NONA REEVESの確かなセンスと
技術が詰まった
“ポップン・ソウル”な
絶品アルバム『DESTINY』
極めて優秀な作曲センス
まず、何と言っても強調しておかなければならないのは、そのメロディーの立ち方の半端なさである。歌の主旋律がどこを切ってもキャッチーなところは特筆すべきだと思う。M1「LOVE TOGETHER」からしてそれが全開である。いわゆるサビ頭だから、《LOVE TOGETHER/LOVE TOGETHER/We're living on the floor/君を待ちくたびれているのさ Baby》の箇所はキャッチーで当たり前だろう──と言うと変だが、ここに力点を置くのは分かる。そこから続くメロウなAメロ、とても流麗なBメロと、サビ以外も印象的というか、実にしっかりとしているのである。特にBメロはそこら辺のバンドならこれをサビメロにしてもおかしくないほどにその旋律はふくよかである。サビへのつなげ方もいい。高音へと昇って行きながら、キレのあるコーラスを挟みつつ、ハイトーンに突き抜ける。耳が生理的な気持ち良さを感じるようなメロディー展開と言える。
さわやかさ全開のM2「二十歳の夏」も同様。歌メロを追っていくと、いい意味で“これはどこまで昇っていくのだろう?”と思ってしまうほどの奥行きがあって、これもまた気持ちが良い。気持ちが良いと言えば、M4「Amazon」やM9「パーティは何処に?」だ。「Amazon」は前半のボサノヴァタッチから一転、疾走感あふれるバンドサウンドが展開し、「パーティは何処に?」はラップ調のAメロからサビメロのリフレインに連なっていく。ともにサビが最も印象的に聴こえる聴かせ方を意識していると言ったらいいだろうか。高揚感を感じるポイントを抑えたソングライティングとアレンジが心憎い。
こうしたメロディーセンスを持ってすれば、ミッド~スローナンバーもお手のものと言ったところなのだろう。M3「Destiny」、M5「Serious Love」、M8「AUGUST」、M10「HEAVEN」のいずれも、やわらかく落ち着いた中にしっかりとした旋律を聴くことができるナンバーだ。個人的にはM8「AUGUST」の堂々としたメロディーライン貫禄すら感じるほどで、メインコンポーザーである西寺郷太(Vo)がこれを作ったのは20代半ばくらいだったことを考えると、早くからメロディーメイカーとして老獪さを備えていたのだなと感心するやら、妙に納得するやら、である。M7「地球儀と野鼠(Pts. 1&2)」は本作で唯一、小松シゲル(Dr)が作曲したナンバー。メインヴォーカルも小松が務めているが、ポップはポップではあるものの、郷太が手掛けたナンバーとは一味違うメロディーセンスで、デジタル中心のサウンドも相俟って、アルバム内でのアクセントとしても十二分に機能しているように思う。『DESTINY』に欠かせない要素であり、ここにこれを置く辺りにも、NONA REEVESの手練れた部分を垣間見るようでもある。
ギタリスト&ドラマーの確かな技術
その中でも最注目なのはギターではなかろうか。以下でザッと解説するが、奥田健介(Gu)の縦横無尽なギタープレイは、これもまた特筆すべきものである。M1「LOVE TOGETHER」、M2「二十歳の夏」では楽曲のさわやかさを確実に助長するカッティングを刻み、M9「パーティは何処に?」では“達郎か!?”と思わせるイントロを聴かせたかと思えば、M4「Amazon」ではソリッドにかき鳴らし、M8「AUGUST」では雄大かつワイルドに響かせる。M6「DJ! DJ! 〜とどかぬ想い〜」では軽快なリフで楽曲全体を彩り、M10「HEAVEN」は王道のギターソロの中に少しトリッキーな動きも見せる。NONA REEVES以外にも様々なアーティストとのサポートを行なっている奥田は、間違いなく国内屈指のギタリストである。そんな彼の若き日のギタープレイを追いかけるだけでも『DESTINY』は相当に楽しめるとは思う。
総体的に『DESTINY』は、NONA REEVESの代名詞とも言える“ポップン・ソウル”なアルバムということができるだろう。“ポップン・ソウル”──親しみやすいブラックテイストの音楽、あるいは魂のこもったポップミュージックといった感じであろうか。いずれにしても、芸術性がなくはないし、M6「DJ! DJ! 〜とどかぬ想い〜」で当時としては一早くオールドスクールのラップをフィーチャーするなど革新的なこともやっているのだが、小難しさはなく、楽しく聴けるアルバムというのがとてもいいところだと思う。概ねディスコティックでダンサブルなビートに支えられているというのがその主たる要因であろう。この辺は、これまたドラマーとして数多くのアーティストをサポートしている小松の確かなテクニックがあってこそ…といいう部分は大きいと言える。『DESTINY』が2013年に再発された際にライナーノーツによると、小松はこのアルバムを指して“普通はこれで解散してもおかしくないですよね。行き着くところまで行き着いてる”と笑ったというから、そのプレイが相当に充実しまくっていたのは間違いない。
また、ソウル=魂のこもったというところで言うと──メンバーを始め、本作に参加したミュージシャンが全て情熱を持って臨んだことは前提として、いくつかの楽曲での郷太のヴォーカルにそれを感じることができる。具体的に言えば、M2「二十歳の夏」、M3「Destiny」、M7「地球儀と野鼠(Pts.1&2)」、M8「AUGUST」、M10「HEAVEN」辺りがそれで、若さ漲るというか、随所に思わず溢れ出てきたような“熱”が感じられる。ソングライターとしてメロディーセンスはピカイチで、多彩なサウンドを操るバンドなので、傍目にはクールな印象もあるNONA REEVESではあるが、こうした郷太の情熱的なヴォーカリゼーションがあることで、何と言うか、洒落臭く感じさせない秘訣のようなものがある気がする。『DESTINY』が魅力的なのは、こうした生っぽさというか、泥臭さを隠さないところにもあると思う。
TEXT:帆苅智之