【ライヴアルバム傑作選 Vol.2】
ソウル・フラワー・
モノノケ・サミット
『アジール・チンドン』は
阪神淡路大震災の被災地から生まれた
日本の流行歌の正統なる後継

チンドンならではのグルーブ

“被災地に明るい場所を作る”“避難所の高齢者に安らいでほしい”という想いのもとで始まったという慰問ライヴ。それを考えれば、そこで演奏されるべきはSFUのオリジナル曲や、メンバーの音楽的ルーツである欧米のロック、ポップスではなく、高齢者の多くにとって耳馴染みのあるもの、誰もが知っているものとなるのも、これもまた必然であっただろう。当時、伊丹英子が民謡に興味を持ち始めていた時期だったとも聞くので、それを実践したとも思われる。本作に収められた楽曲が昭和以前のものである理由のひとつがそこにある。大正期や明治期のものもある。

当然、筆者は各楽曲が生まれた時期(もしくは流行った時期)をリアルタイムで体験していないわけだが、それでも知っているメロディーがいくつもあった。M4「聞け万国の労働者」、M5「デモクラシー節〜デカンショ節」、M8「東京節」、M9「竹田の子守唄」辺りははっきりと聴き覚えがある。とりわけM5の《デカンショ デカンショで半年暮らす コリャコリャ/あとの半年ゃ寝て暮らす ヨーイ ヨーイ デッカンショ》、M8の《ラメチャンタラ ギッチョンチョンデ パイノパイノパイ/パリコトパナナデ フライフライフライ》は歌詞も(すべてではないものの)メロディーと同時に口ずさめるほどであった。これは「デカンショ節」や「東京節」が初出以降、巷で歌い継がれてきたからであることは言うまでもない。M8は最近もCMソングで使われていたようだし、下手すると令和生まれにも耳馴染みがあるメロディーであっても不思議ではなかろう。何と言うか、メロディー自体の存在感が一過性の流行歌とはまったく異なる。収録曲はそういう楽曲ばかりである。

本作を改めて聴いて思うのは、その強固なメロディーをリピートするところに愉悦が感じられるということ。それは古今東西のロック、ポップスが持つ快楽であるとも言える。ヒップホップも持っているかもしれないし、もっと大枠で見たらダンスミュージックの悦び、愉しみは、誰もが口ずさめる旋律を繰り返すことで生まれるものであると言えるだろう。収録曲からはそれを再確認させられる。無論、単にメロディーを繰り返せばいいというわけではなく、ちょうどいい間合いでリピートされることが大切。すなわち、リズムやテンポ、いわゆるノリが重要になってくることも、当たり前のように感じる『アジール・チンドン』である。

それは演奏がチンドンスタイルであることも大きく関係しているように思う。電気を使わない(使えない)から楽器の音を増幅、加工ができない。ギターにしても何にしてもエレキのように大きな音を長く鳴らすこともできないので、比較的細かく音符を繋いでいかないといけなくなる。手数も増える。別パートが同じメロディー、同じリズムパターンを取る箇所もあろうが、ずっと同じわけにもいかない。モノノケ・サミットのメンバーは皆、確かな手腕を持ったミュージシャンであるから、フレーズに己の個性も出したいだろうし、それが楽曲全体にいい効果を生むことをよく知っているはずである。筆者は音楽理論や演奏面については素人同然なので、これは想像でしかないけれど、そんなチンドンスタイルならではの演奏であることで、よりいいグルーブが生み出されるようになったのではなかろうか。ポリリズム──[拍の一致しないリズムが同時に演奏されることに]よって生まれる[独特のリズム感が]SFU以上に発揮された([]はWikipediaからの引用)。そう思うのだ。

OKMusic編集部

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