一青窈のアーティストとしての
個性を丁寧に丁寧に育んだ
デビュー作『月天心』
言葉自体が持つ旋律とリズム
《あこるでぃおん 親指の間を しゅるりしゅるりほどけてくよに/あこるでぃおん あどけない手つき、で 僕の想いほどいて。》《しゅるりるらる ほどいて》(M1「あこるでぃおん」)。
《ええいああ 君から「もらい泣き」/ほろり・ほろり ふたりぼっち/ええいああ 僕にも「もらい泣き」/やさしい・の・は 誰です》(M2「もらい泣き」)。
《もともと素直にだせない/あたしをみるみるうちに変えたの/まだ寝てていいよ sunny side up×2/起こしてあげる/寝てていいよ おやすみ》《つやつやすべる背中、を そっと/すやすや眠る「あなた」/起こさなくちゃ! なの/早起きの我慢もしなくなったわ》(M3「sunny side up」)。
《はらはらして どきどきして/ふらふらして ときどき寝て/ほらほら聞いて またまた言って/くらくらして暮らしてみたい の よ》(M4「イマドコ」)。
擬音ではないが、M7「ジャングルジム」やM9「アリガ十々」にもリフレインはある。全体を通してみると、その言葉自体に特有の抑揚があるものを用いていることが分かる。また、M4では文字数が同じ擬態語を持ってきている。この辺は彼女自身が影響を公言している詩人の谷川俊太郎由来のものであろう。よくよく聴くと、歌メロはこれらの言葉が持っている旋律やリズムを決して損ねていないことも確認できる。言葉本来の姿を歌にしているということができるかもしれない。楽曲制作は歌詞先行ということではなかったようではあるが、武部聡志氏を始めとする作家陣は彼女が紡いだ言葉を尊重し、一方で一青窈は作家陣の創るメロディーを尊重しながら言葉を紡いだのだろう。そう思わせるリリックばかりである。
関連ニュース