【ライヴアルバム傑作選 Vol.11】
黒夢の
『1997.10.31 LIVE AT 新宿LOFT』は
清春のスピリッツを
最もよく表した反骨の一枚

反骨精神全開の歌詞

『1997.10.31 LIVE AT 新宿LOFT』は、黒夢が周囲のビッグキャパ傾向に反して地方をくまなく回るライヴバンドへとなっていった時期の作品。そもそもこの時期にライヴアルバムを出したこと自体、清春が周囲に迎合していなかった姿勢が垣間見える。この頃、ライヴ作品に関しては映像ものが主流になっており、1990年代に入ってからは、音源のみのライヴ盤で目立ったものと言うと、BLANKEY JET CITY『LIVE!!!』(1992年)くらいだっただろうか。同時期、同世代のバンドで音源のみのライヴ作品を出していたアーティストは見当たらないし(その後、発売したケースはある)、黒夢にしてもそれ以前に『tour feminism PART I』を始めとして何作も映像作品をリリースしている。この『新宿LOFT』にしても併せてVHSとDVDを発表している。そんな中でライヴアルバムを出すというのは“敢えて”であっただろうし、自らのスタンスの誇示があったのは間違いなかろう。

また、この時期はベストアルバムの全盛期であった。バンドものだけで言っても、『TRIAD YEARS act I -THE VERY BEST OF THE YELLOW MONKEY-』(1996年)に始まり、『REVIEW-BEST OF GLAY』、LUNA SEA『SINGLES』(ともに1997年)、『B'z The Best "Pleasure"』『B'z The Best "Treasure"』、サザンオールスターズ『海のYeah!!』、『THIS BOØWY』、(いずれも1998年)と、各メーカーともこぞってベスト盤を出したし、出せばバカ売れした。今になって思うと、黒夢の『新宿LOFT』はそんな状況へのアンチテーゼだったとも受け取れる。かつて発表した音源をチョイスし並べ替えてマスタリングする。それもいいだろう。だけど、こちらは全国のライヴハウスをくまなく回っているライヴバンド。自らの楽曲は、過去の音源などではなく、ほぼ毎日、生演奏でファンに届けている。それをそのまま音源にすることは造作もない──。無論、清春はそんなことを言った記憶はない。でも、あのタイミングでライヴアルバムを出したことには、そんなプライドが感じられるところだ。ちなみに、黒夢もベスト盤『EMI 1994〜1998 BEST OR WORST』をリリースしているが、それは無期限活動停止後の1999年2月のことであった。何と言うか、しっかりとけじめをつけていた印象がある。

清春の言質を取っていないのに、なぜに本作が“自らのスタンスの誇示”だとか“ベストアルバム偏重へのアンチテーゼ”だとか思うのは、当時の黒夢の楽曲の歌詞によるところが大きい。反発、反骨精神しかを見出せないのである。

《目障りな制度が Chart 妨害 Count Down/年功序列で芽を潰して Proud Face/Break out, too Burst 染まる前に/Get out, Get up 脱走する》(M1「FAKE STAR」)。

《NEEDLESS 理解もない 第三者の言葉/僕に関する事 口を挟むのが嫌いで》《NEEDLESS 何時になれば 自由と呼べるだろう/僕に合わない物 Ah 消えて欲しい》(M3「NEEDLESS」)。

《Tragic Tragic 腐った電波で/Ugly Ugly 使ってもらう Popular》《No Thanks No Thanks むしずが走る/Is This Rocker? 子供向けタレント》(M6「DISTRACTION」)。

《物心ついた頃から/不可解で仕方がなかった/たいした文章も書けない/その癖に威張り散らしてる》(M8「C.Y.HEAD」)。

《そう、確かにDOORが開いた 僕は振り返らないでいよう/この汚い楽園は心、無くしている 無くしている/わずかな戸惑い消す様に 少年は歌ってる/誰の真似より誰の言葉より疑う事 疑う事》(M13「少年」)。

《初期衝動に 魅せられて 走り出した/僕の感性 いつまでも 閉じたくない》(M14「Like @ Angel」)。

性急なビートとエッジーなギターサウンドが相俟った“THE ROCK”なサウンドに乗せられたこんな歌詞を見たら、そりゃあ勢い熱くもなる。M8はだいぶ身に詰まされなくもないけれど(“でも、俺は断じて威張り散らしてはいないぞ!”と自己弁護するしかないが…)それはそれとして──ライヴアルバムという一時期のバンド像をパッケージしたものであるにもかかわらず、清春というアーティストの本質の一面を浮き上がらせた感のある『新宿LOFT』なのである。

TEXT:帆苅智之

アルバム『1997.10.31 LIVE AT 新宿LOFT 』2009年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.FAKE STAR
    • 2.DRIVE
    • 3.NEEDLESS
    • 4.S・A・D
    • 5.CAN'T SEE YARD
    • 6.DISTRACTION
    • 7.BARTER
    • 8.C.Y.HEAD
    • 9.BAD SPEED PLAY
    • 10.カマキリ -1997 BURST VERSION "SICK" THE BROKEN DOWN-
    • 11.SICK -1997 BURST VERSION-
    • 12.SUCK ME!
    • 13.少年
    • 14.Like @ Angel
『1997.10.31 LIVE AT 新宿LOFT 』('09)/黒夢

OKMusic編集部

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