後進に大きな影響を与えた
アリス・クーパーの『キラー』

『Killer』(’71)/Alice Cooper

『Killer』(’71)/Alice Cooper

今の時代、アリス・クーパーとかグラムロックに興味がある人がいるのかどうかは分からないが、70年代前半には確かにグラムロックのムーブメントは存在した。ほんの数年ではあるけれど…。T・レックスやデビッド・ボウイのようなビッグネームをはじめ、ゲイリー・グリッター、ニューヨーク・ドールズ、モット・ザ・フープル、ロキシー・ミュージックら、当時の若者たち(特に中高生女子)は夢中になっていたものだ。

そんな中でアリス・クーパーは無駄に派手だった。おっさんのくせに芸名は女性の名前だし、ニシキヘビを首に巻いて登場してみたり、LP盤を包むナイロン袋の代わりに紙パンティを使ったりするなど、スキャンダルっぽさを売りにする商売の匂いをプンプンさせていた。だから、硬派のロックファンはアリス・クーパーなど聴かなかった。でも、それは残念なことであり、聴かない者は確実に損をしている。彼が71年から73年にワーナーからリリースした『キラー』『スクールズ・アウト』『ビリオン・ダラー・ベイビーズ』の3枚はどれもロック史上に残る名盤だ。今回は彼の名前が世界に知れ渡った4枚目となる名作『キラー』(全米21位、全英27位)を取り上げる。

決してジャンルではないグラムロック

70年代初頭、マーク・ボラン、デビッド・ボウイ、ニューヨーク・ドールズ、ゲイリー・グリッターなど、派手なメイクを施し、未来的なファッションに身を包むアーティストたちが続々と登場する。なぜか彼らはバイセクシュアルな雰囲気を漂わせ、グラマラスであったことから、いつしかグラムロックとかグリッターロックと呼ばれるようになる。ただし、それはこれまであったハードロックやフォークロックなどのような、音楽的なジャンルではない。あくまでもアーティストの外見から決められた呼び方である。音楽性はアーティストによってまったく異なっており、共通項があるとすれば知的退廃感のような雰囲気だけである。

70年代初頭と言えば、ロックが生まれて15年ほどが経過し、その喧騒も落ち着きを見せ始めていた。高度成長の社会から自然を大切にするようなライフスタイルへと移り変わり、ポピュラー音楽の世界でもサイケデリックロックやハードロックなどのスーパースター的存在から、キャロル・キング、ジェームス・テイラーなどに代表されるどこにでもいる一般人的存在のシンガーソングライター・サウンドが迎えられるようになった頃である。

パンクロックと似た
アンチテーゼとしてのグラムロック

そんな時に突如現れたのが、大袈裟で派手でまったく生活に密着しないグラムロックというムーブメントであった。これは70年代半ばに起こったAOR系ロックとパンクロックが対立する関係とよく似た構図である。いつの時代にもある主流と傍流の関係なのだが、グラムロックのムーブメントがもたらした最大の貢献はLGBT的な思考を世界に認識させたことかもしれない。

グラムロックの本場はイギリスである。T・レックス、デビッド・ボウイ、ロキシー・ミュージック、スレイド、ゲイリー・グリッターなど、グラムロックを代表するアーティストたちはほとんどがイギリスで活動しているが、例外と言えるのが今回紹介するアメリカ人のアリス・クーパーだ。

アリス・クーパーという男

アリス・クーパーは1948年にアリゾナ州で生まれ、65年には(17歳)レコードデビューしている。68年にはロスに移り、偉大なフランク・ザッパの主宰するストレートレコードと契約するチャンスを得て、2枚のアルバムをリリースするものの不発に終わっている。そして、後にキッス、ジェネシス、ハノイ・ロックス、ピンク・フロイドなどを手がける名プロデューサーのボブ・エズリンと出会い、彼の才能は開花する。ストレートレコードからの3作目『エイティーン(原題:Love It To Death)』(‘70)がワーナーブラザーズの配給を受けて、全米トップ・40に食い込むヒットとなったのである。クーパーは3作目のヒットとボブ・エズリンの尽力によって、新たにワーナーブラザーズと契約することになる。

本作『キラー』について

1971年、ワーナー移籍後に初めてリリースされたクーパーの4枚目のアルバムが本作『キラー』である。ここにはキッス、エアロスミスといったキャッチーなサウンドを持つハードロックグループの原型が収められているし、テレヴィジョン、セックス・ピストルズなどのパンクロックグループが得意とするシンプルでハードなロックンロールのひな型とも呼べるサウンドも収められている。

音作りとしてはザ・ローリング・ストーンズやブラックサバスなど、イギリスのグループをお手本にしている湿り気のあるナンバーが多いが、乾いたアメリカンハードロックのナンバーもある。クーパー独特のヴォーカルのドライブ感とバックの演奏の巧みさは素晴らしく、何より70年代中期にデビューするアメリカンハードロックのグループだけでなく、パンクロックグループにも大きな影響を与えているのがクーパーのすごさだろう。

収録曲は全部で8曲。冒頭の「俺の回転花火(原題:Under My Wheels)」「ビー・マイ・ラヴァー」の2曲はハードロックのテイストを持つシンプルなロックンロールで、キャッチーなメロディーがパワーポップ的。次の「ヘイロー・オブ・フライ」はアルバム最長の曲で8分強におよぶ。キング・クリムゾンあたりにインスパイアされたエキゾチックなナンバーだ。「無法者(原題:Desperado)」はクーパーの友人であったドアーズのジム・モリソンのことを歌っているのだが、モリソンが亡くなったのは本作のレコーディング中である。

LP時代はB面に当たる5曲目「勇気づけて(原題:You Drive Me Nervous)」と6曲目「イエー・イエー・イエー」は、「俺の回転花火」「ビー・マイ・ラヴァー」と同じテイストの軽快なロックンロールナンバーで、ビートルズの影響を感じさせる部分もある。大作「デッド・ベイビーズ」はブラックサバス風の陰鬱な雰囲気を持つ児童虐待のことをモチーフにしたナンバー。赤ちゃんの声がコラージュされており、アルバム中最も凝ったアレンジになっている。
タイトル曲の7分にも及ぶ「キラー」はインスト面に重点をおいたナンバーで、プログレの要素を持つ演劇的かつ幻想的な仕上がりだ。なお、本作にはジョニー・ウインターのバックやソロ活動でも知られる著名なギタープレーヤー、リック・デリンジャーが2曲にゲスト参加している。

今回、本作を改めて通して聴いてみて、やはり良いアルバムであることを再確認した。普通アメリカのグループは、ブルース、カントリー、フォークなど、どこかにルーツが出てしまうことが多いが、クーパーに関してはそれがない。純粋にロックをルーツに持ち登場してきたロッカーなのである。70歳となった現在も、クーパーはまだまだ精力的に音楽活動を続けており、昨年には通算27枚目となるアルバム『パラノーマル~超常現象の館~(原題:Paranormal)』をリリースしている。

TEXT:河崎直人

アルバム『Killer』1971年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. 俺の回転花火/Under My Wheels
    • 2. ビー・マイ・ラヴァー/Be My Lover
    • 3. ヘイロー・オブ・フライ/Halo of Flies
    • 4. 無法者/Desperado
    • 5. 勇気づけて/You Drive Me Nervous
    • 6. イエー・イエー・イエー/Yeah, Yeah, Yeah
    • 7. デッド・ベイビーズ/Dead Babies
    • 8. キラー/Killer
『Killer』(’71)/Alice Cooper

OKMusic編集部

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