木村カエラが数多のアーティスト、
ミュージシャンから
寵愛を受け続ける理由を
アルバム『Scratch』から探る

カエラ自身もピアノやギターを披露

M7「きりんタン」は會田茂一作曲で、ギターに會田、ベースがGREAT3、Curly Giraffeの高桑圭、ドラムがハイスタの恒岡と、これまた2ndでも共演した、勝手知ったる間柄…とも言えるメンバーとのセッションだが、これがなかなか面白い。ジャングルビート(と断言出来るものでもないが…)と突き抜ける高音が続く主旋律が、文字通り野性味を感じさせつつ、ディレイの深さや抑揚に乏しいサビメロがニューウエイブっぽくもあって、まさに独特の雰囲気である。

M8「Scratch」はtoeと木村カエラの共作だけあって(と言っていいかどうかアレだけど)、インストに近い。歌もあるにはあるが、分量少なめである。躍動感がありつつもアッパーではなく、それでいてしっかりとアンサンブルの緊張感がある。そんな空気感が支配している。注目はカエラ自身が弾くピアノだろう。無論、プロが弾くようなタッチではないが、彼女が弾いている確かなニュアンスを感じるられるのがいい。楽曲全体に揺蕩う静謐さはこのプレイだからこそ得られるものだろう。

M9「SWINGING LONDON」は、今や日本を代表する音楽プロデューサーのひとりと言っても過言ではない蔦谷好位置が手掛けている。かつてYUKI(ex. JUDY AND MARY)は蔦谷の音楽性を指して“The Beatlesっぽい”と言ったそうだが、このM9も聴く人が聴けばThe Beatlesの影響を感じざるを得ないであろう。個人的には名越由貴夫(コーパス・グラインダーズ、YEN TOWN BAND)の弾くエレキギターに「Helter Skelter」を感じたところ。4106(ex. SCAFULL KING)とのユニゾンもとてもカッコ良い。

M10「never land」はシューゲイザー的ギターサウンド。作曲はクラムボンのミトで、彼を始め、渡邊忍、柏倉隆史もギターを重ね、カエラもギターを弾いていて、サビではシャワーのようにギターたちが降り注ぐ(リズム隊は、M9に引き続いてベースに4106、ドラムに柏倉)。どこかアシッドな空気感というか、特有の浮遊感、幻想感を出すことに成功している。

M11「TREE CLIMBERS」は渡邊忍作曲の疾走感溢れるシングルチューン。ギター・渡邊、ベース・山下潤一郎、ドラム・一瀬正和という、この前年までのASPARAGUSの3人がバックを担っている。何でも[サザンオールスターズの桑田佳祐が自身の番組「桑田佳祐の音楽寅さん 〜MUSIC TIGER〜」内の「寅さんが選んだ21世紀ベストソング20」の1位にこの曲を挙げた]という逸話があるとか([]はWikipediaからの引用)。日本ロック界の大御所からお墨付きをいただいている。やはりベテランからも大いに愛されるカエラであった。

根岸孝旨作曲のM12「JOEY BOY」は、ドラムに佐野康夫、プログラミングに岸利至という、”もしこの人たちがいなかったら日本の音楽シーンは今とは違った風景になったのでは?”と思うほどに数多くのレコーディングを手掛けてきたメンバーが参加。ベースは根岸が弾き、ギターはM5に引き続き西川進が登場だ。原型はスタンダードなロックンロールであったと思われるが、この面子にかかると一筋縄ではいかない楽曲に仕上がっているのが面白い。ポップでありつつ、ワイルドでサイケデリック。これもひたすらカッコ良い。

アルバムラストのM13「Ground Control(Album Mix)」は、M6と同様のJez Ashurst、Dan Mckinna、Jonathan Atkinsonが締め括る(作曲はJez)。同期も使っているが基本はパンク。サビの展開、ギターのアプローチは2000年前後の雰囲気であって、カラッと明るいフィナーレだ。清々しい印象を残す。

OKMusic編集部

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