菊池桃子のデビューアルバム
『OCEAN SIDE』は、
林 哲司のプロデュースによる
シティポップの傑作
秀逸なジャケットにも注目
《Friday night 白いBMW止めて/Free way 見つめ合った二人》《右の窓を開ければ/海が近く聞こえて/あなたのシガレット/灰が落ちる》(M3「BLIND CURVE))。
《コテージの窓から広がる/コバルトのリーフが光れば》(M4「SUMMER EYES」)。
《一人だけ ウエットスーツのあなた/少し無口になって 海の中消える》(M5「FUTARI NO NIGHT DIVE」)。
《カブリオのワーゲンが通りすぎて》《L.A.みたいリズムが聞こえるわ》《FEN流してるカフェテラスで/ペリエを飲みながら》(M7「EVENING BREAK」)。
こうして並べるとバブル期の映像をダイジェストを見ているようで何とも味わい深い。今となっては突っ込みどころもなくはないが、時代を象徴する史料と言うべきだろう。
最後に、これは菊池桃子ファンにとっては説明するまでもないだろうが、ジャケットが優れている点を推しておきたい。この時期はまだ、アイドル歌手のジャケット写真と言えば、男女問わず、その歌手のアップの写真がほとんどだった頃。菊池桃子とてシングルではほとんどが顔のアップで、「BOYのテーマ」(1985年)と「Broken Sunset」(1986年)は顔小さめだが、それでもそれが菊池桃子と分かる代物だ。だが、アルバム『OCEAN SIDE』では水着で海面に横たわる彼女の姿。ファンならばそれが菊池桃子だと分かるだろうが、そうでもない人はよく見ても誰か分からないかもしれない。そのくらい構図でありサイズだ。ある意味で大胆と言っていい。このジャケットは当時、相当のインパクトを与えたものだ。この傾向は、2nd『TROPIC of CAPRICORN』(1985年)、3rd『ADVENTURE』(1986年)と続いていく(4th『ESCAPE FROM DIMENSION』ははっきりと顔が見えるので、微妙に違うと思う)。制作スタッフには“大学生が持っていてもおかしくないアルバムを作ろう”という命題があったという。当時はまだアナログ盤の時代。このジャケットならばパッと見にはアイドル作品とは思われないことを意図したのだろう。その目論みは成功したと言えるし、昨今のシティポップのブームにおいて、菊池桃子作品が再評価されていることとも、まったく無縁ではなかろう。
TEXT:帆苅智之