70年代末のニューヨークの
音楽シーンをリードする存在だった
テレヴィジョンを率いたギタリスト、
トム・ヴァーライン
ジャムバンドを思わせる長尺演奏
ヴァーラインの訃報が届いたのを機に30年振りくらいに集中して聴いてみたが、改めてその特異とも言える独自のスタイルは衝撃的だ。ブルースの影響もまったくないと言っていいのではないか。ヴァーラインがジャズに心酔していたことは前に触れたが、テレヴィジョンを始める前、彼はコルトレーンやアルバート・アイラーのフリージャズ、ヤードバーズのようなギターロック(ということはジェフ・ベックか)、それからヴェルベット・アンダーグラウンドのような実験的なビートバンドを聴き込んでいたという。ヴァーライン自身は好きなバンドとして、ジム・モリスン擁するザ・ドアーズの名を挙げている。詩人でもあったモリスンに共感する部分もあったのだろうと思うが、ドアーズの混沌としたインプロビゼーションなど、どこかテレヴィジョンの中に影響を感じなくはない。
バンドのもうひとりのギタリスト、リチャード・ロイドも、上手いギタリストだった。ヴァーラインに対するサイドギターという立ち位置ではなく、彼もまたリードを弾ける人だった。なんでも、彼はティーンエイジャーの頃、あのジミ・ヘンドリックスにギターを習ったことがあるという逸話の持ち主である。ヴァーラインとロイドが、片方がバッキングに回って…という定石のスタイルではなく、主旋に対するカウンターメロディーとも言うべきふうの互いに異なるリード、フレーズをクロスさせ、決して競い合うことなく曲にメリハリ、流れを作っていく…というような展開を追っていると、それは確かに奇跡のようなものだった。彼らなりのギター美学が貫かれているとも言えようか。現在流通している、やはり『アドヴェンチャー』にボーナストラックとして収録されている「エイント・ザット・ナッシン」(シングルヴァージョン)などを改めて聴くと、あまりにも上手いギタープレイヤーぶりに、ちょっと唖然とさせられるはずだ。リフ、リードの凝ったアイデアなど今でも新鮮で、世のギター弾きは彼らの演奏をぜひ一度聴いてみてほしい。
アルバム『マーキー・ムーン』は売り上げこそ伸びなかったが、批評家筋からも高い評価を受けている。彼らは本国よりむしろ英国で人気を得たようで、シングル「マーキー・ムーン」は英国チャートでトップ30に入っている。また、セカンド作『アドヴェンチャー』は、これまた英国ではトップ10入りしている。先に挙げたライヴ盤を聴く限り、1978年当時、いかにバンドのエナジーは沸騰し、演奏も充実していたかが分かる。それだけに順調に活動を続ければ、バンドはいろんな変化を飲み込みながら、面白い展開が待っていたかもしれないのだが、ヴァーラインは突然バンドを解散してしまう。テレヴィジョンでのツインギター体制に飽きたのか、限界を感じたのか、本当の理由はヴァーラインのみぞ知る、だ。
ソロ活動に移行してからもヴァーラインは多くの映画音楽でギターを弾くほか、『醒めた炎 (原題:Tom Verlaine)』(’79)や『夢時間(原題;Dreamtime)』(’81)をはじめとして、完成度の高いギターロックアルバムをコンスタントに発表していた。ほとんどの作品が日本盤でも出ていたことも意外だが、一度もメジャーアーティストになることもなく、終生アンダーグラウンドの住人みたいな生き方を貫いた人だった。
TEXT:片山 明