山下達郎の『FOR YOU』の
まるで伝統工芸品のような
丁寧に作り込まれた楽曲群に
改めて脱帽するばかり

竹内まりや提供曲を
セルフカバーでリアレンジ

一方、M2「MUSIC BOOK」は丁寧は丁寧でも、M1とはタイプが異なる印象。M2にはストリングスがあしらわれているものの、ギター、ベース、ドラム、キーボードにホーンセクションと、楽器の構成はほぼ同じではある。それにもかかわらず…である。“そりゃあ、曲が違えば演奏も違うだろう!?”との突っ込みはごもっとも。M1に比べてM2は少しテンポも遅いし、歌のメロディーも全体に柔らかな感じではあるのでアンサンブルも変わるだろう。それはそうだが、大きく異なるのは演奏しているメンバーである。本作『FOR YOU』は前作『RIDE ON TIME』(1980年)に引き続き、伊藤広規(Ba)、青山純(Dr)、難波弘之(Key)が参加しているが(あと、椎名和夫(Gu)も多くの楽曲でギターを弾いている)、唯一M2だけ、彼らの名前がクレジットされていない。それ以前のアルバム──2nd『SPACY』(1977年)や3rd『GO AHEAD!』(1978年)、4th『MOONGLOW』(1979年)に参加したミュージシャンたちの演奏である。どうしてM2のバンドメンバーが異なるのかをご存知の方がいらっしゃったらぜひ補足していただきたいものだが、その背景はともかく、演奏のトーンが異なって聴こえるのは興味深いところである。

M4「MORNING GLORY」は竹内まりやへの提供楽曲のセルフカバー。[自分でアレンジしたいという山下の意向に反し、L.A.でレコーディングされた。竹内のヴァージョンはいかにもAORという感じで、あまり自身の好みでなかったので、自分のイメージでアレンジして本作に収録された]ことも、ファンの間では有名なエピソードのようだ。聴き比べてみたら、確かにバックの演奏は随所随所で異なっている。明らかに違うのはイントロ。鍵盤のポップな響きに引っ張られるM4に対して、竹内まりや版は氏が言う通りAOR感があって、ほんのわずかにアーバンなのかもしれない。あと、M4はブラスの入れ方にメリハリが効いている印象もあって、溌剌というか、ポップさはM4のほうが強いように感じられる。メロディーはもちろんのこと、テンポもほぼ変わらないし、個人的にはどちらがいいとか悪いという判断はつかないけれど、他者が施した提供曲のアレンジが気に入らず自らのアルバムで改編したという行為そのものに、当時の山下達郎の確固たる自信を感じるところではある。その意味でもM4を収録したのだろう。気骨を感じる。

M6「FUTARI」は解説するのは野暮とも思えるバラードナンバー。M1ではアッパーで絶妙なグルーブを聴かせたリズム隊が6/8拍子のゆったりとしたテンポを刻んでいるところに、まさに職人芸を感じる。また、序盤からムーディに奏でられるピアノは絶品。サビで盛り上がっていく歌やコーラス、あるいはそこに追従していくストリングスとは別次元にあるかのように、終始、艶っぽいフレーズをフリーキーに弾く様子はとても魅力的だ。

OKMusic編集部

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