YMO散開後に発表された
ソロアルバム『音楽図鑑』は
多彩な楽曲群の中にも
坂本龍一らしさを確認できる秀作
ノーコンセプトの4thアルバム
収録曲を見ていこう。M1「TIBETAN DANCE」は軽快なクラップから始まるナンバー。シンプルだがキレのあるドラムは高橋幸宏で、随所に小技を織り交ぜたベースは細野晴臣が弾き、ギターは大村憲司が担当し、アコギのアルペジオからエレキの冴えわたるカッティングまでを聴かせている。アジアンなメロディーの繰り返しという、単純と言えば単純な楽曲だが、YMOメンバーによるアンサンブルが楽曲を単純に聴かせないところがあるだろう。無論その演奏にさまざまな音を重ねている面白さがさらに楽曲を豊かなものにしているのだが…。二胡か胡弓かという音が聴こえてくるが、当然、『ラストエンペラー』より5年早い。
M2「ETUDE」は冒頭からしばらくはそのリズムからしてポップス・ロック寄りの印象ではあるものの、中盤ではっきりとジャズだと分かる。リズム隊は完全にジャズ。面白い転調だと思っていると、それだけ終わらずに、そこからまたリズムがレゲエに展開していく。意表を突かれるけれど、そこもまた面白い。キーボードとともに主旋律を鳴らすトランペットを始めとする管楽器がなまめかしい。
M3「PARADISE LOST」は『戦場のメリー・クリスマス』のサウンドトラック収録の「The Seed And The Sower」に似た雰囲気を個人的には感じたのだけれど、作者の手癖もそうだが、“戦メリ”の“Forbidden(禁断)”感と『失楽園』とは通じるところがあったのかもと思ったりもする。これもリズムはレゲエで全体的にはゆったりとした印象。ただ、そこにアジアンなメロディーとモノローグ(何語だろう?)が乗ることで不思議な空気に拍車をかけているように思う。ひと筋縄ではいかない。トランペットは近藤等則が担当し、山下達郎がエレキギターを弾いている。
M4「SELF PORTRAIT」は明るくなり過ぎず、かといってマイナーというわけでもないシンセが奏でるメロディーが中心。高橋幸宏が叩くドラムのリズムが後ろ向きに聴こえさせないところで踏ん張っているような気もする。映画『子猫物語』でも使用しようされたとのことで、“確かに子猫の寄る辺なき感じもあったりするなぁ”とも思わせるところもある。
M5「旅の極北」はサンプリングされたリズムの硬質さが耳を惹く。ピアノ、鐘の音、リバースとさまざまな音が鳴りつつ、後半ではサックスやヴォイスも聴こえてくるなど、最後までなかなか展開が読めない感じではあって、前述した[スタジオに入って何の先入観なしに出てくるものを記録していく手段を取った]というのは、この辺でも感じることができるのかもしれない。(※ここまでの[]はWikipediaからの引用)