C-C-Bと稀代のヒットメーカーたちが
がっちり手を組んだ
『すてきなビート』は
アルバム作品の理想形かもしれない

アルバムならではの楽しさ

さて、話を『すてきなビート』へと移す。本作のリリースは1985年5月。シングル「Romantic~」の発売は同年1月なので、そこからやや時間が空いた。1st、2ndアルバムは先行シングルから約1カ月後のリリースだったので、それまでとは少し趣が異なっていたとは言える。想像するにこれは、「Romantic~」が彼らにとってラストチャンス的なものだったことも関係していたのだろうし、筒美京平&松本隆の黄金タッグによる珠玉のナンバーが生まれ、しかも強力なドラマのタイアップが付いたことで、制作サイドにはヒットの予感があったからだろう。要するに「Romantic~」をじっくりと世に広めようとしたのだと思う。実際、「Romantic~」が大ヒットし、同年4月発表の4th「スクール・ガール」も再び筒美&松本コンビが手掛けることになった。まさしくC-C-Bの名が世間に認知されていく中、「スクール・ガール」の1カ月後に3rd『すてきなビート』が発売されている。今思っても、この時にタイミングと流れは絶妙だったと思えてならない。リーチ一発自摸的…と言ったら麻雀を知らない人には何を言っているのか分からないだろうけど、時流に乗った時、かくも上手い具合に物事は運ばれるという見本みたいな話だと個人的には思う。

その物事の上手い運びは、『すてきなビート』収録曲からもうかがえるところだ。オープニングはM1「Romanticが止まらない(オモシロ-MIX)」。これがなかなか面白い。もし前例に沿って、シングル「Romantic~」の1カ月後に『すてきなビート』が発売されていたら、おそらくこういう芸当は行なわれなかったのではなかろうか。2曲目辺りにシングルバージョンをそのまま収録していたに違いない。当時はそれが普通だった。シングル「Romantic~」を解体した、まさに“オモシロ-MIX”を収録したこと自体に、当時のC-C-Bの勢い感じさせる。1980年代にはすでにDJがリミックスした12インチシングルがあって、ディスコ(クラブではない)でも使われていた記憶があるけれど、歌謡シーン、ロックシーンにおいて、M1ほどに派手なリミックスものを披露することはそうなかったように記憶している。あくまでも筆者の体感なので他にもたくさんあったのかもしれないけれど、少なくとも『すてきなビート』のM1のように、リミックスを自作において収録するケースはそれほど多いことではなかったと思う。増えたのは1990年代に入ってからだ。ここにはC-C-Bの先見の明を感じる。

M1のようなシングルと容姿の異なるリミックスを収録したことには、アルバムを購入することのメリットのようなものがあったとも思う。シングルリリースから1カ月以内ならまだしも、約半年が経って、すでに何度も耳にしてきた楽曲をまた聴かせられても…と思う人がいても不思議ではない。ファンならばなおのことそう思うだろう。その意味でリミックスを収録したのはかなり気が利いている。

M3「スクール・ボーイ」も同様だ。M3はシングル「スクール・ガール」のアンサーソングで、歌のメロディーはそのままに、歌詞とヴォーカルを変更している。シングルの改編である。リミックスに似たものであろう。『すてきなビート』の発表はシングル「スクール・ガール」は発売から1カ月しか経っていないので、それこそ前例に合わせて、シングルをそのまま収録しても文句は出なかっただろう。それにもかかわらず、M3のような仕様の楽曲を新録したところに、これもまたC-C-Bの心意気を感じる。ファンはとても楽しかっただろうし、さらにバンドへ興味、親近感を持ったに違いない。

M1のリミックスが効果的だったのは、「Romantic~」に、筒美京平が書いた、言わば“余すところがないメロディー”があったからだろう。イントロでのシンセが奏でる印象的なメロディーから始まって、ほんのちょっぴりソウルを感じるAメロ、叙情的なBメロ、そして、切なさの中に確かなキャッチーさがあるサビメロと、良質なメロディーの宝庫と言える「Romantic~」である。どこを切っても、どこを抽出しても、どれかとどれかを組み替えても、組み合わせさえ間違えなければ──いや、多少何かを間違ったにしても、その旋律の優秀さが損なわれることはない。筒美メロディーは1フレーズ1フレーズが強靭なので、そもそもリミックスに向いている。解体、再構築することで、キャッチーさがさらに引き立つようなところがある。それが『すてきなビート』M1で見事に成功したと言える。

思えば、M3の歌詞もそうかもしれない。松本隆の郷愁を誘う歌詞は、具体的な情景を描きつつも、奥行きがあって、聴き手を選ばない。世界観の広がりを感じさせるから、角度も変えられる(M3は「スクール・ガール」の反対から物語を描いている)。しかも、これもまた言葉選びがキャッチーである。そう考えると、『すてきなビート』は、筒美京平、松本隆という稀代の作家のすごさを改めて示した作品という見方もできるかもしれない。

OKMusic編集部

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