アレサ・フランクリンの『アレサ・
ライヴ・アット・フィルモア』は
地球史上最高のシンガーが
リリースした究極のライヴ盤だ!
アレサのアトランティック時代を
代表する作品は…
〜本作に収録された楽曲は全てが名曲で、アレサの熱い歌唱ぶりに、アルバムを通して聴くだけでドッと疲れるほどだ。僕がこのアルバムと出会ったのは、中学3年生の頃。当時人気のあったマッスルショールズ録音のひとつとして知ったのだが、それから40年程度経つが、未だに愛聴盤である。何百回聴いたのか分からないぐらい聴いた。これだけの作品と出会えることは、人生の中でもそう多くはない。〜
「これだけの作品と出会えることは、人生の中でもそう多くはない」という言葉は嘘ではない。しかし、アレサは長いキャリアの中で、他にも素晴らしい作品を何枚も残している。特に、67〜79年まで在籍したアトランティック時代に素晴らしい作品は多い。1作目と同様に南部ソウルを極めた3作目の『レディ・ソウル』(’68)や、ニューソウルに目覚めた10作目の『黒人讃歌(原題:Young, Gifted and Black)』(’72)も甲乙付けがたい名盤だと思う。そして、アトランティック時代の極め付きの作品が本作『アレサ・ライヴ・アット・フィルモア』なのである。
ニューヨークを中心に活躍する
バックミュージシャンたち
彼女のヴォーカルの背景には
常にゴスペルがある
本作『アレサ・ライヴ・アット・
フィルモア』について
ギターはコーネル・デュプリー、ベースにはジェリー・ジェモット、ドラムはバーナード・パーディー、キーボードにアレサ(ピアニストとしてのアレサも素晴らしい)、トゥルーマン・トーマス、ビリー・プレストン、パーカッションにパンチョ・モラレス、ホーンにはキング・カーティスとメンフィス・ホーンズというミュージシャンを得て、サンフランシスコのフィルモア・ウエストで3日間のコンサートが行なわれた。その中から厳選された10曲が本作に収録されているのだ。
アルバムの1曲目は『貴方だけを愛して』の1曲目でもあった、彼女の名を全世界に知らしめたオーティス・レディングの名曲「リスペクト」で始まる。スタジオ録音と違って、彼女のヴォーカルにしても演奏にしても神がかっていると思えるほどの名演だ。普段のキングピンズは白人黒人を問わずヒット曲をインストで演奏する地方営業的なスタンスなのだが、アレサのヴォーカルが鼓舞しているからか、ここでは本気度100パーセントで鬼気迫る演奏を披露している。これでぶっ飛ばない音楽ファンはいないと思う…。
続いて、ステファン・スティルス(CSN&Y)の名曲「愛への讃歌」、サイモンとガーファンクルの「明日に架ける橋」、ビートルズの「エリナー・リグビー」、ブレッドの「二人の架け橋」と白人ファンへのサービスと思われるナンバーは続く(場所がロックファンのメッカ、フィルモア・ウエストだから)が、どれもアレサならではのゴスペルフィールにあふれたアレンジになっていて、原曲をなぞっているだけでなくちゃんと彼女のモノにしているところが素晴らしい。次の「ドント・プレイ・ザット・ソング」はLP時代はA面最後に収められていた。ベン・E・キングの大ヒット曲でアレサの代表曲のひとつでもある。
続く3曲「ドクター・フィールグッド」「スピリット・イン・ザ・ダーク」「スピリット・イン・ザ・ダーク(リプライズ:レイ・チャールズが飛び入り参加!)」はアレサのオリジナル曲で、ブルージーなゴスペル歌手としてのアレサが堪能できる。そして、アルバムのラストを飾るのはダイアナ・ロスのソロデビュー曲で、神の福音についての歌なので取り上げたのだと思われる。
余談であるが、アレサのバックを務めるキング・カーティス&キングピンズはこのコンサートに前座としても出演していて、彼らの単独のアルバムもリリースされている。それが『キング・カーティス・ライヴ・アット・フィルモア・ウエスト』(’71)で1曲目に収められた「Memphis Soul Stew」のパフォーマンスは、楽器をプレイする人間にとっては必聴の名演として知られている。僕自身、この「Memphis Soul Stew」は数百回を超えるぐらい聴いているが、何度聴いても新しい発見ができる名演だ。
これまでアレサを聴いたことがないという人は、ぜひ本作やアトランティックの諸作を聴いてみてください。おそらく、今まで経験したことのない新しい発見ができると思うよ♪
TEXT:河崎直人