ホフディランから先達への
迸る敬愛が感じられる
充実しきったデビューアルバム
『多摩川レコード』
The Beatlesへの徹底したオマージュ
オマージュ、リスペクトはThe Beatlesだけではない。はっきりと元ネタが分かるのはM9「ハゲてるぜ」。こちらはThe Rolling Stones「Brown Sugar」だ。アウトロで、こちらもまた堂々と有名なフレーズを…というか、ご丁寧にMick Jaggerのシャウトを拝借している。この他にもThe Doors風のオルガンが聴こえてきたりもするし、カントリー調のサウンドもあるし、ことサウンド面においては、1960年代の洋楽を中心にそのエッセンスを注入しているのは間違いない。2人は“よくこんなに遊ばせてもらったと思う”と制作時を振り返っていたという話があるようだが、それは当時のレーベルであるポニーキャニオンの懐の深さもさることながら、彼らのポテンシャルがデビュー当時から高かった証拠でもあろう。音楽に対する造詣の深さ。それがなければ、デビューアルバムでこれだけのことができるわけもない。本稿冒頭で、四半世紀の間、歌い継がれているM3「スマイル」のことを書いたけれど、逆に考えれば、デビュー作において、相当に歌のメロディーがしっかりとしていて、サウンドが多彩なロックミュージックを送り出したユニットなのだから、25年程度でその存在が霞むわけもないのだろう。この『多摩川レコード』も同様。今聴いてもまったく古びたところがない。実に良くできたアルバムである。
TEXT:帆苅智之