていても 何年経っても/ずっと変わらないでしょ/私たちBest Friend/好きだよ、大好きだよ》(M2「Best Friend」)。

《もっと愛の言葉を/聞かせてよ私だけに/曖昧なセリフじゃもう足りないから/もっと君の心の中にいたいよ/どんな時でも離さないで》(M7「このままで」)。

《会えない時間にも愛しすぎて/目を閉じればいつでも君がいるよ/ただそれだけで強くなれるよ/二人一緒ならこの先も》《どんなことでも乗り越えられるよ/変わらない愛で繋いでいくよ/ずっと君だけの私でいるから/君に届けたい言葉/Always love you》(M11「Dear…」)。

《会いたくて 会いたくて 震える/君想うほど遠く感じて/もう一度二人戻れたら…/届かない想い my heart and feelings/会いたいって願っても会えない/強く想うほど辛くなって/もう一度聞かせて嘘でも/あの日のように“好きだよ”って…》(M12「会いたくて 会いたくて」)。

サビ頭のM12は、その頭だけが《会いたくて 会いたくて 震える/君想うほど遠く感じて/もう一度聞かせて嘘でも/あの日のように“好きだよ”って…》と縮小されてはいるものの、言葉は寸分違わない。楽曲が進行するに連れて歌詞を変化させてなくてはならないという法があるわけじゃなし、変わらなくとも別に構わないのだけれど、ここまで変わらないと、おそらく徹底してやっていることだと推測出来る。言うならば、あえてリフインさせているということだ。何故だろうか? 考えられる理由としては、やはり強調ということになるだろう。本作収録曲、とりわけシングル曲は、1曲を通じて物語を語るタイプではなく、ひとつのシチュエーションとそれに伴った感情を吐露するタイプである。時系列に沿って進んで行くものではなく、瞬間、刹那を描写したものということも出来る。そう考えると、徐々にテンションを上げていくのではなく、そのエモーションをパッと(ズバッと…とか、フワッと…とか擬音はいろいろあるが)そこに乗せればいいし、歌詞がまったく同じであるが故に、2サビ、3サビで歌い方を変える必要はないのだ。そんな風に考える。歌い上げるタイプであったり、過剰に感情を出したりする歌唱がマッチしないと前述したのはそこである。歌詞、メロディーに宿ったソウルはひとつであるが故に、歌い方がコロコロと変わるのはおかしい。そういう言い方も出来るだろうか。これはあくまでも一考察。実際、彼女自身がどう思っているのかは分からないし、多分、間違っているとも思う。だが、西野カナの音楽は、そんなふうにあれこれと考えさせる余地を孕んでいることは間違ない。考えさせる余地があるということは、ポップミュージックとして極めて優秀ということである。

TEXT:帆苅智之

アルバム『to LOVE』2010年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.*Prologue* 〜What a nice〜
    • 2.Best Friend
    • 3.Summer Girl feat.MINMI
    • 4.Hey Boy
    • 5.もっと…
    • 6.love & smile
    • 7.このままで
    • 8.MAYBE
    • 9.WRONG
    • 10.Come On Yes Yes Oh Yeah!!
    • 11.Dear…
    • 12.会いたくて 会いたくて
    • 13.You are the one
    • 14.*Epilogue* 〜to LOVE〜
『to LOVE』('10)/西野カナ

OKMusic編集部

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