手嶌葵の
『The Rose 〜I Love Cinemas〜』は
これからも時代を超えて愛される
不朽の歌集

選曲に見る女性シンガーとしての自負

さて、ここまで述べれば、『The Rose 〜I Love Cinemas〜』は十分説明したと思われるが、そのメンタリティについて、もう少し続けよう。“カバーアルバムで何のメンタリティ?”と思われるかもしれないけれど、この作品では“手嶌葵とはどんなシンガーであるかということ、即ち手嶌葵のキャラクターがしっかりと示されていると思う。まず、映画の主題歌・挿入歌を収録したアルバムであること自体が彼女らしい。Wikipediaにこうある。[幼い頃から両親の影響で古いミュージカル映画に親しみ、趣味は映画鑑賞である。特に好きな映画として挙げているのは、『オズの魔法使い』『秘密の花園』『小公子』『ティファニーで朝食を』等。(中略)両親が洋楽好きだったこともあり、ルイ・アームストロングやエラ・フィッツジェラルド、ビリー・ホリディなどのジャズ・シンガーが好きで、特に中学時代に聴いたルイ・アームストロングの「ムーン・リバー」に衝撃を受けてジャズが好きになった。そうやって日頃から慣れ親しんできた映画音楽やジャズが彼女の音楽のルーツとなった]([]はWikipediaからの引用)。シネマクラシックの楽曲は彼女が幼い頃から慣れ親しんできたものであり、それを歌うのはむしろ自然なことなのである。特にM5「Over the rainbow」(『オズの魔法使い』)とM2「Moon River」(『ティファニーで朝食を』)は重要な楽曲のようであるし、M2「Moon River」はLouis Armstrongからの影響もあると考えると、彼女にとって欠かすことのできないナンバーなのであろう。アルバムのコンセプトと楽曲のチョイスは手嶌葵の必然であったことが理解できる。その後、『La Vie En Rose 〜I Love Cinemas〜』(2009年)と『Cheek to Cheek~I Love Cinemas~』(2018年)と続編が発表されるのも自然な流れと言っていいのだ。

「The Rose」がアルバムタイトルにもなっていて、オープニングとラストに収められているのも、彼女にとって必然である。その説明もWikipediaに譲る。[中学生の頃、対人関係の問題から登校拒否に近い状態になった。その時に心の支えとなったのがベット・ミドラーの「The Rose」であり、アマチュア時代からライヴでカバーしている。このカバーの音源がデビューのきっかけとなる]([]はWikipediaからの引用)。慣れ親しんだ曲であると同時に、プロのシンガーへの分水嶺だったとも言える重要な楽曲だったのである。「The Rose」はBette Midlerが歌った楽曲で、彼女は過去4度グラミー賞を受賞しているが、この楽曲もそのひとつ。映画『ローズ』の主題歌であり、この映画はJanis Joplinをモデルとしている。つまり、彼女は、伝説のロックシンガーを演じた映画女優兼グラミー賞歌手が歌ったナンバーを、カバーしたということになる。何とも肝の据わった話ではないかと思うのは筆者だけだろうか。偉大な女性シンガー×偉大な女性シンガーである。アマチュア時代から歌っていたということだから、彼女自身には気負ったところはなかったのかもしれないけれど、それならそれで、逆に彼女の度胸を感じるところである。M2「Moon River」をAudrey Hepburnバージョンで歌っているのは当然としても、M4「Raindrops Keep Falling On My Head」を彼女ならではの歌唱で歌っているところにも、いい意味で原曲に惑わされない芯の強さのようなものも感じるし、実質的なアルバムの最後と言っていい位置にM8「Alfie」を置いていることにもメッセージ性が感じられる。このラインナップ自体、“手嶌葵、すごい!”と言わざるを得ない貫禄があるのである。

TEXT:帆苅智之

アルバム『The Rose 〜I Love Cinemas〜』2008年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.The Rose
    • 2.Moon River
    • 3.Calling you
    • 4.Raindrops Keep Falling On My Head
    • 5.Over the rainbow
    • 6.Beauty And The Beast
    • 7.What Is A Youth?
    • 8.Alfie
    • 9.The Rose(extra ver.)
『The Rose 〜I Love Cinemas〜』('08)/手嶌葵

OKMusic編集部

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