SPECIAL OTHERS
『Good morning』の
絶妙なアンサンブルこそが
音楽の楽しさだ
ポップでダンサブルな即興演奏
M10はSun Ra Arkestraのカバー曲。歌パートである《Love and life interested me so/That I dared to knock at the door of the Cosmos》の合唱(?)から始まるので、如何にもサビ頭といった感じ。しかも、原曲に比べてこのSPECIAL OTHERS版はその歌の箇所も多い。原曲の歌パートは頭の部分と後半のアウトロ近くに集中しており、ほとんどはトランペットやエレキギター、エレクトリックピアノの演奏で、それが延々と続く。いずれの演奏もおそらく即興であろう。タイムも9分程度もある。一方のM10は…と言えば、《Love and life~》の箇所が原曲以上にある。イメージとしては(あくまでイメージだが…)、歌パートと演奏パートが交互に現れる…くらい感じではある。歌以外の箇所では、ギターとエレピが主旋律を担っており、ユニゾンの箇所も大分あるので完全に即興演奏ではなかろうが、こちらもまたフリーキーな印象が強い。ただ、M10は尺が6分弱ということもあってか、アドリブが延々と続く感じは薄い。《Love and life~》の箇所をループさせて、そこにギターとキーボードでの演奏を乗せたような印象で、ファンクに近いように思う。実際、ダンサブルだし、ポップだ。そこがこのバンドのポイントではあろう。この「DOOR OF THE COSMOS」の原曲との比較にSPECIAL OTHERSのスタンスを見出すこともできるのではなかろうか。
他にはない濃厚な音楽体験
アルバムのオープニングであるM1「AIMS」、その開始15秒程度で、4人の個性的なプレイのアンサンブルが確認できる。キーボードから始まり、この楽曲のテーマとも言うべきメロディーをリフレイン。楽曲の背骨を成すような旋律である。続いて、そこにドラムが入るのだが、これがいわゆるドラムロール。何かが始まる予感を促すに十分なリズムである。そして、ギターとベースが加わる。ギターは軽快。キーボードのリフレインも跳ねるようだが、それを上回るかのようなポップなフレーズが流れていく。ベースは案外、生真面目というか、比較的淡々と弾かれているようだが、40秒辺りでギターレスになると、その存在が楽曲の屋台骨をしっかりと支えていることが分かると思う。そういうフレーズだ。そして、1分50秒頃に再び4つの音が密集したセクションへ戻る。2分にも満たないタイムで、ほぼ4つ音で構成されているというのに、そこにはすでに濃厚な音楽体験がある。「AIMS」はご存知の通り“目的”という意味だが、そのタイトルからも彼らの志を深読みできそうだ。ちなみにこの楽曲は1stシングルにもなっているので、それなりに自身のスタンスを表明したものではあったのだろう。
M3「Circle」もまた、このバンドの肝とも言えるアンサンブルの妙を確認できる。アルバム収録曲中最長のタイム。比較的ゆっくりとしたテンポで始まるものの、長尺だからといって淡々と進むわけでもなく、展開も単純ではない。コードと“幾小節やるか”といった進行を決めておいて、あとはそれぞれが好きに演奏するといったスタイルで演奏しているように思える(※間違っているかもしれないのでここも先に謝っておきます)。ジャムバンドらしいと言えばジャムバンドらしい印象である。6分半過ぎからは各パートの音符の数が増え、それが密集していく。転調したようでもある。少なくとも初見では、どこに流れていくのか分からないような緊張感があって、9分超えも体感では長く感じられない。いい意味で刺激的なのだ。
M4「Yagi & Ryota」はM3以上にジャムっぽい雰囲気。高音部でリフレインされるベースとギターのアンサンブルにドラムが重なった楽曲で、とりわけドラミングがジャズっぽい。キーボードが入っておらず、2分19秒とM3とは対極的に短いナンバーだが、こういうこともやれるというところに彼らの懐の深さが感じられる。
M6「Session」もタイトルから推測するにジャム≒即興演奏なのであろう。前半は、リズミカルなパーカッションがラテンっぽい空気感を出しつつも、コードはそれほど明るくなく、どこか不穏な雰囲気。それが中盤以降、ギターが奏でる音符が増えていくに伴って少しずつ陽気に転じていくのがおもしろい。あまり他では聴いたことがない、何とも形容し難いタイプだ。ただ、いずれも主旋律を追うだけが音楽の聴き方ではないことを体現しているかのようである。
M7「KOYA」は音そのものが本作の他の収録曲とはまったく異なる。多分、いわゆるスタジオ録音ではない手法をとっているのだろう。そればかりか、ガムランみたいな打楽器の音も聴こえてくるし、ホースを回したような音も聴こえてくる。ギター、ベース、ドラム、キーボードでのアンサンブルに飽き足らず(?)、それ以外の楽器を持ってきた…そんな感じだ。実験的ではあるが、どこか楽し気な雰囲気は音源にも宿っているようである。
M8「COMBOY」とM9「KHN」は共にロック色が強めで、いずれもファンキーでリズミカルな印象。M8は和風のメロディーでどこかお祭り囃子や民謡の風味も感じられながらも、決していなたくないという、これもまた他であまり聴いたことがない感じで、楽しく聴くことができる。M9はギターの旋律が流れるようであって、古いロックファンも十二分に聴けるように思う。また、アンサンブルも素直…という言い方でいいかどうか分からないが、キーボードもリズム隊も変に個性的なフレーズを弾いてないようであって、SPECIAL OTHERSは決して突飛なことを標榜しているバンドではないことも分かるように思う。即興演奏を含めて、いろんなことをやっているバンドであるけれども、いろんなことだけをやるバンドではないのである。そんなことも伺える『Good morning』である。
TEXT:帆苅智之