『to LOVE』収録曲と
シンガーとしての特徴から
ポップアーティスト、
西野カナを考察してみた
メロディーに見る“R&B味”
“R&B味”がないわけでもないし、“R&B味”一辺倒でもない。それはシングルチューンに限った話ではなく、他の収録曲にも見られる。こちらは、個別の楽曲内に“R&B味”がある箇所とそうではない箇所がある…というのではなく、“R&B味”のある楽曲もあれば、そうではない楽曲もあるという見方である。サウンド面ではM5、歌唱法ではM13がR&B的と先ほど指摘したが、ラップ調の歌唱もあるM10「Come On Yes Yes Oh Yeah!!」もそっちに分類されるだろうか。一方、“R&B味”をほぼ感じないのがM4「Hey Boy」である。イントロからエレキギターが鳴るロックチューンで、デジタル音もそれなりに聴こえるものの、基本はバンドサウンドが支えている。リズムからするとサーフロックに分類しても良さそうな印象である。誤解を恐れずに言えば、Avril Lavigne辺りを彷彿とさせるものであろう。本作収録曲ではM7「このままで」が“R&B味”の強いほうだと思うが、M7がありながら、M4もあるというのが『to LOVE』のおもしろいところではあろう。バラエティ豊かと言ってしまえばそこまでだが、R&Bに寄り過ぎない配慮がなされた結果ではないかと筆者は見る。サウンド面で言えば、オープニングのM1「*Prologue* 〜What a nice〜」からその意志が表れているような気もする。キラキラとした音像と、ディズニー映画の劇伴のようなドラマティックさも有しているM1には、聴き手を選ばない汎用性がある。M8やM9「WRONG」のようなダンスチューンがありながら、M1のようなドリミーな側面もあるというのもまた、本作、ひいては西野カナというアーティストのおもしろいところだろう。均衡、塩梅、バランス感覚はアルバムのサウンドを通しても貫かれていると感じるところである。