RCサクセションのラストアルバム
『Baby a Go Go』の豊潤と“らしさ”
清志郎らしい歌詞は健在
《Rock'n Roll Showは もう終わりだ/Rockなんかには もうアキアキだ/なんだかんだと めんどくさいんだ/ギターを鳴らして歌いたいのに Ah》《Rock'n Roll Showは もう古い/RockのShowなど/どこにでもあるでしょう/あの娘は心を 変えてしまった/おいらは歌を聞かせたいのに《Rock'n Rollは 子供のオモチャ/Rockなんかには つき合っていらんねえ/ビジネスなんか めんどくさいだけ/ギターを鳴らして歌いたいだけ Ah》(M6「Rock'n Roll Showはもう終わりだ」)。
かつて『BLUE』収録の「ロックン・ロール・ショー」で《まるで興奮しちゃうね まるで憧れちゃう》としていたものを《もう終わりだ》《もうアキアキだ》としている。また、『OK』収録「ドカドカうるさいロックンロールバンド」でも《子供だましのモンキービジネス/よってたかってわけまえをあさる》と言っていたが、こちらでは《子供のオモチャ》《ビジネスなんか めんどくさいだけ》と一刀両断にしている。清志郎がどんな想いを込めたのか今となっては知る由もないけれど、冒頭で述べたように、当時はバンドブームの真っ只中。バブルさながらに沸騰しきつつあったシーンを揶揄していたとしても不思議ではない。皮肉であれば、サウンドもあんなふうになろう。さらに、こんな歌詞もある。
《おとなだろ 勇気をだせよ/おとなだろ 笑っていても/暗く曇った この空を/かくすことなどできない》《おとなだろ 勇気をだせよ/おとなだろ 知ってることが/誰にも言えないことばかりじゃ/空がまた 暗くなる》《ああ 子供の頃のように/さあ 勇気をだすのさ/きっと 道に迷わずに/君の家にたどりつけるさ》(M8「空がまた暗くなる」)。
《おとなだろ》と言いながらも《子供の頃のように》と言っているのがおもしろい。『COVERS』の時のようなズバリと何かを指摘するような内容ではないが、そうではないからこそ、汎用性も高く、聴き手はより想像力を働かせることができるようにも思う。続く、M9「Hungry」は以下のような内容。
《かまわないでくれ 腹がへってるんだ/じらさないでくれ 腹がへってるんだ/食えない奴らが踊ってるだけさ》《食いたくネェ 食いたくネェ/食いたくネェ うまくもネェ》《新聞みたいにデタラメな/デマやウワサが踊るころ/テレビみたいに笑いながら/おんなじ時間に出て来てやるさ/歌を作って歌っても/値段をつけて売りとばす》(M9「Hungry」)。
清志郎らしい批評眼が垣間見える。これを目にすると、M6での筆者の分析もあながち間違ってもないように思える。そもそも清志郎はM1「I LIKE YOU」で《そんなに考える事はないさ/初めに感じたままでいいさ》と言っていたから、それでもいいんだろう。話を戻すと、『Baby a Go Go』ではサウンドが比較的シンプルになり、ブレイク期のような激しさはなくなったものの、清志郎は言いたいことを止めることはなかった。それがこうして歌詞をみるとよく分かる。
最後に私見をもうひとつ。本作の翌年1991年1月にRCは無期限活動休止となった。以後、清志郎はCHABOとしょっちゅう共演していたし、ライヴではRCナンバーをやることもあった。[2007年12月8日、日本武道館での『Dream Power ジョン・レノン スーパー・ライヴ』に、忌野、仲井戸、新井田、厚見によるベースレスという変則的な形態で出演。(中略)2008年2月のライヴ『忌野清志郎 完全復活祭 日本武道館』にて忌野、仲井戸、新井田、厚見、梅津、片山らの共演が実現。メンバー紹介で忌野が新井田の名前を告げると日本武道館がひときわ大きな歓声に包まれた]ともいう([]はWikipediaからの引用)。清志郎の隣でCHABOがギターを弾いて、新井田耕造がドラムを叩き、ブルーデイ・ホーンズがいるなら、それはもうほとんどRCであるわけで、再結成と言わないまでも、RCを名乗ってもいいのではなかろうか。当時はそんなことを思ったものだ。だけれども、あの時はリンコさんがいなかった。聞けば、『Baby a Go Go』の後、小林“リンコ”和生は音楽活動から引退したという。リンコさんは清志郎とともに最初期からのRCのメンバーである。これもまた勝手な想像でしかないけれど、やはりリンコさん抜きでRCの再結成はなかったのだろう。『Baby a Go Go』のベースはどれもこれもホントに素晴らしい。決して難しいフレーズを弾いているわけではないが、人柄が滲み出ているような、温かみを感じるものばかりである。それらを聴いて、小林“リンコ”和生が背後で支えていたからこそ、清志郎もいろいろと破天荒なことができたのではないかとも想像した。無論、誰が抜けてもRCではなかっただろうが、実はリンコさんが最も欠けてはならないキーマンだったのかもしれない。そんなことも思った。
TEXT:帆苅智之