浜田省吾は『J.BOY』で
1980年代の豊かな日本に
何を描き、何を問いかけたのか、
改めて検証してみた
メロディー、サウンドの特徴
また、曲の展開としても、A、B、サビという展開がほとんどで、いわゆる“J”ポップ的だ。ご丁寧に(?)Cメロがあることも多く、歌詞的にはそこにアクセントが置かれているようなところもあって、ドラマチックに盛り上がっていく作りとなっている。それはデビュー曲であるM13「路地裏の少年」からしてそうなのだから(しかも、同曲は浜省が23歳の時に書いたものだというから)、浜省はもともとメロディー指向の人なのであろう。本作のメロディアも過度に意識することなく出てきたのかもしれない。
一方、サウンド面は、いかにも1980年代らしいスケール感の大きさがあるR&R。どっしりとしたビートが根底を支えつつ、キラキラとしたシンセが入ったり、はつらつとしたブラスが入ったりしながら、さっきも言った通り、ギターやサックス、鍵盤のパートがメロディアスで、ストレートにポップだ。ブルースやゴスペルなど、俗に言うルーツミュージックの影響は確実にあるものの、それらをマニアックに取り込んでないというか、あくまでも日本人が聴くことを前提にしているようにも思える。聴く人によって好き嫌いはあるかもしれないけれど、少なくとも分かりにくい代物ではない。こちらもまた耳にすんなり入って来る印象だ。かと言って、全てにおいて耳馴染みがいいかと言ったらそうではなく、ポイントポイントでエモーショナルな仕掛けをしているところが心憎い。間奏で感情が爆発したかのような音色を響かせる古村敏比古のサックスがそうだし、ポップさ、開放感の中に少しばかりの不穏な感じを演出しているかのような町支寛二のギターがそれに当たる。聴き手を高揚させたり、落ち着かせたりするだけでなく、心の奥をわずかに波立たせるというか、独特の余韻を残すような仕掛けであるとも言える。この辺はM1、M14、M17の歌詞と同様に、決して頻繫に登場するものではないけれども、作品に奥行きを感じさせる要素であり、そこにも浜省ならではのロック観が表れていると見ることもできると思う。
TEXT:帆苅智之
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