稀代の名曲「セルロイドの英雄」を
収録したキンクス中期の傑作
『この世はすべてショー・ビジネス』

『Everybody's in Show-Biz』(’72)/The Kinks

『Everybody's in Show-Biz』(’72)/The Kinks

キンクスと言えば「ユー・リアリー・ガット・ミー」「オール・デイ・アンド・オール・オブ・ザ・ナイト」などに代表される所謂“キンキーサウンド”ばかりが引き合いに出されるが、彼らの魅力は初期のシングル曲だけにとどまらない。やさしいサウンド作りの『ビレッジ・グリーン・プリザベーション・ソサエティ』(’68)ではコンセプトアルバムの概念を提示し、71年の『マスウェル・ヒルビリーズ』では泥臭いスワンプ・テイストを感じさせていた。また、アリスタ時代の『スリープ・ウォーカー』(’79)で見せたソリッドで力強いサウンドなど、ファンそっちのけで我が道を行くところがキンクスのキンクスたる所以なのである。今回取り上げる『この世はすべてショー・ビジネス(原題:Everybody's in Show-Biz)』は『マスウェル・ヒルビリーズ』に続くRCAでの2作目で、LP時代は2枚組でリリースされた。1枚目はスタジオ録音、2枚目はライヴ録音という変則スタイルであるが、最も脂の乗った時期の作品だけに素晴らしいアルバムになっている。特にキンクス一世一代の名曲「セルロイドの英雄(原題:Celluloid Heroes)」が収録されているので、未聴の人はぜひ聴いてみてください。

人種差別とアメリカのポピュラー音楽

ロックンロールが誕生した1950年代後半以降のアメリカでは、それまで白人と黒人に分かれていたポピュラー音楽のジャンルが徐々にクロスオーバーしていくことになる。もちろん、それ以前にもヨーロッパ系などの移民が多いルイジアナやテキサスなどの地域では音楽ジャンルのクロスオーバー化は進んでいたが、インターネットがない時代だけに情報の伝達に時間がかかったことや、人種差別の問題もあって地元レベルでのローカルヒットどまりであった。

1964年に人種差別の撤廃を盛り込んだ公民権法が成立する時(もちろん、南部などでは法律が制定された後も差別がなくなるわけではなかったが…)まで、黒人アーティスト(主にブルースとR&B)は黒人リスナーのみが、白人アーティスト(主にカントリーとフォーク)は白人リスナーのみがフォローするという図式が成り立っていた。黒人音楽に大ヒット曲が出れば、白人がそれをカバーし白人リスナーに届けるということも行なわれていた。黒人アーティストたちはそれらの行為を白人による文化の搾取だと考えていたから、その逆(白人のヒット曲を黒人アーティストがカバーする)は非常に少なかった。

しかし、黒人のように歌うエルヴィス・プレスリーをはじめ、ジョニー・キャッシュ、ジェリー・リー・ルイス、カール・パーキンス、チャーリー・リッチ(要するに、52年に設立されたサン・レコード所属のアーティストたち)の登場で、状況は大きく変わることになる。彼らの存在によって、白人が黒人のR&Bやブルースに似た音楽を楽しめるようになったのである。スタックスやゴールドワックス、サウンドステージセブンといった南部の黒人向けレーベルでは、黒人と白人が一緒に音楽(サザンソウルなど)を作っていたが、それらは一般の音楽シーンから見ると例外的なものであったと言えるかもしれない。

そして、黒人側から人種の壁を乗り越えたのは、R&B界の巨人レイ・チャールズだ。1962年に全曲カントリー曲のアルバム『モダン・サウンズ・イン・カントリー&ウエスタン・ミュージック』のVolume 1とVolume 2の2枚をリリースし、Volume 1は全米1位を獲得する。この作品の成功のおかげで、その数年後にはブルーアイド・ソウルと呼ばれたライチャス・ブラザーズやラスカルズが登場し、アメリカのポピュラー音楽界はジャンルのクロスオーバーが進んでいく。

ただ、この人種差別政策によってアメリカのポピュラー音楽の進歩は著しく遅れることになり、イギリスの若いアーティストたちがアメリカのヒットチャートを賑わす結果となった。

OKMusic編集部

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