【ライヴアルバム傑作選 Vol.3】
『東京スカパラダイス
オーケストラ ライブ』は
スカパラらしい姿勢を感じさせる
ライブカバー集

先人へのオマージュあるカバー

もはやスカパラは邦楽シーン全体にとって欠かせない存在だと言っても過言ではなかろう。そんなスカパラが1990年5月にアルバム『スカパラ登場』でメジャーデビューしたのち、その翌年3月に発表したのが『東京スカパラダイスオーケストラ ライブ』である。2ndアルバム『ワールド フェイマス』が同年6月リリースで、2ndアルバムより早くライブ盤を出しているところに、スカパラにとってライブステージがどういう位置付けなのかがよく分かろうというもの。全7曲収録で総タイム23分弱とミニアルバムと言っていいスタイルではあるけれど、重要な一作であることは疑うまでもないのである。その収録曲にも注目したい。全てカバー曲。つまり、『スカパラ登場』や『ワールド フェイマス』の収録曲が1曲もないだけでなく、オリジナルはひとつもないのである。しかし、そこにもスカパラらしいスタンスがあるように思う。以下、その辺も含めて、収録曲を見ていこう。

1曲目は「SHOT IN THE DARK」。映画『A Shot In The Dark』(邦題:『暗闇でドッキリ』)のテーマ曲で、巨匠、Henry Manciniが作曲を手掛けたものだ。原曲では当然ブラスも使われているものの、テンポはゆったりとしていて、全体には優雅な印象。コメディーでありながらスリリングさもあって、古き良き時代の映画音楽という感じだ。ビッグバンドジャズ風という捉え方でもいいかもしれない。スカパラはそうした映画音楽の豊かさはそのままに、スカビートでダンサブルに仕上げている。テンポは原曲より若干アップめではあるものの・そこまでアッパーではなく、フロアーをじっくりと揺らす感じである。基本はメインのメロディーのループであり、そのメロディーも派手にポップではないし、案外シンプルな楽曲と言えばそうなのだが(中盤でソロ廻しがあるが)、だからこそ、何度も鳴らすホーンズのユニゾンの圧力が際立っているようで、独特な緊張感があるように思う。言い忘れたが、M1は歓声から始まるのもいい。演奏が始まってからオーディエンスのテンションが高まっていく様子も収録されていて、ライブ盤ならでは醍醐味も感じられる。

M2「LUCKY SEVEN」はジャマイカのスカバンド、The Skatalitesの明るくポップなナンバーのカバー。明らかに原曲よりもテンポが速い。誤解を恐れずに言えば、若干リズム隊がかかり気味な感じもするけれど、それもまだメジャーデビューして間もなかったバンドの勢いと好意的に受け止めたい。録音は1990年10月と1991年1月だ。“ん? 1曲で録音日が2日?”と思われたと思うが、別に間違っているわけではない。それぞれの日付に録った曲がつながっているのである。前半から後半にかけて転調したようにつながっている。前半は日比谷野外大音楽堂で、後半はインクスティック鈴江ファクトリーで録られたもので、それほど違和感なくつながっているのはお見事(よーく聴くと、野外とライブハウスの違いは分かるような気はするけど…)。途中途中で入る“ラッキーセブン”の声は原曲に近く、オマージュを感じさせるところだ。

M2は“若干リズム隊がかかり気味”とは言ったものの、全体のテンポはそこまで速くなかったのだが、続く、M3「FINGERTIPS」はギアが上がってノリはイケイケだ。アッパーで軽快、さらに勢いを増した感じである。M1ともM2とも収録した日付が異なるのだが、実際のライブさながらに曲順を考えて編集しているのだろう。とりわけ活きがいいのはオルガンとパーカッション。中盤でのサックスのソロも目立つが、この両パートの熱量の高さは多くの人が認めるところではなかろうか。速弾きと言っても差し支えないと思うほどの音符の細かさだ。ただ、原曲のLittle Stevie Wonder版を聴けばそれも納得。幼き日のStevieがパーカッション(ボンゴか)を叩き、ハーモニカを吹いているのだが、アドリブであろうそれらが速弾き調なのである。つまり、原曲へのオマージュなのであろう。単にカバーするのではなく、原曲にあるスピリッツもしっかりと自らの演奏に落とし込む。若かりし頃からスカパラメンバーが審美眼を持っていたことが分かるM3だ。また、M3では、ホーンセクションで語られることの多いスカパラだが、それ以外のパートも十分個性的で、欠かすことができない存在であることを示している。

OKMusic編集部

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