『Aladdin Sane』/David Bowie

『Aladdin Sane』/David Bowie

異能の才を振りまいた
デヴィッド・ボウイのグラムロック
期の名作『Aladdin Sane』

 今また何度目かのピークを迎えているデヴィッド・ボウイ。本名 David Robert Hayward Jonesは1947年生まれというから、御年67歳ということになる。禿げず、太らず、風貌も衰えず、才能も涸れず、蓄えもあり(たぶん)、老いを迎えたスーパースターとしては非の打ち所のない、人もうらやむデヴィッド・ボウイ様なのだが、デビュー50周年を記念して、所属レーベルの枠を越えてオールタイム・グレイテストヒッツとも言うべきアルバム『Nothing Has Changed』が近日、日本でも発売される。1964年のデビューシングルから、目下のところ最新作となる『ザ・ネクスト・デイ』('13)まで、全キャリアを網羅したベストアルバム・デラックス盤で、全曲最新リマスター、そして新曲「スー(オア・イン・ア・シーズン・オブ・クライム)」が収録される。同曲のプロデュースは『ザ・ネクスト・デイ』でも仕事を共にした盟友トニー・ヴィスコンティがあたっている。というわけで前振りはこれぐらいにして、この機会にデヴィッド・ボウイを聴くならこの1枚をという、過酷な作業に挑んでみた。

 今回はあまり迷わなかった。とはいえ、全30作という彼のキャリアの中から1枚を選ぶわけだから簡単ではない。「Changes」を体現してきたのがボウイなのであり、その音楽スタイル(というかコンセプチュアルなこと)を彼は過去に何度も変え、その都度、代表作を残してきた。よく言われるのにグラムロック時代、続くフィリーソウル時代、ドイツ表現主義時代などが挙げられるが、一番新しく、今後の活躍を期待するならば、今また「ザ・ネクスト・デイ」時代が、としておこうか。
 そこで、選んだのは通算6作目『Aladdin Sane』('73)である。彼のその時代というよりも、グラムロックを代表する一枚と言えるかもしれない。そうじゃないだろう。それなら前作の『Rise & Fall of Ziggy Stardust』('72)という声が聞こえてきそうだけど、あの名盤を選ぶのは当たり前すぎて、あえて外したという…。もちろん、『Rise & Fall of Ziggy Stardust』と『Aladdin Sane』、『Diamond Dogs』('74)はグラムロック期のボウイの3大傑作として挙げておきたいし、これからボウイを聴いてみようという方は、この中から1枚などとケチくさいことを言わずに、まとめて3枚購入してほしいものだと思う。

 ついでに紹介しておくと、フィリーソウル時代なら『Young American's』('75)と『Staion to Station』('76)。特に『Young~』にはジョン・レノンが参加しているという超お得なオマケ付きだ。ドイツ表現主義時代はベルリン三部作とも呼ばれるが『Low』('77)『Heroes』('78)『Lodger』('79)もまとめて聴いてほしい。と、羅列してみると、1972年から1979年までの連作は全て必聴盤だということになってしまうのであった。それにしても、1年のインターバルさえ置くことなく、なんという創作意欲かと。もちろん、この間にはコンサートや世界規模のツアーなども行なっているのだ。それだけでなく、自分のことだけでも忙しいはずなのに、ボウイは世話焼きというか、目を付けたアーティストに成功の道筋を付けてやるというか、アルバムプロデュース、ミキシングにも積極的で、代表的な作品だけでもイアン・ハンター率いるモット・ザ・フープルの『すべての若き野郎ども』('72)、ルー・リードの『トランスフォーマー』('72)、イギー・ポップ&ストゥージズの『ロー・パワー』('73)、同じくイギー・ポップのソロ作『イディオット』『ラスト・フォー・ライフ』(共に'77)、『TV EYE』('78)など手がけている。他にもバンドメイトのミック・ロンソン(ギター)のアルバム制作も手伝っている。とまぁ、休日出勤、残業を嘆く日本のサラリーマンに負けず劣らずなボウイの働きっぷりには呆れるやら驚かされるやらである。本人、エネルギッシュなところなどまるで感じさせない、華奢で体力なさそうな身体なのだが…。

アルバム『Aladdin Sane』

 本作は前作『Rise & Fall of Ziggy Stardust』の成功を受けて、予約だけで10万枚を突破した、ボウイ初の全英チャートNo.1に輝いた作品(アメリカはまだ人気が爆発しておらず、ビルボードチャート最高位17位)だ。とにかくジャケットデザインが強烈だ。まるで異星人かアンドロイドである(そういうイメージで彼は売っていたし、すでにバイセクシャルであることも公言していた)。赤毛(実際にはオレンジ色)のリーゼントに全身を覆い尽くす白粉、そして眉を剃り落とした顔に稲妻風のペイントが施されている。鎖骨の溝に溜まった滴も艶めかしい。発売当時は知ることはなかったが、この顔のペイントはメイクデザインを担当したピエール・ラロシュによるもので、日本の家電メーカー、ナショナルの炊飯器に付いていたシンボルマークがモチーフになっているのだそうだ。不気味かつ異端、中性的でグラマラスそのものといったデザインを、それでも私は初めてジャケットを手にした時に「なかなか美しいな」と思ったことを覚えている。いい写真なのだ。それで、アルバム(LP)を壁に立てかけていたら家の者にたいそう気味悪がられたのも遠い昔…。
 ボウイ登場以前からポップスターは顔が命じゃないけれど、ルックスも大きなセールスポイントとしてアピールするのは当たり前のことだった。しかし、70年代のロックゼネレーションにおいて実際に素材の良さも持ち合わせ、それを堂々とアピールできたのはボウイが最初だったと思う。『Rise & Fall of Ziggy Stardust』以降、音楽雑誌でもボウイのグラビアを目にする機会が増えたし、『Aladdin Sane』が出たのと同月に実現した初来日公演の際に披露されたボウイの姿は度肝を抜くものだった。山本寛斎デザインの衣装に身を包んだ姿は異星人ジギーに完全に成りきったものだったし、それ以上にロックをショーとして魅せるものへとビジュアル感覚を持ち込んだセンスは、まだまだ薄汚れたジーンズにロングヘアーでロックを標榜していた日本の若者達に随分置いてけぼりな気分を味わわせたものだった。

OKMusic編集部

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