BO GUMBOS、ZELDA、
サンセッツのメンバーたちが
楽しく創り上げたロックアルバム、
海の幸『熱帯の友情』
ロックバンドらしさも顕示
波打ち際の音(と鳥の声だろうか?)から始まるM6「MAKES ME FEEL SO HAPPY INSIDE BALI」は、歌詞は《Bali Bali Bali Island/Makes me feel so happy inside》のみで、タイムは2分ちょっとという短いナンバー。しかしながら、なかなか重要な楽曲だ。ディキシーランドジャズに少しばかりハワイアン要素を加えたサウンドのあとから、「Ceddin Deden(祖父も父も)」(※註:ドラマ『阿修羅のごとく』のテーマ曲としても使用されたトルコ軍楽)と日本の昭和の流行歌を混ぜたようなメロディーが聴こえてくる。しかも、演奏は井上と井ノ浦のふたりによるものだ(そう考えると、ブラスが入っているように聴こえるのは、あれはカズーで、どちらかが鳴らしているのかもしれない)。短い演奏、ふたりでの演奏にもかかわらず、多彩な音楽要素を取り込んでいる。しかも、ポップだ。実験的でもないし、ましてや衒学的でもない。楽しいのひと言である。作詞作曲は井上(作詞には“井上ケン一、Sedy”と表記されている)。夕焼け楽団~サンセッツのメンバーといった貫禄すら感じる楽曲である。
KYON が手掛けたM7「しらんぷり」はロックンロール。冒頭のSEが自動車の往来の音というのも何となく分かるような気もするワイルドさだ。シンプルなバンドサウンドでありながらも、歌のディレイが深めで、KYONのメインヴォーカルに小嶋のコーラスが追いかけるかたちも含めて、ベーシックなロックンロールというよりも、ポストパンク、ニューウェイブに匂いを感じるのは筆者だけだろうか。的外れを承知で言うと、アルファレコード時代のシーナ&ロケッツ的というか、テクノポップ以降にはこういうタイプのバンドがいたよううに思う。ロックンロールと言えども、ひと筋縄ではいかない海の幸である。
M8「ムスティカ」はどんと作詞作曲。冒頭ではまたガムランが鳴っている。歌詞カード内に掲載されているどんとの寄稿文によると、タイトルはバリ島で出会った現地の友人の名前とのこと。ということは、少なくとも歌詞はバリ島で書き上げたものになる。その寄稿文によれば《山にいるにわとりをつかまえて/蒸し焼きで食べよう》という歌詞は実話のようだ。ちなみに、その寄稿文には、どんとが現地の人たちにBO GUMBOSの「ずんずん」を披露したら大ウケしたというエピソードも書かれていて、なかなか興味深い。そういうと、かなりバリ島に傾倒した楽曲に思われそうだが、メロディーとサウンドにそこまでの南国っぽさはなく、BO GUMBOSのミディアムナンバーに近い印象で、とりわけCメロは実にどんとらしい。井上のギターソロも相変わらずカッコ良く、メンバー全員で堂々とロックを鳴らしている。
アルバムを締め括るM9「バリ島で見たニューオリンズの夢」は井ノ浦の作曲。タイトル通り、ガムランと神秘的なコーラスから、ニューオーリンズビートへと展開する。セカンドライン特有の躍動感を差っ引いても(?)、バンドサウンドは実にグルービーで、とてもいい状態で演奏し、録音されたことが分かる。歌詞はないが、それでも十分だ。どんとのシャウト、KYONのキーボードはいかにもBO GUMBOSだし、小嶋&高橋によるコーラスはいかにもZELDAである。サックスはM4にも参加しているオーストラリア人のジャズプレイヤー、イアンが担当。今回調べてみても、このイアンなる方のプロフィールがよく分からなかったのだが、歌詞カード内に掲載されている小嶋の寄稿文によれば、バリ島で行なわれた海の幸のライヴに参加したミュージシャンということだ。どういった経緯でレコーディングにも参加したのかは分からないけれど、そのバリ島でのライヴも現地で決まった様子だし、イアンは飛び入り的に参加した人なのかもしれない。いずれにしても、日本で何度も顔を合わせたミュージシャンではなかっただろうに、ここまで息の合ったプレイを聴かせていることも記しておかなければならないだろう。