SAの驚異的潜在能力が
そのまま再現された
『YOU MUST STAND UP
MY COMRADES』
結成1年足らずで音源制作
M9「ONE TWO」も同様。これもイントロからして簡素だが、Aメロがコール&レスポンスであることで楽曲の景色がガラリと変わる。そこでの疾走感がいいし、何と言っても不良感全開なのがいい。メインもサブもヴォーカルががなり立てていることが楽曲のカラーを強力に後押ししているのは間違いない。そうかと思えば、間奏ではリズムレスになり、ギターのみでテンポを落とす…というメリハリをつけている。短い楽曲だが、ひと筋縄ではいかないのだ。
M8、M9と疾走感のある楽曲が続いたからだろうか。M10「SA」はミドルテンポのギターリフから始まる。意外性…とまでは言わないけれど、“おっ?”くらいには思わせる。結局これもまたテンポアップするのだが、“おっ?”と思わせただけでもバンド側の勝利というか、このバンドの懐が浅くはないことが分かろうというものだろう。早口のヴォーカルもパンクらしいところだし、サビのリフレインもいい。もっと言えば、そのサビから間奏が、そのイントロで聴かせたミドルのギターに戻ってくるところがとてもいい。シンプルさを退屈に感じないのである。
M11「ALL BOYS SAY」は一本調子とは言わないまでも、その他の楽曲に比べると抑揚に乏しい印象は否めないものの、それでも間奏(ブリッジ?)にベースソロを当てているところはポイントだろう。ベースに関してはM8もそうだったが、この辺からはSAがこの時期からバンドアンサンブルを意識していたことが推測できる。それは、メンバーを誰ひとりスポイルしない姿勢と言い換えることもできるだろうし、SAのバンド観が垣間見えると言っても良かろう。
M12は今のSAにも確実に宿っている、パンクらしいポップさを湛えたナンバーと言える。2023年現在、彼らがライヴでやっていたとしても不思議ではない印象もある。今も世界でパンクが支持されているのは、疾走感の中に攻撃性がありながらも、そこにポップさがあるからに他ならないだろう。最初期のSA、高校生のTAISEIにはすでにそれが備わっていたことを証明するのがM12ではなかろうか。ちなみに、暴走族の“コール”と言われるものでも使われているこのM12のリズムは、Hanoi Rocksの『Back to Mystery City』(1983年)辺りでも多用されていたように思う。TASEIはHanoi Rocksも好きだったと公言していたように記憶しているので、その辺の影響もあったのかもしれない。だとすると、最初期のSAは、すでにパンク、Oiパンクだけでなく、もう少し幅広い音楽性を標榜していたこともうかがえるのではなかろうか。
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