割礼の『PARADAISE・K』に触れ、
そのロックバンドの姿勢を想う

サイケ? パンク? ニューウェイブ?

その不思議うんぬんはいったん脇に置いておいて、1st『PARADAISE・K』を紹介しよう。当コラムでは“デビュー作にはそのアーティストの全てがある”という説を勝手に推しており、これまでも幾人かのバンド、アーティストで実証してきた。今回もそれに準拠しようというわけだ(勝手に言った説に準拠も何もないが…)。前述した『星を見る』と『のれないR&R』の紹介コメントによれば、それぞれ“サイケデリックロック”と“スローロック”とある。オフィシャルサイトにそう書かれているのだから、それがメンバー発信かどうかはともかくとして、当人たちが認めているものだろう。ただ、『PARADAISE・K』についてはそれらのジャンルとちょっと赴きが異なるように思う。少なくともスローロックではない。M1「きのこ」からしてテンポが緩いのでその側面がないではないけれど、他の5曲はアップテンポだし、ビートも効いている。スローロック“も”あるといったところだろう。サイケデリックに関して言えば、そのM1でのディレイが深めのエフェクトには独特の浮遊感があって、これはサイケデリックロックと言えるものだとは思う。歌の背後でワウワウと鳴るギターを始めとして全体的に幻覚感はあって、不協気味のギターサウンドと相俟って、いい意味で気持ちが悪い。何よりタイトルがそれっぽい。ただし、今もネットに残る『星を見る』リリース時の宍戸幸司(Vo&Gu)のインタビューでは、“サイケはよく分からない”といった発言をしているようで、当時バンドが自覚的にサイケデリックロックをやっていたかどうかは不明である。現在はTwitterに“Japanese Psychedelic Rock Band”とあるので自覚的だろう。

レコードショップのサイトやレコードコレクターの方のブログの中には、この1stは“パンク”と語られているのも散見できる。個人的にはそれとも微妙に違う気がする。パンクというよりも“ポストパンク”、いわゆる“ニューウェイブ”の匂いの方が強いように感じる。もっと言うと、そのダークな雰囲気であったり、不協気味の旋律を選択していたりするところなどは、ポジティブパンクを感じるところではある。もっとも、本作のレコーディングは地元・名古屋のライヴハウス、HUCK FINNで行なわれたということで、その辺はパンクのDIY精神が発揮されていたという言い方はできるとは思う。M4「ゲーペーウー」ではブギー風、M5「ラブ?」はリフものR&Rと、ロックの文脈を抑えながら、オールドタイプとは異なった解釈を加えているのもパンクと言えばパンクだろう。M2「ベッド」以降、ソリッドなギターサウンド全開のM6「チュウイングガム」まで疾走感が持続していく辺りもパンクと呼べるものかもしれない。

ただ、同時期、メジャーデビューを果たしていた日本のパンクバンド、THE STALIN、LAUGHIN' NOSEらとは明らかに音楽性は異なる。Sex Pistols、The Clashなどのロンドンパンクとも、Ramonesらのニューヨークパンクともやはり違う。何と言うか、荒々しさに違いがあるように思う。パンク文脈で言えば、唯一(?)、ニューヨークパンクとして語られるTelevisionには近い印象はある。Televisionの『Marquee Moon』(1977年)での、単音弾きのギターのアンサンブルでサウンドが構築されている辺りがよく似ている。宍戸幸司もTelevisionを自身のフェイバリットバンドのひとつに挙げていたようだから、影響もあったのだろう。しかし、だからと言って、この時期の割礼が即ちパンクと結論付けるのも早計だろう。Television自体、Ramonesらのニューヨークパンク勢と密接な関係であったものの、その音楽をパンクのカテゴリーに入れるのは無理があるという見方もある。そこから考えれば、割礼も『PARADAISE・K』も簡単にパンクとは括れないものである。

OKMusic編集部

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