カシオペア、
ライヴ録音に思えない
超絶演奏が満載『Mint Jams』は
文化遺産に推したほどの大々傑作
成熟したバンドアンサンブル
M5「ドミノ・ライン」は本作の白眉であろう。ギターが奏でるメロディーラインが曇りのない空のような、軽快かつ開放感のあるナンバーであって、それだけでも十分に気持ち良く聴けるのだが、これもまたバンドアンサンブルが半端ない。当初はギターの主旋律を鍵盤が補完し、リズム隊はボトムをしっかりと支える感じではあるのだが、キーボードのソロが始まる辺りから徐々に本領発揮。ハイトーンに突き抜けっていった先にはベースソロ、ドラムソロが待ち構えている。このソロパートはいずれも実際の演奏されたのはもっと長くて、アルバム収録に当たってはカットされているというが、これでも十分にそのテクニックを堪能できる(個人的には、冗長ではなく、ちょうどいい印象ではあった)。ベース、ドラムそれぞれの演奏もさることながら、ここでもさりげなくバンドの息の合ったところが垣間見える。それぞれに1拍、ないしは3連で全員の音を同時に鳴らすところが何ヵ所かあるのだが、あのビシッと音が決まるところはやはりとてもすごい。他の追随を許さないバンドの成熟さ、老獪さを如何なく感じさせるところである(老獪と言っても、この頃、メンバーは皆、20代なのだが…)。また、M5後半のギターとキーボードとがユニゾンで主旋律を奏でるところや、ドラムの手数が増える箇所などは、ライヴらしさが感じられるところでもある。
続く、M6「ティアーズ・オブ・ザ・スター」も、スタジオ版にあったサックスが入っていないため、印象が異なる感じ。アーバンな雰囲気はそのままだが、次第に幻想的かつ壮大に展開していき、後半ではHRかプログレかと見紛う演奏が聴けるのが面白い。まさにライヴ盤といったテイクで、これもまた素晴らしい。M7「スウェアー」は終始、軽快なギターのカッティングが続いていきながら、これもまたギターとキーボードのリレーションが楽しい。さらにはギターの速弾きの他、鍵盤はジャジーなものから可愛らしい旋律まで、いろんな表情を見せるものの、全体的には生真面目に…というか、突飛なところなく、しっかりと演奏していることが分かる。ドラムの連打で、観客を煽っているところはライヴならでは…であろうし、演奏後には歓声も入っている。ライヴ盤らしいフィナーレとなる。
その演奏の熱が少しでも伝われば…と、こちらも興奮気味に全曲解説してしまった。どこまで伝わったか甚だ疑問ではあるが、この『Mint Jams』は本当に名盤であることは間違いない。[アルバムタイトルは、ミント・コンディション(新品同様、極上のコンディションの意) のミントとジャム・セッションのジャムを合わせた造語「最高の演奏」であり、メンバーのイニシャルのアナグラムでもある]という([]はWikipediaからの引用)。アナグラムとは、野呂一生(I.N)、向谷実(M.M)、櫻井哲夫(T.S)、神保彰(A.J)の組み合わせである。こういうところはもはや本作は神がかっていると言っていいのではないだろうか。国内外で何度も再発されているようだし、こうなったら、文化遺産として登録するのもいいのではないだろうか。結構マジでそう思う、邦楽史上屈指の、傑作中の傑作である。
TEXT:帆苅智之