もんたよしのりの
パワフルな歌唱力はもちろん、
もんた&ブラザーズの
バンド力もあふれた『Act1』
収録曲の随所で感じるバンドらしさ
《遅く起きたら ベッドはもぬけのから/さめたカップについた ルージュのあと/シケた煙草を 口にくわえたまま/ねぼけまなこで sing song blues》《Woo……ひどく燃えていた/Woo……夕べのお前は罪だぜ/訳もきかずに 抱くだけ抱いたよ/肌に残った爪痕……痛む》(M1「Sing Song Blues」)。
今となっては、そのシチュエーションに昭和を感じざると得ないけれど、ここにある、はすっぱさや場末っぽさは、あの頃、筆者が漠然と想像していた大人像が描かれていたようで、何となく憎めない。
続くM2「Last Drive」は、ベーシックはレゲエだろうか。一部のメロディーやコード、ギターの旋律はメジャーで、M1に比べるとさわやかな印象ではあって、どことなくリゾート感も香る。もんたのハスキーヴォイスがロストラブソングに切なさを注入しているように感じられるし、アウトロ近くでのソウルフルな女性コーラスとの絡みも聴きどころであろう。
M3「ムード オン ムード」もブルース。これまた渋い。ピアノ、ギターに加えて、明らかにアップライトであることが分かるベース、ブラシもいい音を出している。M1はガチガチの黒人ブルースではないと言ったが、こちらはわりと本場寄り。フィドルの入り方もいいし、アウトロ近くでニューオーリンズ風に展開していくのも面白い。この辺はバンドの演奏力の確かさと見ることもできるだろう。
M4「ジャーニー」はシングル「ダンシング~」のB面だった曲。アコギのアンサンブルがカントリー調でもあり、米国をバスで旅するという歌詞も相俟って、本場を意識したものであることは確実だが、こちらもやはりガチガチではない。
M5「Look at me」はそこから一転、アップテンポに展開する。「ダンシング~」とはタイプは異なるものの(M5にはブラスも入っていない)、メインギターとオルガンでサウンドを彩りながら、サイドギターとリズム隊がしっかりとボトムを抑えているところは「ダンシング~」と構造が近い。全体的には派手さのないベースがチラッと派手さを見えるところも似ている。もんた&ブラザーズらしさを感じるナンバーと言えるのかもしれない。ヴォーカルのハスキーさもより強調されているようにも思う。
M5はアップテンポなこともあって、ここから演奏のテンション、熱量が上がっているようにも思うが、LPでのB面、M6「Don-Zo-Ko」からはさらにバンドの本性が露わになっていくようでもある。M6はレゲエ。ギターもドラムも完全にそれを意識した演奏をしている。間奏でのドライなアコースティックギターで奏でられるソロや、オルガンのエモーショナルなソロは間違いなくこの曲の肝でもあり、M5で感じた、もんた&ブラザーズらしさが確信に変わる瞬間だ。
M7「Burning」はシャッフルのハードロック調ナンバーである。本作で最も攻撃的なナンバーと言って良かろう。ツインギターによるリフのユニゾンにオルガンが絡むイントロからもうカッコ良く、そのギターリフがハスキーさ全開の歌と連なっていく。R&Rらしいブレイクで決めるところは、もんたの歌声のパワフルさをダメ押ししているようでもある。終わり方にも切れがあるし、バンドサウンドのカッコ良さが極まっているナンバーだ。
そこからM8「ダンシング~」、そして、これもニューオーリンズ調のM9「Singing in the falling rain」、ブルージなバラードナンバーM10「I`m Singin for you」とつながっていくので、アルバム全体で見ると、ゆったり入って、中盤で派手になり、ゆったりとしてフィナーレを迎えるというスタイルであることが分かる。特大ヒット曲のあとのアルバムでありながらも、彼らのルーツであろう黒人音楽、米国音楽への憧憬を感じさせるバラエティー豊かな楽曲を収録し、しかもアルバム作品としての流れがちゃんとあるというのは、やはり彼らがプロフェッショナルであった証拠だろう。もんたよしのりが優れたアーティストであり、もんた&ブラザーズが優れたバンドであったことが刻まれた一枚だ。
TEXT:帆苅智之