奥田民生と
SPARKS GO GOのロック熱が注がれた
『THE BAND HAS NO NAME』

結成の経緯から感じる失意と再生

さて、改めてこのTHE BAND HAS NO NAMEのことを説明すると、UNICORN奥田民生(Gu&Vo)と、こののちにSPARKS GO GO(以下スパゴー)となる3人、橘あつや(Gu)、八熊慎一、たちばな哲也(Dr)によって、1989年に結成されたバンドである。その時、彼ら4人を取り巻く状況がどうであったかを探ると本作『THE BAND HAS NO NAME』がより理解できる。まず、のちのスパゴーとなる3人のことを話すのが手っ取り早かろう。彼らはそれ以前にBe Modernというバンドでメジャーデビューしている。それが1986年のこと。Be Modernは上記3人にヴォーカルを加えた4人編成のバンドであった。それが1989年3月、ヴォーカルの脱退が決まり、突然解散となる。しかしながら、所属事務所との契約が残っていたため、(この言い方が適切かどうか分からないけれど)その後も3人で活動することを余儀なくされた。それはBe Modernとしてブッキングされていたスケジュールをバラすことができなかったから…という説が濃厚だが、それまで3人でライヴ活動を行なったことがなかったメンバーは急きょヴォーカリストを探し、ブッキングされていたイベントライヴに出演することとなる。そこで白羽の矢を立てたアーティストのひとりが同じ事務所で同世代の奥田民生だった。その頃のUNICORNは3rdアルバム『服部』をリリースし、全国ツアー『UNICORN WORLD TOUR 1989 服部』を終えたばかり。その年の11月からは再び『UNICORN WINTER TOUR "PANIC 服部 BOOM"』をスタートさせるのだが、ちょうどUNICORNのスケジュールがぽっかりと空いていたのだ。今思っても偶然に偶然が重なって結成されたバンドであったと言えると思う。ちなみに、そのイベントではModernsと名乗ったそうである。ここからも急きょ間に合わせた感じが伝わってくる。

ただし──ここからが肝心だが、メンバーが集うまでの経緯は偶発的なものであったとしても、現場でそこに臨む4人の姿勢はまったくもって間に合わせなどではなかった。スパゴーの3人には“俺たちはまたバンドをやれるんだ!”という高揚感があったというし、UNICORNは上記の通り、大ブレイクを果たした直後でまさに油が乗り切ったところ。熱が入らないわけがない。イベント出演後、即渡米してレコーディングすることになったというのは、いかにもCDバブル期ならではのことと思わず遠い目をしてしまうが、スタッフもその熱に当てられたんだと、ここは好意的に捉えたい。急きょLAへ渡ったものだからバンド名すらなかった。レコーディングスタジオでアシスタントにバンド名を訪ねられたが答えようがない。そこで、そのアシスタントは楽曲がレコーディングされた媒体に“THE BAND HAS NO NAME=名もなきバンド”と書いた。これがこのバンド名の真相だという。

冒頭で、本作からはバンドで演奏すること自体の楽しさ、いい意味でのアマチュアイズムを感じることができると書いた。それは彼らが集まった経緯とそのスピード感がそのまま反映されたものだと見ることができる。その時点でBe Modernは解散していたわけで、予定されていたイベントが終われば、残りのメンバーも事務所との契約が解除されていたと考えるのは普通であろう。そういう意味では、スパゴーが民生に声をかけた時点では“音楽活動はこれが最後”という開き直りがあったのかもしれない。いい意味で肩の力が抜けたと想像もできよう。サウンドとメロディーの開放感はそこで説明がつく。また、Be Modernは北海道出身のバンドだが、めんたいロックの影響があったとも聞く。メジャーデビュー時にはTHE MODSのオープニングアクトを務めたこともあるという。本作にはモッズ系のロックンロールと受け取れるものもあるが、これもいい意味で肩の力が抜けた結果だったと見ることができるのではないだろうか。後ろ向きな言葉が並ぶ歌詞は、Be Modern解散前後における精神の吐露ではなかったかと筆者は考える。どん底とも言える失意からの再生。いや、ほとんど起死回生と言ってもいいだろうか。そんなふうにも受け取ることができると思う。結成された時のメンバーのパッションと併せて、そんなバンドマンの想いがパッケージされたレコードは、どう考えてもやはり名盤となるのであろう。

TEXT:帆苅智之

アルバム『THE BAND HAS NO NAME』1990年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.Something Wild
    • 2.Rain Song (雨がふれば)
    • 3.Mistake
    • 4.Blue Boy
    • 5.All Through The Night
    • 6.Automatic Generation
『THE BAND HAS NO NAME』('90)/THE BAND HAS NO NAME

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着