【ライヴアルバム傑作選 Vol.7】
EARTHSHAKERの
『LIVE IN 武道館』が映す
ライヴバンド、
ロックバンドとしての確固たる姿

「MORE」から始まる堂々たるライヴ

EARTHSHAKER、初のライヴアルバム『LIVE IN 武道館』もまったく同じで、ほぼベストアルバムと言っていい内容である。いや、この翌年に出たバンド初のベスト盤(スタジオ収録音源)『THE BEST OF EARTHSHAKER』(1987年)の収録曲と7曲が同じなのだから、これはもう完全にライヴベストアルバムと言ったほうがよかろう。オリジナルアルバムとの比較では、1st『EARTHSHAKER』(1983年)からは1曲と数少ないものの、2nd『FUGITIVE』(1984年)から3曲、3rd『MIDNIGHT FLIGHT』(1984年)と4th『PASSION』(1985年)とからは4曲ずつ、そして限定発売だったミニアルバム『EXCITING MINI II』(1985年)からも1曲と、まんべんなく選曲されている。もっとも、本公演はレコ発ツアーの千秋楽を収録したものではあるものの、EARTHSHAKERにとって記念すべき初の武道館公演であったことを考えれば、これもよく分かる話だ。この時点での最善最良、ベストオブザベストの選曲で臨んだのは間違いない。

その上、(当たり前のことながら)ライヴならではの曲順で構成されているところに『LIVE IN 武道館』の良さがある。スタジオ音源のベスト盤は、『THE BEST OF EARTHSHAKER』に限らず、リリース順であったり、当該アルバムでの収録順に収められていることがほとんどだが、ライヴ盤はそうではない。(これも当たり前のことながら)どのアーティストも、観客が盛り上がるように、あるいは演者自身のテンションも上がるように、ライヴのセットリストを考えている。どこでどう盛り上げるか。ライヴアーティストはそこに腐心している。その点で言うと、『LIVE IN 武道館』は、曲順にも当時のEARTHSHAKERの自信とライヴバンドとしてのプライドを感じさせるのである。

何と言ってもオープニングナンバーがM1「MORE」であるインパクトが強い。1980年前半に起こった日本でのヘヴィメタルブーム。その火付け役はLOUDNESSであったことは議論を待たないだろうが、それを巷に広げていったのは、間違いなくEARTHSHAKERでもあろう。正確なデータがないため、筆者の推測に過ぎないが、アルバム、シングルともに、売上、チャートリアクションで両者の間に大きな開きはないように思うし、こと日本では若干、EARTHSHAKERのほうが上回っているような気がする(間違っていたら、すみません)。バンドの優劣を話したいのではない。より大衆に分け入ったのがEARTHSHAKERだったと言いたいのだ。そして、その際の大きな名刺代わりが「MORE」だったことは、当時を知る人なら大きく頷いてくれるのではなかろうか。スピッツの草野マサムネが学生の頃に「MORE」をギターでコピーしていたという逸話を知っている人も多いだろう。

キャッチーなメロディーライン。のちのJ-ROCK、J-POPにも通じる楽曲展開。サウンドアプローチはハードなままに、親しみやすい要素が満載の「MORE」である。とりわけ、ギターで奏でられるイントロの役割は大きい。どこか淋しげで、どこか物悲しい叙情的なアルペジオの旋律は、従来のハードロック、ヘヴィメタルのイメージを覆したところは過分にあるだろう。『LIVE IN 武道館』では、そのイントロがオーケストラアレンジで披露される。重厚なストリングスで構成されており、まさにクラシカルかつシアトリカルな印象でありつつ、例のイントロの主旋律はしっかりと聴こえてくる。その途中で歓声が大きくなっているということは、それに乗ってメンバーがステージに登場したのだろう。ひとしきりオーケストレーションが鳴ったあと、ズシリとバンドサウンドが響き、M1が本格的にスタートする。その派手で大仰なオープニングを堂々と披露しているところに、EARTHSHAKERの矜持が表れているように思う。

M1に続いては、どっしりとしたリズムが如何にもHRっぽいM2「記憶の中」、シャッフルビートに乗せたポップなR&Rナンバー、M4「WHISKEY AND WOMAN」などを披露しながら、緩急織り交ぜて、代表曲であるM11「RADIO MAGIC」、M12「FUGITIVE」からM13「COME ON」へと連なっていく。フィナーレのM13では観客とのコール&レスポンスを聴くこともできて、このライヴが大いに盛り上がったことがよく分かる。『LIVE IN 武道館』は1986年のEARTHSHAKERの勢いを実によくパッケージしたアルバムである。未だ触れたことがない方は聴いておいて損はない作品と断言したい。

OKMusic編集部

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