中島美嘉の
1stアルバム『TRUE』に見る
時代の変遷にも紛れない
唯一無二の歌声

カテゴリーに収まり切らない歌声

オープニングM1「AMAZING GRACE」は申し分のないトラックだ。彼女が発する独特の雰囲気を上手く形に残している。サウンドはシンセとピアノ。派手じゃないところがいい。歌を邪魔していないように思う。彼女の声は太くはないけれど、芯がしっかりしている。フワフワしてないというか、(この説明でいいかどうか分からないけれど)声質のわりにはどっしりとした存在感あるのである。その意味でスタンダードナンバーを頭に置いたのは正解。とにかく声の良さが際立つ印象だ。

M2「WILL」はいわゆるアルバムのリードシングルというかたちであったので、この2曲目が定位置だろう。ピアノからストリングス、そこからのバンドサウンドと、これもまた徐々にじっくりとテンションが上がっていく。若干、舌足らずな歌はデビュー作であることを考えればご愛敬でもあるし、この人ならでは味わいと見ることもできる。前述した通り彼女の声はか細い印象で、パッと聴きには喉と口で歌っているようでもあるが、聴き進めていくうちにちゃんと腹から出ていることがよく分かる。ハイトーンに音階を辿るところでそれがはっきりする(サビの《夢を見て来たのだろう》や《瞳を開きながら》のところ)。高音に突飛な感じがないのだ。小手先で歌っているとこうはならない。簡単に言えば、彼女はやはり歌が上手いのだと改めて実感させられるナンバーなのである。

今回『TRUE』を聴いて意外だったというか、“中島美嘉がもともと歌手になることを強く望んでいたわけではなかった”ということに、勝手に納得したのはM3「ONE SURVIVE」以下だ。意外というのは、あくまでも個人的な見解…と前置きしておいたほうがいいだろう。中島美嘉の音源を粒さに聴いてきたわけではないし、それどころか、端的に言って中島美嘉と言えば10th「雪の華」(2003年)と16th「GLAMOROUS SKY」(2005年)のイメージが強く、そんな自分にとっては少なくともコンテポラリーR&Bの印象はない。だが、本作では、M3からM7「I」まではブラックミュージックの色が濃いように思う。

M3「ONE SURVIVE」はキラキラとしたサウンドのディスコティックダンスチューン。M4「HEAVEN ON EARTH」、M5「DESTINY'S LOTUS」、M6「Helpless Rain」はそれぞれテンポもサウンドの方向性も違うが、まさに当代R&Bだ。M7はギターの音色に耳を惹かれるが、やはりこれもR&Bにカテゴライズされるものだろう。別にそれがいいとか悪いとか言うつもりはないけれども、5曲連続とは如何にも時代を感じる。宇多田ヒカル『First Love』がリリースされ、日本国内のアルバムセールス歴代1位を記録したのが1999年のこと。以降、邦楽シーンは浜崎あゆみ、椎名林檎、aiko、MISIA、倉木麻衣ら、女性シンガー全盛期となっていく。それはコンテポラリーR&Bばかりではなかったものの、やはり趨勢を占めていたことは間違いなかろう。

そう考えると、中島美嘉の1stアルバムがこうなったことも理解できるところではある。しかも、彼女は歌手を強く志望していたわけでもないのだ。スタッフが流行のサウンドを取り込んだのは当然のことだったと言える。ちなみに、M11「JUST TRUST IN OUR LOVE」もR&Bナンバー。シングル「WILL」のカップリング曲でもあるのだが、このアルバムバージョンはテンポアップしてダンサブルに仕上げている。この辺にスタッフが当時、彼女の方向性を模索していた様子を感じるのは穿った見方だろうか。

ただ、だからと言って、そこに聴くべきものがないかと言ったら、それも違う。例えば、M6では如何にもブラックミュージック的な男性コーラスを(とりわけアウトロでは特に)派手に用いているのに対して、ストリングスがポップス的な鳴りをしていて、その融合が面白い。また、M5、M7ではあえてコテコテのR&Bを避けた感じもある。決してベタに流行の音楽だけを持ってきた形跡は感じられないと言えばそうだ。実際のところはどうだったのか。その辺は当時のスタッフに訊いてみないと分からないけれど、リアルタイムで聴いたリスナーがどんなふうに受け取ったのかは少し気になるところではある。20年経った今、筆者の感想は、このアルバム中盤でのブラックミュージック要素は、奇しくも中島美嘉というシンガーがコンテポラリーR&Bというカテゴリーに収まり切らない様子を写しているのではないかと受け取った。

OKMusic編集部

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