70sロック最高のアルバム
と言っても過言ではない
ニール・ヤングの『ハーヴェスト』
グループ活動に向かない
ヤングとスティルス
スティルスは脱退後、アル・クーパーの『スーパーセッション』に参加したり、バーズを抜けたばかりのデヴィッド・クロスビーと合流、イギリスの人気グループであったホリーズのアメリカツアーで渡米したグレアム・ナッシュとも出会い、クロスビー・スティルス&ナッシュを結成するためにリハーサルを繰り返していた。そして69年、彼ら3人のデビュー作『CS&N』をリリースすると大きなセールスを記録、全米チャートでも6位となる。独特のコーラスワークを武器に、彼らはまったく新しいタイプのフォークロックグループとして、ウエストコーストロックの原型を作ったパイオニアである。彼らの存在がなければイーグルスもドゥービー・ブラザーズも登場していなかったかもしれない。それぐらい大きな存在なのである。
クロスビー・スティルス・ナッシュ
&ヤングとソロ活動の両立
そして、クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング名義でリリースされた『デジャ・ヴ』(‘70)は4人の個性が最大限に引き出された傑作中の傑作となったわけだが、同時進行で進められていたヤングのソロ第3作『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』もまた、ロック史に残る稀有な名作となっている。ここにきて、ヤングの天才ぶりが一般のリスナーの知るところとなり『デジャ・ヴ』と『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』の2枚が相乗効果となって、ヤングの名前は全米どころか世界中に轟くこととなる。しかし、『デジャ・ヴ』をリリース後、スティルスの薬物問題やバックメンバーの解雇などが重なり、CSN&Yは空中分解してしまう。ヤングの予言が的中したのかどうかは分からないが、結果的にライヴ公演の模様を収めた『4ウェイ・ストリート』(’71)が彼らの最後のアルバムとなった。
本作『ハーヴェスト』について
帰宅するや否や本作を聴いたのだが、こんなに良いアルバムだとは思わなかったというのが本音であった。なぜって、『デジャ・ヴ』も『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』も聴いていて、どちらも素晴らしかっただけに、そんなに良いアルバムが続けて出せるはずはないだろうと、子供のくせにそう思っていたからだ。しかし、本当にその2枚よりも本作のほうが良かったのである。『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』はもちろん良かったけれど、アルバムの空気が重かったし暗かった。パワーに満ちた思春期の若者はもっとパワフルなエネルギーを感じたかったのかもしれない。その点、『ハーヴェスト』には前作にはないそこそこのキャッチーさがあった。とはいっても、売れ線のヒット狙いではなく、リスナーに媚びない頑固さが感じられる作品である。
名曲「孤独の旅路」(アルバムもシングルも全米1位となった)をはじめ、前作収録の「サザンマン」的テイストのハードな「アラバマ」や「歌う言葉」が入っている。カントリーロックの「週末に」「ハーヴェスト」「オールドマン」もいいし、ビートルズの「ロング・アンド・ワインディング・ロード」っぽいドラマティックな「男は女が必要」や映画音楽のような「世界がある」も、スワンプロック仕立ての「国のために用意はいいか?」、静かなフォークの「ダメージ・ダン」から切れ目なく「歌う言葉」へと繋がる部分は何度聴いてもしびれる。
本作のバックを務めるのはストレイ・ゲイターズ。ナッシュビルの名セッションマンばかりで構成されている。ドラムはエリアコード615のケニー・バットレー、ベースはジェームス・ブラウンのバックを務めたこともあるマザー・アースのティム・ドラモンド、ペダルスティールにはハングリー・チャックでもお馴染みのベン・キースが担当している。彼らを使うには相当なギャラが発生したと思うが、その甲斐あって全編文句なしの演奏である。ニール・ヤングの歌とギターもエモーションにあふれる名演揃いで、何度聴いても非の打ちどころのない作品だ。“名盤”という言葉は本作のようなアルバムにこそ相応しい。
余談だが、「孤独の旅路」のバックヴォーカルにはリンダ・ロンスタットとジェイムス・テイラーが参加していて、彼らの声がしっかり判別できるので、それを聴き分けるのも楽しい作業である。カーリー・サイモンの大ヒット曲「うつろな愛」のバックでミック・ジャガーの声が聴けて嬉しかった覚えのある人は、こちらも楽しめるはず。
もし、これまでニール・ヤングを聴いたことがないのなら、とりあえずは『ハーヴェスト』か『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』のどちらかを聴いてもらいたい。この2枚はニール・ヤングの入門編であり上級編でもあるので、50年ぐらいは楽しめると思います♪ これを機会にぜひ!
TEXT:河崎直人