『静香』に注がれた
中島みゆきの力強さが
工藤静香のポテンシャルを
最大限に発揮

中島みゆきの強さを静香に注入

さてさて、だいぶ前置きが長くなった。ここからが本題である。2ndアルバム『静香』で作詞に中島みゆきを迎えたことで、工藤静香の楽曲の歌詞はそれまでとは明らかに異なるものとなった。

《手をのべて抱きよせても まだ考えてる/何かがわからないの ゴメン/まだ わからないの ゴメン/聞かせて強い言葉 迷いがとけるわ/今 証拠をみせてほしいわ/証拠をみせてほしいわ 直接》(M1「証拠をみせて」)。

《逢いたくないの あなたには/遠い場所へ行ってよ/聞きたくないの その声を/風のほうが ましなの》《さよならの逆説 心から逆説/一番遠い言葉だけが真実/さよならの逆説 やるせない逆説/そんなに傷つかないで/もっと耳をすましてよ》(M2「さよならの逆説」)。

《お互いに二人ずつで/いぶかしそうに 振り返るあなた/瞳を かすかに何かが横切った》《不実です 私なつかしかった だけなのに/名前も知らないなんて/不実です その芝居を誰に見せたいの/彼女も気の毒ね》(M3「FU-JI-TSU」)。

《忘れないわ/いつも私 愛さなかったことはないから/全ての色 足せばやがて/光の色は 最後にブリリアント・ホワイト》《ねぇ 私/何色の服をまとっているように見える?/まだ昨日の悲しみが/青いベールを着せかけていても》(M4「ブリリアント・ホワイト」)。

《裸爪のライオン 飛べないカモメ/まだ あきらめを 覚えていない者》《ハートが数える アルティメーター/押さえても 押さえても つのってゆく/めげそうな めげそうな炎を/眠るなと 眠るなと 風が殴る/誰も知らない 明日はじまる伝説》(M5「裸爪のライオン」)。

力強くなったとも言えるし、芯が太くなったとも言えると思う。そこに迷いはほぼ見えない。中島みゆきが工藤静香楽曲に与えたのは何者にも寄りかからない強さであろう。別れ歌は別れ歌でも、別れを目の当たりにして只々そこに佇む…といったような内容は皆無だ。M1「証拠をみせて」では《証拠をみせてほしいわ 直接》と詰め寄り、M2「さよならの逆説」ではこちらから分別れを切り出したようで、《そんなに傷つかないで/もっと耳をすましてよ》と三下り半を叩きつけているかのようである。M3「FU-JI-TSU」も痛快である。サビ最後の《彼女も気の毒ね》で、《いぶかしそうに 振り返るあなた》をズバッと斬り捨てている。小気味良い。M4「ブリリアント・ホワイト」は幸せいっぱいな雰囲気であるものの、やはり《まだ昨日の悲しみが/青いベールを着せかけていても》で締めているところに何か迫力を感じる。ドリーミーなだけでなく、いい意味での不安定さがあるように思う。夢見心地であっても、緊張感は失ってないのだ。M5「裸爪のライオン」はほとんど中島みゆき構文と言っていいし、そこにあるメッセージ性は、まさに中島みゆきのスピリッツそのものだろう。

ここまで『静香』のサウンド、メロディーのことに触れてこなかったけれど、1stシングル「禁断の~」と3rdシングル「抱いてくれたら~」のところでも少し書いたように、デビュー時から彼女の楽曲のサウンド、メロディーは申し分ない。すべてが後藤次利の作編曲で、実にいい仕事をしている。何と言ってもM3「FU-JI-TSU」で後藤氏自身が弾いているベースラインの暴れっぷりが素晴らしい。また、M1「証拠をみせて」でのアンサンブルの妙とスケール感も見事だ。中島みゆきの歌詞は、そのタフなアレンジ、優れたメロディーラインと確実に拮抗している。中島みゆきくらいの太さがないと、このサウンドには勝てなかったのかもしれない。今となっては結果論となるが、そう思わざるを得ないところだ。そして、その最高の音と最強の言葉があってこそ、工藤静香は本来のポテンシャルを発揮することができたのではなかろうか。それも思う。『静香』は5曲入りでいわゆるミニアルバムと言えるものではあるが、彼女が本性を露わすことが出来たと考えると、その意味では十分フルアルバムに匹敵する傑作であろう。

TEXT:帆苅智之

アルバム『静香』1988年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.証拠をみせて
    • 2.さよならの逆説
    • 3.FU-JI-TSU
    • 4.ブリリアント・ホワイト
    • 5.裸爪のライオン
『静香』('88)/工藤静香

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着